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受動★(11/11)

男が手にしている張り型は、通常の男性器のサイズよりも一回りは大きいだろう。
不気味に黒光りする、粘性の液体を纏った玩具を手に、彼は俺の背後に回る。
思わず反らした身体は呆気なく引き寄せられ、まず、前戯の為の玩具が取り去られた。
「オレも、こんなの入れられたんですよ・・・創さんの、オンナ、に」
恨み節が耳元で囁かれ、異物が尻を撫でていく。
「これくらい我慢して貰わないと、オレの、入んないかも」
期待と恐怖、今ならまだ、快楽に引き摺られた期待の方が、大きい。
受け入れる心の準備の為に、一つ、溜め息をついた。

「ひっ・・・」
想像以上の苦痛が、脳天を激する。
めり込む、まさにその言葉が示すように、全身を窮屈な刺激が駆けた。
上半身を抱えるように回された腕と、背中に密着する身体の感触に必死で縋る。
眼を閉じた暗い視界の中に、しばらくの間、無数の星が舞っていた。

頬に添えられた手に呼ばれ、ゆっくりと振り向く。
潤んだ視界の先には、不安げな深山の顔があった。
吸い寄せられるように唇を重ねる。
「楽にして」
優しげな囁きと相反する責めが身体を酷く戸惑わせる。
瞬きをする毎に理性が流れ、男の顔がより一層愛おしく見えてくる。
痛みで萎れたはずの性器は、その手で愛撫されることにより性感を取り戻し、強張る場所を解していく。

うなじを彼の舌が這い、上半身が僅かに仰け反る。
腰が持ち上げられた動きを借りるよう、彼は緩み始めた穴を静かに穿ち
抜き差しが繰り返される内に、苦痛は快感に覆われていく。
「・・・ん、あぁ」
今まで理性に阻まれて身体の内側にしか響かなかった声が、衝動に押し出される。
今まで誰にも見せたこと無い本能が、彼の前だけで、露わになる。


拘束を解かれた身体は、すぐには重力に抗うことが出来ず、床に沈んだ。
ネクタイを緩めただけの男は、俺を見下ろしながら下半身の衣服だけを脱ぐ。
勃起した男性器は確かに、玩具ほどの勢いがあるように見えた。
軽く手を添えられた腰を持ち上げ、その場所を、男に向ける。
「中に、出して良いですか」
容赦なく罰して欲しい、その願いが、もうすぐ成就する。
そう思いながら、頷きを返した。

明らかに人工の物とは異なる感触が、体内に入り込み、侵していく。
二人の息遣いと、身体がぶつかり合う音だけが空間を支配し
程なく、彼の絶頂と共に、自分の精液が床に飛び散っていった。


知らぬ間に眠ってしまった意識を覚まさせたのは、男の静かな嗚咽だった。
「・・・どうした?」
屈んだ背中に手を伸ばし、そっと撫でる。
僅かにびくついた身体は一つ息を飲み込み、こちらへ振り向いた。
幾筋もの涙に濡れた顔は今にも崩れ落ちそうで、俺の心までも不安にさせる。
半身を起こしかけたその時、彼の身体は動きを制するかのように俺の上へ覆い被さり
数秒見つめ合った後で、唇が重ねられた。
「深山・・・?」
眉間に皺を寄せ、口元を歪める男の頬に手を添える。
「赦さない」
揺らぐ声に、思考が一瞬止まった。
その結論が心に沁みていくのを待たずに、彼は更に言葉を投げる。
「好きだから、離れたくないから・・・赦さない、一生」

心の中で待ち望んでいた、けれど、あまりに非現実的な言葉。
金髪の男が呟いた時とは違う、恐怖にも似た衝撃が頭の中に走った。
涙の理由は、背徳の感情への自責なのか。
目尻を下げ、口角を歪めた男の顔を、自分の方へ引き寄せる。
「・・・分かった」
胸元に心地の良い重さを感じながら、頭をゆっくりと撫で、後輩と自分の気持ちを宥めていく。
「それでいい」
痛みだけを刻みつけるはずだった身体に、彼の涙が沁みて
やっと、罪悪感に埋もれていた気持ちを、引き摺り出せるような気がした。
「一生かけて、償っていくから」


『Re:  』
泣き疲れて眠ってしまった男の横で、そんなタイトルのメールを目にする。

――― この間、保釈になったんだ。
――― そのついでに、大阪に行ってくる。
――― ちょっと、人の手伝いをすることになったから。

短文と一行ごとに空けられたスペースが、若者らしさを強調する。
それでも、彼が第三の選択肢を選んだのであろう覚悟が、画面から伝わってきた。

――― 今、ハジメの傍には誰がいる?
――― オレの傍には、いつでもハジメがいるよ。

添付されていた画像には、彼の二の腕に張り付いたトンボが映っている。
これで、寂しい思いをさせることは無い。
身勝手な思いが去来して、結局俺は、最後まで彼を裏切り続けたのだと、思い知らされた。


あいつと待ち合わせる夜は、何故か雨の日が多い。
約束の時間が迫り、傘を差したまま小走りで裏路地を抜ける途中
擦れ違った金色の気配に、ふと足を止めた。
いるはずがない。
仲間と愉しげに夜を楽しむ見知らぬ男を見送りながら、一つ溜め息をついたものの
俺に絡みついていたはずの糸が少しずつ解れているのも、確かだった。

窓の外から店の中を窺うと、ソファに座った彼は、視線を宙に泳がせて何かを考えている風だった。
想いを馳せている先は、過去か、未来か。
もしかしたら、昔の恋人のことなのかも知れない。
傘に当たる雨音が徐々に大きくなり、窓の向こうの男が顔を上げる。
忘れろとは言わない、けれど、今は、俺だけを見ていて欲しい。
そんな感情を載せた微笑みに、彼は柔らかな表情を返してくれた。

今夜も、彼と本能を曝し合う時間がやってくる。
二人を繋ぐか細い糸は、まだ絡まり始めたばかりだ。

□ 90_能動★ □
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□ 92_受動★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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