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能動★(9/11)

電話の向こうから、裏返りそうなくらい不安定な声がポツリポツリと流れてくる。
「知らなかったんだ。あいつらが、何を企んでたのか・・・気が付けなかった」

俺があの部屋で無残な時間を過ごしていた時、彼は、別の場所で情事を楽しんでいた。
一方的に好意を寄せられていて、断りきれなかったと言っているが
つまらない嫉妬心が邪魔をして、素直に受け取ることは出来なかった。

相手が部屋を出たのは、夜の11時前。
彼の携帯に女からメールが届いたのは、そのすぐ後のことだそうだ。
『そっちはどう?こっちは最高よ』
ハートマークのびっしりと並んだ文面と、一つの動画。
そこに映っていたのは、複数の男女に蹂躙される後輩の姿だった。

「状況だけ、やっと飲み込んで、それからのことは・・・あんまり、覚えてない」
怒りで我を忘れたまま、彼は例の部屋へ向かう。
エレベーターを降り、玄関を抜け、馬鹿騒ぎの声が聞こえるドアを開ける。
気が付いた時には誰かに羽交い絞めにされていたというから、それなりの暴力沙汰になったのだろう。
部屋の隅で震えている女のスマートフォンを酒瓶で滅茶苦茶に壊したことは、確かに覚えているらしい。
「どいつもこいつも、グルだった。オレだけが、知らなかった」
俺の電話番号は、女との情事の際に盗られたのだろうと彼は言った。
「・・・信じて貰えないだろうことは、覚悟してる」
途切れ途切れの呟きが、やがて細かな嗚咽に変わる。
「結局お前を、あんな目に遭わせたのは、オレの所為なんだから」

信じる根拠は無い。
でも、信じない理由も無い。
宙に浮いた憎悪をどうすれば良いのか、そう考える内に、彼への同情心が芽生えてくる。
やっぱり、俺はまだ、彼を諦めきれない。

「クスリはやってないって、本当ですか」
「オレは、やってない。売り買いしてんのは・・・知ってたけど」
「会社は、辞めるんですか」
「・・・来月には、辞める」
「次に行くとこ、決まってるんですか」
「課長・・・渡邉さんに、紹介して貰って・・・昨日、決まった」
短い応答を繰り返しながら、気持ちを整理する。
俺は、彼と、どうなりたいのか。
その為には、どうすれば良いのか。

「男と付き合ってるって・・・聞きました」
忘れ去りたい時間の中で、唯一、強烈に焼きついた言葉を問うてみた。
短い声を上げた彼は、再び沈黙の息遣いに変わる。
「あの女が、言ってました。創さんが、男に走ったって」
「付き合ってる、訳じゃ、無い。ただ・・・酔った、勢いで」
「酔ったら男とヤれるんですか」
「それは・・・」
手繰り寄せた糸に、手応えを感じる。
少し、身体の奥が熱くなったような気がした。
「それって、酔ったら、オレとでも出来るってことですよね」
電話の向こうから響いてきた溜め息には、困惑と恐怖が混ざり込んでいるようで
俺は、彼の心の奥底にある罪悪感に付け込んでいるのだと、気付かされる。
これに乗じて、このまま、全て攫ってしまいたい。
「一回、あの時の俺の気分、味わってみませんか?」
それで、何もかも赦してやる。
彼にはきっと、そう聞こえたのだろう。
分かった、と答えた声は、消え入りそうな程微かで震えたものだった。


男と再会したのは、急に冷え込んだ秋の夜、小雨が降る裏通りだった。
ここに来る時は、何故だか雨模様の日が多い。
激情が行き過ぎないようにと、見えない力でも働いているのかも知れない。

薄手のコートを纏った彼の風貌は、真夏の太陽に照らされていた頃とはまるで変っていた。
短めの黒髪に、痩せ細った身体。
長身であることも相まって、幾分病的にも感じられるほどだった。
「体調、悪いんですか?」
「大丈夫。ちょっと・・・食欲が無いだけだから」
伏し目がちに答える男は、恐らく素面のはずだ。
「何処かで、飲んでからにします?」
「いや、このままで・・・良い」


その光景は、彼の恐怖心を煽るのには十分だっただろう。
赤を基調とした部屋の中には、磔台や拘束用の櫓、拘束椅子などが置かれており
天井から設置されたレールからは、何本もの鎖が吊り下がっている。
中年の男とのプレイでも使わない、拷問部屋と呼ばれるプレイルームの一つ。
入口から少し離れた場所で立ち尽くす男は、視界の中にある現実をどう受けていたのか。
「いつも、自分優位のセックスをしてるんでしょうけど」
扉に鍵をかけながら、小さくなった背中に声を掛ける。
「ここでは、俺が上ですから」

肩に手をかけて振り向かせた男の顔は、悲壮な表情を浮かべていた。
「俺が病室で言ったこと、覚えてますか」
見上げる視線を受け止める眼が、落ち着かない。
覚えていないことは無いのだろう、ただ、その真意が分からなかっただけで。
「片想いじゃ、満足できない。淡いままで、終わらせたくない」
襟元を掴み、頭を眼前に引き寄せた。
「創さんの、本能が、見たい」
強張る彼の唇に、自分の唇を重ねる。
数回触れ合わせ、細切れになった吐息を絡ませながら、徐々に開いていく割れ目を舌で撫でた。
誘い出されてくる舌を、舌先で突き、擦り合わせる。
眉間に皺を寄せ、眼を歪ませたまま、彼はその行為を受け容れていた。

□ 90_能動★ □
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□ 92_受動★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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