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受動★(4/11)

雨は降っていないものの、湿気を含んだ熱気がアスファルトから上ってきて
じっとりとした空気が、ワイシャツの感触を不快なものにする。
騒動の一端となった社長からの廃業を報せるメールを関係者に転送し、一悶着を乗り越えた夜。
礼も兼ねて後輩を飲みに誘ったのは、いつもの見慣れた街だった。
いかがわしい世界に誘い込む気は毛頭なかったが
俺が普段どんな環境で過ごしているのか、少し、知って貰いたいという気持ちはあったと思う。

「ここ、よく来るんですか?」
非日常に足を踏み入れる前に立ち寄るバルは、いつものように騒がしい雰囲気に包まれている。
あまり経験の無い環境なのか、向かいに座る深山の様子はやや落ち着かないように見えた。
「ああ、この先に風俗街に親方のお気に入りがあってさ」
取り繕う為の嘘は、これで何回目だろう。
「腹ごなしに寄って以来、よく来てるんだ」
どうでもいい連中になら幾らでも饒舌になれるのに、この男には、それが出来ない。
「ちょっと寄ってく?」
予定調和の質問を、流れで口にする。
「いや、オレは、止めときます」
そうして、期待通りの答が返ってきて、何故だかホッとする。

華のある容姿ではないが、女ができない要素も見当たらない。
けれど、平日も遅くまで残業し、土日に出社していることも珍しくない。
「シロートで手一杯って?羨ましいね」
浮いた話の一つでも出てこないかと、カマをかけてみる。
「そういう訳でも、ないですけど」
若干乗り気のしないような声で彼はそう答え、手元の酒を呷る。
「創さんだって、シロートさん、何人もいるんでしょ?」
関係の定まった相手なんて、もう何年もいないし
捻じれた空間で戯れる女達は、彼が示すシロートの範疇には入らないだろう。
「人聞きの悪いこと言うなって。もう、ずっとご無沙汰だよ」
「はぁ・・・そうですか」

酒が回り始めると、場の雰囲気が仕事の延長ラインを超え始めてきて
互いの表情に牽制の仕草が見えてくる。
「お前幾つだっけ?」
「今年で、28ですかね」
「良い頃合いじゃん。結婚して、子供でも出来れば、仕事のモチベーションも上がるだろうし」
横浜の若い奴らは、皆早婚だった。
入社2、3年目、仕事の内容や金の回り方が徐々に分かり、将来のビジョンが望める頃。
一人前として独り立ちする時分には、もう一人家族が増えている。
そんな絵に描いたような人生を多く見てきたからか
興味無さげに俺の話を聞く後輩に対して、何となく違和感すら覚えていた。
「そうはいっても、なかなか。相手も、タイミングも」
「自分から探しに行かねぇと、さ。降ってはこねーぞ?」
「分かってますけど、何か面倒くさくて。・・・そういう創さんはどうなんですか?」
苦笑しながら、彼は当然のようにこちらへ質問を投げ返してくる。
「ん~?オレは・・・あんま、考えたことねーな。一人で良いかって思ってる」
一時の浮ついた想いに駆られ、衝動のままにセックスをする。
まともな恋愛をしてこなかったツケが返ってきているのだと気が付いたのは、もう随分前だ。
誰か降ってくるのを待っているのは、俺も同じなのかも知れない。
「不毛だな。言葉に全然説得力ねぇわ、お互い」


深山の視線が、煙草を咥える俺を外れて背後に滑る。
「ハジメ?」
露骨に作られた声色が耳に届いた。
この時間はもう、客の相手をしているはずだと、訝しみながら顔を傾ける。
「ああ・・・店は?」
「これから行くところ。お客さんと一緒なの。・・・こちらは?」
「会社の、後輩」
「深山です。どうも」
外面だけは申し分ない女に、彼は酷くニュートラルな態度で挨拶をする。
どうやら、お眼鏡には叶わなかったようだ。
「ハルカです。ハジメとは同じ高校で・・・幼馴染みたいな、ね」
一方の女は、若い男にそれなりの興味を示している。
俺の肩口に手を伸ばしながら、違う男を夢想しているのだろう。
「可愛いじゃない。今度、連れてきなさいよ」
近づいてきた唇が、不穏な言葉を耳に吹きかける。
有り得ない、そう口にするよりも早く、彼女は卑しい笑みを浮かべて去っていった。

後輩の視線は女の姿を数秒目で追い、やがて正面に戻ってくる。
「彼女さんですか?」
言葉の中に、納得の意が透けて見えた。
あの女と同じ穴の貉なのだと、他人の認識を突きつけられるようで辛かった。
「・・・いや、ただの・・・元カノだよ」


唇から滲みてくる酒の匂いが、より一層気分を気怠くする。
「ねぇ・・・ミヤマくん、連れてこないの?」
「あいつは、こんなところに来る人間じゃねぇから。俺で我慢しておけよ」
「ハジメは、タケルの方が良いんでしょ?」
俺の身体の上で腰を振り、一人で快楽を味わう女は、嫉妬を隠さずにそう言い放つ。

タケルと共に過ごす時間が増えるにつれ、たむろしている連中から妬みをぶつけられることが増えてきた。
セックスを代償に、クスリを安く手に入れている。
まことしやかな噂が流れるようになってから、この部屋で金髪の男と顔を合わせることは止めた。

「ああいう子、一人、欲しかったのよね」
上半身を倒し、柔らかな二つの塊を胸元に押し付けたまま、彼女は腰を前後に振る。
「・・・手ぇ出したりしたら、赦さないからな」
不快感が性感を上回り、ただ性器が膣に擦り付けられる感触だけが残った。


「ハジメ、これ忘れてるわよ」
帰り際、ハルカはそういって俺のスマートフォンを差し出してくる。
ここに来てから取り出した記憶はなかったが、何処かで落としたのかも知れない。
「来週は、タケルと約束があるんでしょ?」
「・・・関係ないだろ」
「他人の恋路を邪魔するのも悪いし・・・こっちも可愛い子呼んで、楽しむことにするわ」

□ 90_能動★ □
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□ 92_受動★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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