能動★(5/11)
銀と逢瀬を交わすようになってすぐ、興味本位で手に入れたセックスドラッグを持っていったことがある。
その頃流行っていたもので、安価でそれなりに効き目があるとの触れ込みだった。
しかし、軽い気持ちで差し出したそれを見た男は、眉を顰めて俺を見た。
「そんなものに頼らないと僕の身体に触れられないのなら、もう、こんなことは止めようか」
思いも寄らない重い発言に、自然と手を下げる。
「ごめん。気持ち良く、なるっていうから・・・どうなのかなって、思って」
「確かに、そうかも知れない。けど、僕は紛い物の本能なんて、求めてない」
言葉を失った俺の手から小瓶を取り上げた彼は、蓋を開け、中身をトイレへ流す。
「お金は払うよ。でも、もう二度と、手を出しちゃダメだ」
「・・・分かった」
差しのべられた手を取ると、身体は引き寄せられ、彼の腕の中に納まる。
「僕は、ありのままの君で十分満足してる。君にも、そうあって欲しい」
あの時、瓶の口から漂ってきた甘苦い匂いが、今、器官を通って喉まで沁みる。
混乱も重なった心が、激しく動揺した。
薄くなっていく意識の中で、身体中に衝撃と痛みが走り、抵抗する気力が削がれていく。
いつの間にか灯りの点いた部屋の中には、複数の男女と大きなベッドが見えて
言葉を発することも出来ないまま自由を奪われた身体が、抱え上げられ、舞台に載せられた。
俺の上に跨ってきた女は、顔を厭らしく歪め、そのまま唇を奪う。
蕩けそうな位の感触は、信じられないほど不快だった。
「乱暴しちゃって、ごめんなさいね」
心非ずの言葉を放ちながら、女は上半身に纏っていた服を脱ぎ去る。
頭の方に座る男が、抵抗しようともがく腕を掴んだ。
「イイ女がヤりてぇって言ってるんだから、ジタバタすんなよ」
「・・・どういう、ことだ」
「ハジメが言ったのよ。キミと、ちょっと仲良くなりたいな~って言ったら、こうすれば良いって」
日常的に向けられていた男の笑顔が頭を過る。
そんなこと、有り得ない。
これまでの関係は、一体、何だったのか。
信じていた俺が、悪いのか。
「ちょ~っと強引だったけど・・・大丈夫、最高にハッピーにしてあげる」
頭上から伸びてきた手に頭を押さえつけられ、口の中に金属の器具が押し込まれる。
女の手がTシャツを捲り上げ、強張る上半身を撫でていく。
徐々に虚ろになっていく視界に男の影が映り、目の前に露わになった性器が差し出された。
「オレ達にも楽しませてくれるだろ?」
息つく暇も無く咥内が他人のモノで満たされた時、俺は、全てを諦めた。
ずっと、眼を閉じていた。
自分の口で勃起を促したそのモノで、男と女が愉しむ声が聞こえる。
自分の性器をしゃぶり、美味しいとくだらないことを言う女の声が聞こえる。
身体は確実に浮かされていて、無理矢理開かされている口から乾いた呻き声が漏れていく。
粘性の液体が身体中を覆い、手や玩具に弄られる毎に示す反応が奴らを悦ばせていると思うと
悔しくて、情けない。
増幅された性感が脳を刺激する度に、これは紛い物の本能なのだと、言い訳を繰り返した。
急に身体が裏返され、腰が持ち上げられる。
既に上半身には力が入らなくなっており、顔をシーツに埋めるのが精一杯だった。
腰回りに垂らされたローションを尻の方まで塗り拡げているのは、明らかに女の手。
「ハルカ、そんな趣味あんのかよ」
「だって、カレ、可愛いから。ちょっと、犯してみたいな~って」
女が言葉を吐くと同時に、偽物の感触が股間に当たる。
「ミヤマ君、エッチな声、いっぱい聞かせてね」
入り込んできた異物が全身に痛みを駆け巡らせる。
声にもならない悲鳴が、ベッドに吸い込まれていった。
眼の奥がチカチカと点滅を繰り返し、鼓動が乱れ、思考が弾け飛んでしまいそうになる。
矢庭に頭が持ち上げられ、勃起した男のモノが目の前に現れた。
汗とも涙ともつかない液体が頬を流れていくのを見たのだろう。
「泣くほど気持ち良いのか?良いペット手に入れたなぁ」
屈辱で折れた心に追い打ちをかけながら、奴は自らの性器を俺の口に突っ込んだ。
前後から突かれる身体が、串刺しにされたような感覚に堕ちていく。
このまま意識を失ってしまえれば、どんなに良いだろう。
そう願いながら流されていた俺を、突然暴発した男の精液が攫った。
器具の所為で飲み込むことも出来ない液体が、無残に開いた口から唾液と共に流れ落ちる。
「やだ、イっちゃったの?」
「こいつの腰、すげーやらしいからさぁ、ちょっと興奮したわ」
「ちょっと、ハジメみたく男に走るのは、勘弁してよ」
耳に刺さった信じがたい言葉を引き摺りながら、身体が再び仰向けにされる。
無様に屹立した性器を舌で突きながら、女は淫らな視線を投げた。
「お尻犯されて、こんなにビンビンになっちゃうんだ」
俺に跨り、自らの愛液を性器に纏わせながら、やがてモノを飲み込んでいく。
「・・・ナカに出して、良いからね」
下品な水音と共に締め付けられていく部分が、絶頂へと逸る。
そこには汚辱しかないはずなのに、無数の襞の中で擦り合わされる刺激は現実で
数分後、俺は、彼女の中で果てた。
部屋を出たのは、夜も大分更けた辺りだったと思う。
「ねー、タケルが新しいの、持ってきてくれたってよ」
何処かから聞こえてきた女の声で、周囲の連中の態度が一気に色めき立つ。
遊び飽きた子供がおもちゃを放りだすように、間もなく、部屋から人の気配が消えた。
拘束は、全て解かれている。
この場を離れるのは今しかないと、這うように外へ出た。
あの一言がなければ、俺は一晩中、慰み物として弄ばれていたのかも知れない。
上がってくるエレベーターのランプを見て思わず非常階段へ逃げ込む。
自分以外の他人と顔を合わせるのが、とにかく怖かった。
やや涼しさを含んだ夜風に曝されながら、一歩一歩階段を下りる。
飛び降りたら、すぐに降りられるじゃないか。
依然として狂わされた意識を、頭を振って追いやった。
痛む身体を引き摺り、何とか忌まわしい建物を離れ、最寄駅に辿り着く。
幸い、最終電車にはまだ間に合う時間だった。
とにかく、家に辿り着こう。
一晩寝たら、幾許かでも、落ち着くはずだ。
でも、明後日の朝、あの男と顔を合わせた時、俺はどんな態度を取れば良いのか。
俺を売った、あの男は、どんな顔をして俺に声を掛けてくるつもりだろう。
携帯の着信と、電車の到着を報せるアナウンスが流れたのは、ほぼ同時だった。
罠を仕掛けた男の名前が、ディスプレイに記されている。
そこまでして、俺を、貶めたいのか。
どうして、俺を、裏切った。
気持ちの中で何かが切れた瞬間、足がふらつき、身体が傾く。
絶望感に翻弄され、身体から力が抜ける。
危ない、と誰かの叫び声が聞こえた瞬間、激しい衝撃と共に、視界が闇に包まれた。
□ 90_能動★ □
■ 1 ■ ■ 2 ■ ■ 3 ■ ■ 4 ■ ■ 5 ■ ■ 6 ■ ■ 7 ■
■ 8 ■ ■ 9 ■ ■ 10 ■ ■ 11 ■
□ 92_受動★ □
■ 1 ■ ■ 2 ■ ■ 3 ■ ■ 4 ■ ■ 5 ■ ■ 6 ■ ■ 7 ■
■ 8 ■ ■ 9 ■ ■ 10 ■ ■ 11 ■
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その頃流行っていたもので、安価でそれなりに効き目があるとの触れ込みだった。
しかし、軽い気持ちで差し出したそれを見た男は、眉を顰めて俺を見た。
「そんなものに頼らないと僕の身体に触れられないのなら、もう、こんなことは止めようか」
思いも寄らない重い発言に、自然と手を下げる。
「ごめん。気持ち良く、なるっていうから・・・どうなのかなって、思って」
「確かに、そうかも知れない。けど、僕は紛い物の本能なんて、求めてない」
言葉を失った俺の手から小瓶を取り上げた彼は、蓋を開け、中身をトイレへ流す。
「お金は払うよ。でも、もう二度と、手を出しちゃダメだ」
「・・・分かった」
差しのべられた手を取ると、身体は引き寄せられ、彼の腕の中に納まる。
「僕は、ありのままの君で十分満足してる。君にも、そうあって欲しい」
あの時、瓶の口から漂ってきた甘苦い匂いが、今、器官を通って喉まで沁みる。
混乱も重なった心が、激しく動揺した。
薄くなっていく意識の中で、身体中に衝撃と痛みが走り、抵抗する気力が削がれていく。
いつの間にか灯りの点いた部屋の中には、複数の男女と大きなベッドが見えて
言葉を発することも出来ないまま自由を奪われた身体が、抱え上げられ、舞台に載せられた。
俺の上に跨ってきた女は、顔を厭らしく歪め、そのまま唇を奪う。
蕩けそうな位の感触は、信じられないほど不快だった。
「乱暴しちゃって、ごめんなさいね」
心非ずの言葉を放ちながら、女は上半身に纏っていた服を脱ぎ去る。
頭の方に座る男が、抵抗しようともがく腕を掴んだ。
「イイ女がヤりてぇって言ってるんだから、ジタバタすんなよ」
「・・・どういう、ことだ」
「ハジメが言ったのよ。キミと、ちょっと仲良くなりたいな~って言ったら、こうすれば良いって」
日常的に向けられていた男の笑顔が頭を過る。
そんなこと、有り得ない。
これまでの関係は、一体、何だったのか。
信じていた俺が、悪いのか。
「ちょ~っと強引だったけど・・・大丈夫、最高にハッピーにしてあげる」
頭上から伸びてきた手に頭を押さえつけられ、口の中に金属の器具が押し込まれる。
女の手がTシャツを捲り上げ、強張る上半身を撫でていく。
徐々に虚ろになっていく視界に男の影が映り、目の前に露わになった性器が差し出された。
「オレ達にも楽しませてくれるだろ?」
息つく暇も無く咥内が他人のモノで満たされた時、俺は、全てを諦めた。
ずっと、眼を閉じていた。
自分の口で勃起を促したそのモノで、男と女が愉しむ声が聞こえる。
自分の性器をしゃぶり、美味しいとくだらないことを言う女の声が聞こえる。
身体は確実に浮かされていて、無理矢理開かされている口から乾いた呻き声が漏れていく。
粘性の液体が身体中を覆い、手や玩具に弄られる毎に示す反応が奴らを悦ばせていると思うと
悔しくて、情けない。
増幅された性感が脳を刺激する度に、これは紛い物の本能なのだと、言い訳を繰り返した。
急に身体が裏返され、腰が持ち上げられる。
既に上半身には力が入らなくなっており、顔をシーツに埋めるのが精一杯だった。
腰回りに垂らされたローションを尻の方まで塗り拡げているのは、明らかに女の手。
「ハルカ、そんな趣味あんのかよ」
「だって、カレ、可愛いから。ちょっと、犯してみたいな~って」
女が言葉を吐くと同時に、偽物の感触が股間に当たる。
「ミヤマ君、エッチな声、いっぱい聞かせてね」
入り込んできた異物が全身に痛みを駆け巡らせる。
声にもならない悲鳴が、ベッドに吸い込まれていった。
眼の奥がチカチカと点滅を繰り返し、鼓動が乱れ、思考が弾け飛んでしまいそうになる。
矢庭に頭が持ち上げられ、勃起した男のモノが目の前に現れた。
汗とも涙ともつかない液体が頬を流れていくのを見たのだろう。
「泣くほど気持ち良いのか?良いペット手に入れたなぁ」
屈辱で折れた心に追い打ちをかけながら、奴は自らの性器を俺の口に突っ込んだ。
前後から突かれる身体が、串刺しにされたような感覚に堕ちていく。
このまま意識を失ってしまえれば、どんなに良いだろう。
そう願いながら流されていた俺を、突然暴発した男の精液が攫った。
器具の所為で飲み込むことも出来ない液体が、無残に開いた口から唾液と共に流れ落ちる。
「やだ、イっちゃったの?」
「こいつの腰、すげーやらしいからさぁ、ちょっと興奮したわ」
「ちょっと、ハジメみたく男に走るのは、勘弁してよ」
耳に刺さった信じがたい言葉を引き摺りながら、身体が再び仰向けにされる。
無様に屹立した性器を舌で突きながら、女は淫らな視線を投げた。
「お尻犯されて、こんなにビンビンになっちゃうんだ」
俺に跨り、自らの愛液を性器に纏わせながら、やがてモノを飲み込んでいく。
「・・・ナカに出して、良いからね」
下品な水音と共に締め付けられていく部分が、絶頂へと逸る。
そこには汚辱しかないはずなのに、無数の襞の中で擦り合わされる刺激は現実で
数分後、俺は、彼女の中で果てた。
部屋を出たのは、夜も大分更けた辺りだったと思う。
「ねー、タケルが新しいの、持ってきてくれたってよ」
何処かから聞こえてきた女の声で、周囲の連中の態度が一気に色めき立つ。
遊び飽きた子供がおもちゃを放りだすように、間もなく、部屋から人の気配が消えた。
拘束は、全て解かれている。
この場を離れるのは今しかないと、這うように外へ出た。
あの一言がなければ、俺は一晩中、慰み物として弄ばれていたのかも知れない。
上がってくるエレベーターのランプを見て思わず非常階段へ逃げ込む。
自分以外の他人と顔を合わせるのが、とにかく怖かった。
やや涼しさを含んだ夜風に曝されながら、一歩一歩階段を下りる。
飛び降りたら、すぐに降りられるじゃないか。
依然として狂わされた意識を、頭を振って追いやった。
痛む身体を引き摺り、何とか忌まわしい建物を離れ、最寄駅に辿り着く。
幸い、最終電車にはまだ間に合う時間だった。
とにかく、家に辿り着こう。
一晩寝たら、幾許かでも、落ち着くはずだ。
でも、明後日の朝、あの男と顔を合わせた時、俺はどんな態度を取れば良いのか。
俺を売った、あの男は、どんな顔をして俺に声を掛けてくるつもりだろう。
携帯の着信と、電車の到着を報せるアナウンスが流れたのは、ほぼ同時だった。
罠を仕掛けた男の名前が、ディスプレイに記されている。
そこまでして、俺を、貶めたいのか。
どうして、俺を、裏切った。
気持ちの中で何かが切れた瞬間、足がふらつき、身体が傾く。
絶望感に翻弄され、身体から力が抜ける。
危ない、と誰かの叫び声が聞こえた瞬間、激しい衝撃と共に、視界が闇に包まれた。
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