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受動★(2/11)

玄関に通じる廊下へ出ると、幾分まともな空気が肺の中を通っていった。
夜中の2時を回っても、部屋の中では人為的に作られた快楽に溺れる男女が群れている。
嵌ったら抜け出せない。
それが分かっているからこそ、手を出さないでいるけれど
一度、どん底まで沈んでみるのも良いんじゃないか、そんな風に思うこともある。

玄関の扉に手を掛けるよりも早く、扉の向こうから来客が顔を出す。
「あ、ごめん」
「いや、大丈夫」
金髪で、左耳に幾つものピアスを付けた男。
ここに通い始めて半年以上が経つが、この顔を見るのは初めてだった。
「もう、帰るんだ?」
「いつも、大体このくらいの時間には」
「そっか。オレ、夜行性だからさ。いつもは、もっと遅いんだ」
人懐っこい顔をして微笑んだ男は、肩から下げたトートバッグを床に置いて靴を脱ぐ。
4~5歳ほど年下であろう彼の柔らかな表情は、何処か、会社の後輩に似ていると思った。

「新しいの持ってきたんだけど、試してみない?」
廊下の端に寄り、やり過ごそうとする俺の前に男が立つ。
「今日は、やめとく」
俄かに近づいてくる彼との間に取ろうとした背中が、後の壁に阻まれる。
「オレは、タケル。・・・名前は?」
「ハジメ」
「これからは、もうちょっと、早く来ようかな」
「・・・何で」
目を細めて微笑む顔が、あまりにも自然に近づいてくる。
避けられることも出来たのに、避けなかった。
軽く重なった唇を触れ合せたまま、彼は囁く。
「もっと、ゆっくり、ハジメとキスしたいから」
首に絡みついてくる腕が、俺の頭を抱えるように彼の方へと引き寄せる。
「男は、無理?」

同性愛に嫌悪感がある訳では無かったが、敢えて踏み込もうと思ったことも無い。
「・・・分かんない」
ただ、彼のアプローチに僅かな動揺を覚えていて、拒絶する言葉は浮かんでこなかった。
「一目惚れしちゃった」
「俺に?」
「そう。オレの超好みのタイプ」
「クスリで良く見えてるだけじゃねぇの?」
「オレ、クスリはやんないんだよね。売るだけ」
相変わらずの柔和な表情で、男は俺の顔を唇で何度も愛撫する。
あいつが金髪に染めたら、こんな風になるんだろうか。
何が二人の男を結び付けているのかは分からなかったけれど
自分だけが映った瞳を見る度に、頭の中に別人の残像が過っていって、妙な罪悪感が沸いた。


麻薬を売りさばく為の部屋。
ペントハウスの形式上のオーナーである若い男は、悪びれも無く言った。
「オレは中間業者だから、上のことも下のことも、よく知らないけどさ」
池袋にあるという元締めから受け取った麻薬を、クラブや風俗の関係者に流すのが彼の役目。
もちろん、全ての顧客の個人情報は徹底的に管理されており
余分なマージンを抜いているような輩には、他のルートから制裁が下るようになっているらしい。

ドラマや小説の中の世界だと思っていた日常が、すぐ隣にある現実。
初めて出会ってから2週間後の夜、喧騒に塗れた部屋を抜け出して二人で訪れたホテルの中で
間もなく、俺もその時の流れに足を踏み入れるのだと、感じていた。

シャワーブースから出てきた彼の身体には、左の二の腕から胸元にかけて蜘蛛の巣のタトゥーが入っていた。
白い肌に広がる幾重もの網に目を奪われていると
その視線を察知したのか、彼は細線をなぞる様に自らの肌に指を滑らせ、意味ありげに俺を見る。
「一度捕まえた男を逃がさないようにって、願掛け」
「・・・俺のこと?」
「そう」
全裸のままでベッドに座る俺の前に男が跪く。
頬に寄せられた手に誘われるがまま、上半身を傾け、口づけを交わした。
頭が肩口に抱えられ、目と鼻の先に蜘蛛の巣が広がる。
「皆、オレが持ってるブツしか見てない」
切なげな呟きに、彼の感情の一端を見たような気がした。
「オレのことを見て欲しい、それだけで良いのに、誰も、叶えてくれなかった」
常にタケルの周りには多くの人が集っていて
事実、あの部屋でジャンキー共に囲まれた彼には、近づくことすら難しかった。
それなのに、放射状に張られた巣の真ん中で、彼は孤独に耐えている。
「一目惚れなんて気の迷いだと思ってたし、愛とか恋とか言うつもりもないけど」
再び向き合わされた顔は、儚く優しげな微笑み。
「ハジメだけは違うって、思ってたいんだ」
微かに震える指が肌を滑り、胸から腹へ、更に下へと向かっていく。
重ねられた唇の隙間から、徐々に昂ぶる吐息が漏れていく。
「・・・良いでしょ?」


男の口にもたらされる刺激、男のナカで弄ばれる性感。
ベッドに横たわる俺の上で身体を揺らす男は、片時も、俺から視線を外すことは無かった。
快楽に顔を歪め、そうかと思えば、俺が漏らした薄い喘ぎに愉快そうな笑みを見せる。
対抗するように腰を浮かせて性器を突き立てると、彼は大きく天井を仰いで乾いた声を上げた。

半立ちしている男のモノに手を伸ばし、指で軽く撫でるだけで、そこは一気に大きさと硬さを増す。
俺の顔を見下ろす潤んだ目が、小さく左右に振れた。
先端を親指で撫で回し、他の指で根元から扱き上げる。
絶対的な性感帯に意識を奪われたのか、動きが鈍くなった彼の身体を下から突き動かす。
オーガズムへの抵抗は、もう限界だった。
彼の中で痛いほどに締め付けられる性器と、俺の手の中で燃え上がる性器は、やがて衝動を噴き出した。

二人繋がったまま、身体を重ね、唇を触れ合わせる。
理性は戻ってきているはずだったのに、彼の体温を感じていることが幸せに思えて
こうやって俺は男の糸に絡め取られていくのだろうかと、少し怖くなった。

□ 90_能動★ □
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□ 92_受動★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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