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受動★(9/11)

「知らなかったんだ。あいつらが、何を企んでたのか・・・気が付けなかった」
深山が凌辱を受けていた同じ時間、俺が何処で何をしていたのか。
時間を追って、事細かに話す。
ただ、その相手のことは、話せなかった。
男と関係を持っているということだけは、知られたくなかった。

「そうですか。大体、分かりました」
電話越しの彼の反応は、やはり芳しい物では無く、信じきれない心情が滲んでいる。
「・・・信じて貰えないだろうことは、覚悟してる」
「すぐには、納得できません」
冷たい声が、壊れそうになっている心を撫でた。
俺は、まだ赦しを乞おうとしている。
惨めな自分に悔しさが込み上げた。
「そうだよな・・・結局お前を、あんな目に遭わせたのは、俺の所為なんだから」

互いの溜め息だけが、しばらく行き交った。
「クスリはやってないって、本当ですか」
後輩の声は、微塵もトーンが変わらない。
「俺は、やってない。売り買いしてんのは・・・知ってたけど」
返す俺の声は、なかなか揺らぎが収まらない。
「会社は、辞めるんですか」
「・・・来月には、辞める」
「次に行くとこ、決まってるんですか」
「課長・・・渡邉さんに、紹介して貰って・・・昨日、決まった」
質問を畳み掛けられ、何とか気分が落ち着いてくる。
けれど、その平穏も、すぐに崩れた。
「男と付き合ってるって・・・聞きました」

息が止まる程の衝撃が、目の前を暗くする。
誰から聞いたのか、何処まで知っているのか。
もしかして、俺が後輩に抱いていた屈折した想いにも、気が付いていたのだろうか。
「あの女が、言ってました。創さんが、男に走ったって」
「付き合ってる、訳じゃ、無い。ただ・・・酔った、勢いで」
「酔ったら男とヤれるんですか」
「それは・・・」
脳裏に浮かぶ、金髪の男の笑顔。
その向こうに見ていた、違う男の姿。
混乱する頭では、場当たり的な言い逃れに終始することしか出来ない。
狼狽える俺を弄ぶ様に、彼は、逃げ道を完全に塞ぐ言葉を口にした。
「それって、酔ったら、オレとでも出来るってことですよね」

これが、深山の審判。
「一回、あの時のオレの気分、味わってみませんか?」
俺が知る、ただ一人の男とのセックスとは全く違う、憎悪だけの体罰。
彼の心の中を想像するだに、恐怖が募る。
それなのに、俺は何処かで、彼から痛みを刻まれることを望み始めていた。
こんな形でも、想いを遂げられることが、幸せに思えた。


小雨の混じる風は、すっかり秋めいている。
再就職の際に黒く染め直した髪と、食欲が出ず、幾分痩せてきた身体つきで
待ち合わせ場所に現れた彼は、すぐに俺だと気が付かなかったらしい。
「お久しぶりです」
「久しぶり」
「髪、黒くしたんですね」
「ああ、流石にあれだと・・・印象も良くないし」
「・・・体調、悪いんですか?」
「大丈夫。ちょっと・・・食欲が無いだけだから」
あの頃と変わらない声と風貌を懐かしく思いながら、切れてしまった関係を憂う。


薄暗い路地に面した階段を上り、豪奢な扉を開ける。
小さなフロントで鍵を受け取った深山の後についていく。
異質な空気が流れる廊下を歩いていると、やがて彼はある部屋の前で立ち止まった。
「覚悟は良いですか?」
見上げる視線に慄きながら、俺は、一つ頷きを返す。

視界に飛び込んできた赤い光景が、心身を戸惑わせる。
手枷足枷の付いた十字架や、革のベルトが付けられた大きな革の椅子。
赤い壁紙を背景に天井から下がる何本もの鎖が、ドアを閉めた衝撃で小さく揺れていて
背後の男とは全く結びつかないこの空間に、自分が立っていることが不思議だった。
「いつも、自分優位のセックスをしてるんでしょうけど・・・ここでは、オレが上ですから」
俺の知らないあいつの声が耳を通っていって、意識が現実を直視し始める。

肩に掛けられた手に呼ばれるよう、振り向いた。
「オレが病室で言ったこと、覚えてますか」
彼を裏切り、絶望させた相手が、誰だったのか。
この場で発せられる問が、あの時導き出した身勝手な結論を裏付ける。
「片想いじゃ、満足できない。淡いままで、終わらせたくない」
襟元を掴まれ、男の眼前に顔を引き寄せられた。
「創さんの、本能が、見たい」
間もなく触れ合った唇から、彼の吐息が漏れてくる。
徐々に開かされていく割れ目を、熱の籠もった舌が滑っていく。
薄い視界の中には僅かに頬を紅潮させた後輩の表情が映り、複雑な悦びが身体に沁みていった。

□ 90_能動★ □
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□ 92_受動★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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