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結論★(5/14)

各々の近況報告や彼の引越し先の話をしている内に、時計の針は随分と進んでいた。
「こんなに飲んだの、すげー久しぶりかも」
やや呂律が怪しくなってきた男は、満足げな赤ら顔で背後の壁に寄り掛かる。
「あっちじゃ飲み会とか無いのか?」
「あるにはありますけど・・・あんまり率先して動く人もいないし」
ウーロン茶に口をつけ、ゆっくりと肩で息をした彼を見やりながら、少し、カマをかけてみた。
「・・・プライベートでは、どうなんだ?」

俺に向けられた視線が、ふと細くなる。
煙草の煙が二人の間を漂って、やがて霧散していく。
「家で飲むくらいっすね・・・何も変わってませんよ、オレは」
男は手元の酒に口をつけ、やや自虐的に笑う。
「相変わらず見合いの話とか持ってこられますけど。やっと解放されるなぁ」
彼は僅かに首を傾げ、当然の問を返してきた。
「斎藤さんは?いい出会い、ありました?」
「あったら今頃は沖縄でも行って、ボンヤリしてるよ」
「そんなんで、5年後、10年後、どうするんすか」
「さあな。子会社出向して、制御盤のメンテでもやってんじゃねぇかな」
「そういうことじゃなくて」
テーブルに身を乗り出す拍子に投げ出された男の手を、無意識の内に掴んだ。
驚きを隠せないあいつは、言葉を失い、唇を震わせる。
「お前はそん時も、こっちにいるんだろ?」
定まらない視点が、俺と俺の周囲を彷徨う。
「帰るか。腹も大分膨れただろうし」


駅から歩いて5分ほどのところにある、やや古びたマンション。
引っ越してきてから、10年ほどが経つ。
真夜中になると湾岸道路を爆走していくオートバイの音が聞こえてくること以外、住環境は悪くない。
玄関に入り廊下の照明を点ける。
背後に立つ浅野は、目を伏せたまま、何処か浮かない顔をしていた。
「大丈夫か?」
どんなことがあっても成り行きに任せよう。
「良いんすか」
「何が?」
心で幾らそう構えていても、咄嗟のことに対応するのは、やっぱり難しい。

不意に俺の肩を掴んだあいつは、そのまま廊下の壁に押し付ける。
怯んだ俺の表情を一瞥し、唇を重ねてきた。
感触を確かめるように触れては離れを繰り返し、息苦しさを感じ始める頃、彼は俺の頭を抱えて呟いた。
「・・・行くとこまで行って、良いんすか」

衝動を抑え込もうとする震えた吐息が耳を掠めていく。
徐々に密着してくる身体の熱があまりにも直接的に感じられる。
俺はもう、覚悟を決めた。
「何処まで行きたいんだ?」
その言葉に、彼は大きく息を吸い込み、飲み込む。
「お前が言う、行くとこって、何処だ」
「それは・・・」
期待していた反応とは何かが違う。
「俺とヤることか?」
手の力が緩み、僅かに男の身体が離れる。
性急だったのだろうか。
彼も俺と同じように、その先を望んでいるのだと、勝手に思い込んでいた。


男の腕を振り解き、反対側の壁に追いやる。
酒に酔わされたであろう潤んだ視線を受け止めながら、口づけた。
「そんなの、すぐそこじゃねぇか」
答に窮するあいつを余所に、身体に手を伸ばす。
ベルトに手を掛け強引に外そうとする動きを、彼は慌ただしく制した。
「ちょっと、待って」
「して欲しいんだろ?なら、してやるよ」
「あれは・・・」
「俺は、もっと、ずっと、先を見たい。お前は、どうだ」
待ち望んでいたであろう答に対峙した彼の表情には、けれど、明るさは垣間見えない。
「・・・ヤれれば、満足か?」
金具が擦れ合う金属音の後、ベルトにかかっていた力が抜けた。

「だから待てって!」
ジーンズのボタンに手を掛けようとした瞬間、彼は俺の身体を強引に引き離した。
「先のことなんか、考えられる訳ねぇじゃん!」
荒い語気とは裏腹に、今にも崩れ落ちそうな面持ち。
「叶うはずもないことに、何を期待できるんだよ・・・しんどいだけだろ、そんなの!」
双方の目から涙がポロポロと零れ落ちていく。
「今、ここで、こうしてることだって、夢みたいだと、思ってんのに・・・」

もっと早く、結論を伝えておけば良かった。
「どんな答えでも良いと、思ってた。けど、期待するのが、怖くて、辛くて」
俺が貰った長すぎる猶予期間は、結局、彼を苦しめただけだった。
「好きになるんじゃなかったって・・・忘れようと、何度もした」
廊下の床に座り込んだ男は、自らの手で涙を拭った後で大きな溜め息を吐く。
「でも、ダメだった・・・だから、せめて、身体満足させて、何とか凌いで」
縋るようにこちらに腕を伸ばし、太腿辺りにしがみついた。
やがて腰に手が回り、男の頬が股間の辺りを弄る。
「これ、しゃぶらせて、後ろからガンガン突いて、顔にぶっかけるのが・・・オレの中の斎藤さん」
俺を見上げる赤く充血した目が、あまりにも痛々しく、儚げに見えた。
「オレは、そこまでで・・・満足、っす」

□ 01_猶予 □   
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□ 100_結論★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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