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此処★(9/9)

本当の自分を見て欲しいと思ってきた。
服を脱ぎ、ウィッグを外し、一人の男として彼を前にすると
道化のままで本能を剥き出したひと時とは、違った緊張感が全身を覆うようだった。
気持ちが切れそうだから、二人で一緒に。
言われるがまま、同じように全裸になった彼と、ユニットバスの中に立つ。
シャワーの湯で流されていく絶頂の証しを惜しむように見送っていると
肩を掴まれ、後ろを向かされる。

間違いなく、何処かに躊躇いを残しているのだろう。
さっきまで眼に宿されていた性的な光は、殆ど気配を消しているように見えた。
男であって男じゃない、俺であって、俺じゃない。
彼が望んでいるのは、そんな存在。
むしろ、ここまでしてくれたことに感謝すべきで、彼を責める一部の隙も無い。
「もう一回・・・服、着ますか」
失意を隠しながら問うた俺の言葉に、彼は、ハッとした表情を見せた。
「いや、ごめん・・・ちょっと、訳わかんなくなってた」
抱きすくめられ、互いの身体が密着する。
溜め息がシャワーの飛沫に掻き消され、腰に回された手に力が篭った。
「いつもどおりのお前見ても、興奮してる自分が・・・今まで、こんなことなかったのに、って」
下腹に当たる彼のモノは、確かに、昂ぶりを保ったまま。
「浮かされてんな、オレ。お前に」


浴槽の縁に腰かけた先輩を、下から見上げる。
濡れた前髪を掻き上げスッキリした額を見せた彼が、俺の頭に手を添え、ゆっくりと撫でた。
半分ほど勃起したモノに、視線を移す。
指を伸ばし顔を近づけると、深い吐息が耳に届く。
もう一度彼と視線を交わし、俺は彼のモノに舌を伸ばした。

先端を舐りながら手で扱くと、刺激を吸収した部分が如実に硬さを帯びていく。
波打つ血管が彼の衝動の度合いを教えてくれる。
身体中のどの部分よりも性的な感触が、俺の身体を再び昂ぶらせた。
やがて自立できるようになった性器を、口に含む。
腰に腕を回し、初めは緩やかに、頭を振る。
「は、あ・・・っん」
降り注いでいた荒い息に音が混ざり、寸でのところで堪えようとする抗いの声。
初めて耳にする男の淫らな声に、官能がくすぐられた。
啜る唾液に酸味が混ざり始め、彼の身体が駆け出す様がありありと感じられる。

「ちょっ・・・ま、て」
動きを速めようとした時、彼の手が肩に載せられた。
痛々しい程に腫れ上がったモノを口から抜き取り、その意図を確かめるべく表情を窺う。
「マジ、もう、ヤバい」
目を閉じて何かを振り切るよう息を吐いた彼が俺の腕を掴み、上半身を引き上げる。
顎に添えられた指に呼ばれるまま、唇を重ねた。
「ここに、いてくれ」
潤んだ眼でそう呟いた彼の腕が、俺の頭を絡め取って肩に寄せる。
いきり立つモノに導かれた右手の上に、手が重ねられた。
ゆっくりと上下させる度に、彼の鼓動が激しく波打ち、引きつった声が口から出ていく。

「・・・舌」
口元で囁くと、半開きの唇から男の舌が小さく顔を出す。
軽く吸い付き、絡ませ、舐り合う。
次第に大きく広がった口から、抑えきれなくなった喘ぎが響いてきた。
「っあ・・・はぁ」
「可愛い、声」
「ば・・・っか、・・・っう」
軽く前屈みになった彼の身体が強張る。
駆け上がっていく瞬間の感触が、掌に焼きつく。
ほとばしる衝動は二人の身体を汚し、滴り落ちていく液体をそのままに、俺たちは長い口づけを交わした。


乱れた洋服を正し、床に散らばった物を拾い上げ、洗い籠に入れる。
シンとしたクローゼットの中は、それでも、さっきまでの興奮の余韻に満ちていた。
その時、突然インターホンのチャイムが鳴る。
時計を見ると、夜の10時過ぎ。
不審に思いつつモニターを確認すると、そこには、1時間以上も前に帰ったはずの折原さんが立っていた。
「どうしたんすか?」
「いや、ちょっと・・・忘れ物したみたいだ」
狭い家の中は、もう粗方整理がついている。
彼の物と思しき物は何も無かったはずだ。
モニターの向こうの表情は、伏し目がちで、覇気も無い。
一人になり、冷静さを取り戻し、色々なことを考えたのかも知れない。
「そうっすか・・・どうぞ」
後悔か、怨嗟か、結論は聞きたくないと思いつつ、開錠キーを押した。

部屋の扉を開けるなり、彼は俺を押し込むように玄関に入り、扉を閉める。
「折原さん?」
「オレ、知らなかった」
「・・・何を?」
「こんな気持ちに、なるんだって」
切なげな視線を一瞬受け止めた後、身体が引き寄せられ、唇を奪われた。
絡みつく腕が、俺の肩から脚までを満遍なく滑っていく。

「誰か好きになるって、楽しいことばっかじゃ、ねぇのな」
肩口に頭が抱えられ、耳のすぐ傍にで囁かれた言葉が頭の中を巡った。
「お前がいなくなったらどうしようとか、これからどうなるんだろうとか、考えると、キリがねぇ」
それは、誰もが持つ恋愛の真理。
そして、相手を本気で想っていることの証明。
髪を撫でる掌が、二人の隙間を徐々に縮めていく。
彼の頬が耳を塞ぎ、口から発せられる言葉が骨を通じて響いてくる。
「・・・ずっと、ここにいてくれ」


地元に帰った彼から電話があったのは、家族同士の会食が終わった後のことだった。
「そっち着くの、多分夜遅くなるな」
「晩飯、どうします?食ってきます?」
「・・・待てるか?」
「良いっすよ。じゃ、待ってます」
朝、俺の家から出発した彼の装いは、相手の親族にも概ね好評だったという。
むしろ、自分の家族の反応が予想以上に大きく、若干立腹しているらしい。
「何?例の彼女?」
「あー、うるせぇ、あっち行ってろ!」
「いーじゃん、声くらい聞かせてよー」
兄の服では無いことを即座に見破った妹の追及は特にしつこく
手を焼いた彼は、咄嗟に恋人に選んでもらったと口走り、更に火種を大きくしてしまったようだ。
「ったく、面倒な奴だな・・・んじゃ、切るわ」
「気を付けて」

箱の中に仕舞い込んだ洋服も、バッサリ切った前髪も、彼方に置いてきた。
やっと互いを認め合い、本当の自分と向き合いながらの日常が過ぎていく。
歓び、不安、嫉妬・・・様々な感情に揺さぶられることはあるけれど
彼の肩口に頭を埋める度、気持ちはフラットに戻る。
もう、大きな変化は望まない。
今こうやって、此処にいられることが、俺にとっての幸せだから。

□ 88_此処★ □
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□ 91_運命 □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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