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此処★(5/9)

「見た目は完璧女なのに、付いてるとか、さ。何かイケないことしてるみたいで、興奮するんだよね」
自分の画像をすぐに閉じ、画像の違和感を問うてみると、彼はあっさりとそう話した。
世間にジワジワと浸透しつつある男の娘。
正直、ノンケの男が彼女たちに興奮する理由がイマイチ掴めなかったが
折原さん曰く、作り物であることと、生々しくない性的魅力が良いのだそうだ。
「感覚的には、二次元に嵌んのと同じかなぁ。あざとくてもムカつかねぇし」
「ニューハーフとかじゃ、無くて?」
「身体弄っちゃってんのは無理。・・・あ、別にそういう趣味がある訳じゃねーからな」
「いや、まぁ・・・そうでしょうけど」

作り物の俺を見て、先輩はどんな感情を抱いたのだろう。
何を思って、自分のパソコンにダウンロードしたのだろう。
奇しくも、画像の中の服が、今もクローゼットの奥に仕舞ってある。
もし、俺がその格好で彼の前に立ったら、同じように、いかがわしい視線を浴びることが出来るのか。
「そろそろ、飯、行くか」
「え、ああ・・・良いですよ。何にします?」
道化にはならないと、決めたはずなのに。
「この間駅前に出来たつけ麺屋、行ってみねぇ?」
「いつ通っても並んでますよ、あそこ」
「いいじゃん、特にやることもねぇし。ものは試しだよ」
本当の自分を見て欲しい、ただ一人の相手なのに。


狭いワンルームの空間には、ベッドと小さなローテーブルと、天井までの高さがあるメタルラックだけ。
「ホント、狭いな・・・」
「だから言ってるじゃないですか」
恐らく、ウォークインクローゼットの方が見えている床の面積は広いだろう。
水回りとは反対側にあるドアを開け、照明のスイッチを入れる。
「うわ、すげぇ」
二面の壁に作り付けられたハンガーポールと棚、そこに収められている服を見て、彼は思わず声を上げた。
「着てないのも、結構あって」
「もったいねーな。合コンとか、デートとかで着て行けよ」
「残念ながら、そんな機会、無いんで」
中に入った折原さんは、幾つかの物色するように服を眺め
何となく気に入った物を引っ張り出しては、また戻す、という動作を繰り返す。

俺がコーディネイトしたジャケットに辿り着いた彼は、それを手にしたまま、こちらに顔を向けた。
「国枝さぁ」
「何すか?」
「オレに気ぃ遣うこと、ねーから」
「そんなこと、俺・・・」
ハンガーを外し、俺に背を向けて服を羽織る。
着丈も丁度良く、細身のシルエットも十分綺麗に見えた。
「後輩としても、友達としても、良い奴だと思ってるからこそ、足引っ張りたくねーんだ」
それなのに、彼の口からは切ない言葉しか出てこない。
「俺、そんな風に思ったこと、無いですから」
遣る瀬無い想いを振り切る様に、彼の為に選んだ他の服を手渡す。
「ほら、これと合わせてみて下さい。意外と似合いそうっすね」
「意外と、は余計だよ・・・それに、結構、きついんだけど」
「お姉さんの為に、一日くらい我慢しましょうよ」

素材が良いのは分かっている。
それにも増して、借り物の服に身を包んだ先輩は、普段の装いもあって、まるで別人のようだった。
多分、一番驚いているのは、クローゼットの中に置いてある姿見で自分を見ている彼自身かも知れない。
「・・・なんか」
「ん?」
「いや・・・こんな感じかぁって思って」
違和感と気恥しさと、変身したことに対する悦びと。
あまり経験したことの無い感情が、彼の中に芽生えているのだろう。
「かっこいいっすよ。マジ惚れそう」
「お前に言われても何の得にもなんねぇし」
俺の本音に、言葉とは裏腹のまんざらでも無い笑顔を見せた。
「着て帰ります?」
「んー・・・とりあえず持って帰るわ」
「じゃ、何か袋でも・・・」
クローゼットの奥にある紙袋の束に手を伸ばそうとした時、彼とぶつかり思わずよろける。
拍子に崩れた箱が床に落ち、中身が散乱した。


「悪い、大丈夫か?」
「あ、ええ・・・大丈夫です」
明らかに違和感のある幾つもの服を見て、彼は何を思ったのか。
「それ・・・何?」
「これは・・・」
「元カノの服、とか?」
「あー・・・いや」
折り重なる山から、一枚のスカートを抜き取る。
「これ、見覚え、ないっすか?」
床に跪いたまま、訝しげな顔をした先輩を見上げた。
「ある訳・・・」
その表情は、数秒の間に目まぐるしく変わり、やがて元の怪訝な顔に戻る。
「いや、どっかで」
「さっきの、男の娘が着てた、服」
「は?・・・え、なんで」

果して、彼に全てを告げる必要はあるんだろうか。
微妙な空気に怖気づいた感情が、口の動きを鈍らせる。
「一時期、ハマってて」
「・・・何に?」
「女装」
「マジで?」
「マジで」
何着かの服を手に立ち上がり、一つ息を吐いた。
「俺ねぇ、ゲイなんすよ。男に抱かれたくて、女装、やってた」

□ 88_此処★ □
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□ 91_運命 □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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