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此処★(4/9)

彼にとって、俺はどんな存在だったのか。
初めて肉体関係を持った夜、俺は追いかけるように芽生えた感情を彼に打ち明けた。
しかし男は、首を縦には振らなかった。
「いつまでも、愛しいカレンでいて欲しい」
道化以外の俺は要らない。
彼が必要としているのは、カレンという人形だけ。
残酷な意味を隠した優しい言葉に、それでもまだ、傷だらけの恋心は砕けなかった。

それから、男の前でポーズを取る機会はめっきり減った。
数日置きに繰り返していた逢瀬が、週一回、隔週と時間を置くようになり
やっとチャンスが巡ってきても、ただセックスをして終わることが多くなった。
一方的に燃え上がった俺の感情を鎮める為の、彼の策だったのかも知れない。
そんな好意的に脚色されていた妄想も、たった一通のメールで霧散する。
席を外した隙に盗み見た彼の携帯には、新しい人形を愛でる文言が羅列されていた。

『明日の待ち合わせ、ちょっと場所を変えたいんだけど、良いかな』
顔も知らない相手にメールを打ち、すぐさまアドレスを受信拒否リストに放り込む。
戻って来た彼はいつもと変わらぬ笑顔で俺の身体に手を伸ばす。
「可愛いよ、カレン。いつまでも、オレの傍に置いておいてあげる」
嫉妬と未練が入り混じったままの最後の夜伽は、今までで最高の快感を身体に刻んでくれた。


「奴が少し遅れるっていうから、それまで相手してあげてって言われたんだ」
俺と同年代であろう男は、そんな出まかせで簡単に警戒心を解く。
待ち合わせに指定したのは、いつものスタジオでは無く、場末のラブホテル。
小さなキャリーバッグには、女装道具が入ってるのだろう。
華奢で、背も低く、中性的な顔立ちが目を引いた。
「ここで、撮るんですか?」
「中は結構おしゃれなインテリアでね。きっと気に入って貰えると思うよ」
ネットで拾っただけの薄い知識で緩む表情。
俺も、あの男から、こんな風に見えていたのかも知れない。

女装姿の男は、まさしく "人形" という言葉がピッタリ嵌る風貌だった。
膝上のワンピースに、レースのショール。
巻き髪のウィッグときつすぎないメイクが、俺には無い清楚な魅力を醸し出している。
西欧風の調度品と天蓋付きのベッドが置かれた空間で、存在は一層華やぎを増し
それが、俺の中の何かを壊した。

腹に拳をめりこませると、人形は簡単に崩れ落ちた。
床にうつ伏せにし、彼が身に着けていたショールで腕を後ろ手に縛る。
頭を床に押さえつけ、腰を持ち上げ引き寄せる段になって、やっと俺の意図を理解したのだろう。
「オレ、男とは、ヤったこと、無いんだ。だから・・・」
「男の視線集めて悦に入ってるくせに、今更白々しいんだよ」
俺もそうだった。
自責の念を口にしながら、ワンピースの裾を捲り上げ、ストッキングを引き裂く。
「良かったじゃん、俺が初めての相手で。おっさんより、ずっとマシだろ?」


精液で汚された虚ろな表情の顔を見下ろしても、心の靄は晴れない。
その時、彼の携帯電話に着信が入った。
本来の待ち合わせ時間を過ぎたのだろう。
一つ息を吐き、電話に出た。
「今、何処にいるんだい?」
新たな愛玩具を心配する男の声に、虫唾が走る。
「心配しないで、ちょっと遊んでただけ」
「・・・誰だ?」
「私の声、分からないんだ。酷いな」
極端な声色を作るのも、これが最後。
「彼女、貴方に会いたいって。早く来てあげてね」
言葉を失った電話の向こうの相手に今いる場所だけを告げ、別れの挨拶も無いままで電話を切った。

粉々になった想いは、多くの洋服と共に箱の中に仕舞い込んだ。
本当の自分に価値が無いと思い知らされてから、より一層、着るものに執着するようになった気がする。
いつか誰かに、俺という人間を認めて貰いたい。
そう思っているのに、殻を重ねた外見だけが独り歩きしていく。


「明日、新幹線、何時だって言ってましたっけ?」
「ん?10時半過ぎだったかな」
三連休の初日、いつものように先輩の家でダラダラとした時間を過ごす。
そんな中、顔合わせを明日に控えた彼の表情は、何となく落ち着かないように見えた。
「じゃ、明日行きがけに、ウチ寄って服持っていきます?」
「あー、どうすっかな」
「俺はいつでもいいっすよ」
折原さん渾身の自作PCで検索した路線案内に依れば、最寄駅の出発時間は9時半。
自宅から駅までは5分程度だから、時間的にも無理は無い。
「ちょっと早めに出たいから、今日借りといても良いか?」
「良いですよ。じゃ、飯食いがてらウチ寄ってって下さい」
「お前んちって、初めてだよな?オレ」
「そうっすね。狭いんですよ、マジで。人呼べるとこじゃないんで」

ブラウザを閉じると、開きっぱなしになっていたエクスプローラーが現れる。
何かの拍子にクリックしてしまったフォルダには、数多の画像ファイルが並んでおり
大抵の男のパソコンに潜む秘密の場所であろうことは、すぐに分かった。
普段、女絡みの話は殆どしないから、彼の好みもよく知らない。
ふと湧きあがった好奇心で、一つの画像を開いてみた。

「ちょ、何勝手に見てんだよ」
「いいじゃないすか、減るもんじゃ無し」
背後でゲームをしていたはずの折原さんが、慌てた様子で近づいてくる。
画面に映し出されたのは、少し童顔で色の白い女の子、に見えた。
「ああ、それ、抜きフォルダじゃねぇからいいや」
あからさまにホッとした様子に苦笑しながら、他の適当な画像をダブルクリックする。
「・・・これ」
目の前で微笑む娘を見て、言葉を失う。
それは、数年前、俺が封印したはずの、もう一人の自分だった。

□ 88_此処★ □
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□ 91_運命 □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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