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運命(2/4)

昔から、顔の造作はそれほど変わっていない。
決して整ったものではないし、おまけに各パーツのバランスも悪く
俺の顔が好きだというイケメン後輩の審美眼は、何処か狂っているのだと思わずにはいられない程だ。
けれど、周りの環境が良かったからなのか、卒なく勉強だけはできたからなのか
それまで、顔のことで弄られることはあっても、苛められるほどのことは無かった。

「折原って、お前?」
下校途中、校門の手前で声を掛けてきたのは見知らぬ3人の生徒だった。
恐らく上級生だろう。
やや着崩した制服が、自分とは違うカテゴリにいる人間だろうと認識させる。
「・・・そうだけど」
「ちょっとさぁ、付き合えよ」
「何すか」
目を付けられるようなグループには属していないし、上級生と繋がりも無い。
怯みながらも粗暴な言葉を返したが、相手にしてみれば粋がった雑魚にしか見えなかっただろう。
「いいから、来いって」
無理矢理手を引かれ、肩に手を回される。
「良いもの、見せてやるからさ」
気持ちの悪い笑みを浮かべた男が耳元で囁く。
恐怖で感覚の鈍る脚を引き摺るように、俺は彼らと共に再び校舎に向かって歩き始めた。

体育館の裏に、使われなくなった焼却炉がある。
ブロック塀と木立に囲まれたその場所は、子供の火遊びにはちょうどいい条件を備えており
そんなものとは縁遠い俺は、不用意に絡まれることを避ける意味もあって、一度も近づいたことは無かった。
初めて足を踏み入れたその先に立っていたのは、一組のカップル。
何をしているのかは一目瞭然で、生身の人間同士のそれを見るのが初めてだった俺には
あまりにも刺激が強すぎた。
しかも、女の方は、まさに初恋の相手。

画面の向こうの作り物とは違うぎこちなさが、よりリアルさを強調する。
下品な口づけを何度も交わし、男の手が女の服の中を弄っていく。
大切なものが汚されていくような感覚と共に湧き上がってくるのは卑屈な罪悪感と敗北感。
妄想の種にし、幾度となく汚してしまった自分が、無様に思えた。
「あいつ、知ってんだろ?」
未だ自分の身体を解放しない男が、愉快そうな声色で問うてくる。
「すげー声デカいんだよなぁ、あの女」
「そうそう、動物みたいでさ」
いけないと分かっていても、卑猥な女の幻影が頭に浮かんでは喘ぐ。
衝動を抑える術を、その頃の俺は知らなかった。

女が壁に手をつき、男が背後から腰を重ねようとした瞬間
俺の身体は力任せに蹴られた反動で、彼らのすぐ近くまで転がった。
「何だ、お前?!」
思わぬ邪魔が入った憤りがストレートに言葉でぶつけられる。
「こいつ、堀たちのこと覗いてやんの」
「欲求不満じゃね?」
「はぁ?ふざけてんじゃねぇぞ」
男の前に跪いた形になった俺の腹に靴の先端が勢いよく刺さり、鈍い痛みが吐き気と共に込み上げた。
「・・・ノリ君?」
続け様に足蹴にされて鈍った聴覚が、彼女の声を拾う。
「ああ、こいつがぶっさいくな幼馴染か」
「もう、その辺で許してあげて・・・」
「お前だって気持ち悪ぃだろ?ヤってっとこ、覗いてたんだぞ」
「でも・・・」

ああ、そうか、嵌められたんだ。
地面に蹲ったままの身体を痛めつけられながら、そのことにやっと気が付く。
加減を知らない幼稚な暴力は、それまで誰かに殴られるという経験の無かった身にはあまりにも衝撃的で
痛みよりも悔しさと情けなさと恥ずかしさの方がよほど大きく感じられていた。

ひとしきりの攻撃が止んでも、鈍痛が全身を覆う。
「打たれ弱ぇデブだな。おい、立てよ」
頭を掴まれ引き摺り起こされた俺の前に、厭味ったらしい笑みを浮かべた彼女の彼氏が近づいてくる。
精一杯の睨みが、よほど気に障ったらしい。
肩に手を載せられると同時に、勢いのある拳が腹にめり込んだ。
「生意気なツラしてんじゃねーぞ」
その手が不意に股間へと伸びる。
咄嗟に避けようとする身体は背後の奴に抱えられ動きを封じられ、性器が鷲掴みにされた。
男の嘲り笑うような鼻息が、頭の中を絶望感でいっぱいにする。
「童貞のノリ君には、刺激が強すぎたって?」
「あれで勃つとか、どんだけガキなんだよ」
「やめろ、よ・・・」
「折角だから、ここでイっとくか?」
そう口にした男が、制服のズボンを脱がしにかかる。
「何、すんだよ・・・!やめろって!」
必死の抵抗も、複数の男たちの前では全くの無力で
心底楽しそうに騒ぎ立てる輩の向こうから放たれていた女の蔑む視線が、心に刺さった。


気が付くと、暗くなり始めた周囲に人影は無かった。
視線の先には、点々と飛び散った液体の残渣が残されている。
下半身の衣服は剥ぎ取られ、見える範囲には置かれていない。
どうしてこんな目に遭うのか。
俺がもし、こんな見た目じゃ無かったら、事態は何か変わっていたんだろうか。
納得できる答えは何一つ浮かばず、途方に暮れたまま、ひたすら膝を抱えて蹲っていた。

空から赤みが消える頃、突風が木々を揺らす。
夏が過ぎ、秋が訪れようとしていた季節の風が身体を震えさせた時、背後で金属音が聞こえ
振り向くと、焼却炉の戸が僅かに開き、そこから何かが垂れ下がっているのが見えた。
這うように近づき、何か、を引っ張り出す。
やっと帰れる。
煤と埃に塗れた制服を手に、そう安堵したことを、今でもはっきりと覚えている。

□ 88_此処★ □
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□ 91_運命 □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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