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暴露★(3/7)

怯んだ表情が、彼を刺激したのだろうか。
無理矢理感じされられた男の唇の感触に、背筋が凍った。
力任せにその身体を押し返す。
「何すんだよ?!」
洗面台の方へ倒れた彼は、カウンターにぶつかり、そのまま床にしゃがみ込む。
精一杯の拒否反応も、酔いの回った頭には響かないのだろうか。
「いいじゃん、何なら、ここでやろうよ」
そう笑いながら、彼は俺の足を掴んだ。

酷い嫌悪感に支配された脳裏に、彼の連れの顔が過ぎる。
ここで蹴り飛ばしたりしたら、まずいことになるかも知れない。
「何言ってんだよ。意味分かんねぇ」
手を振り払い、男に背を向けて歩き出した時、不意にドアが開く。
「こんな所にいたのか」
心配そうな上司の視線が、床に座る男に向けられた後、俺に移る。
「・・・悪かったね。何か面倒かけたかい?」
殊勝な口調で問いかけられ、言葉に詰まる。
「いえ・・・別に」
この男は何者なのか。
どういう関係なのか。
言葉が口から出そうになっているのを、彼は感じたのかも知れない。
早く出て行ってくれ、そんな縋るような眼差しに追い立てられるよう、俺はその場を後にした。


「遅かったな。腹でも下したか?」
かなりご機嫌な様子の八巻に絡まれ、気分は更に冴えなくなる。
「いや、大丈夫」
すっかり酔いを飛ばされた頭は、この短い間に起こったことを整理しようと必死になっていた。
「そう言えばさ」
「ん?」
「さっきの、お前の上司と一緒にいた男」
目の前に迫ってくる奴の顔がスローモーションで思い返され、嫌悪感がぶり返す。
「・・・何?」
「誰かに似てるなぁって思ってたんだけど」
そう言いながら、同僚は俺の顔を直視する。
「ちょっと、お前に雰囲気似てるよな?」
「はぁ?そうか?」
「隙がありそうな感じとか、人の意見に流されそうな感じとか」
「何だよ、褒め言葉は無しか?」
「褒めるとこ、ねぇじゃん」
「失礼な奴」
客が減ってきて見通しが良くなった客席に、男を抱えた上司が戻ってくる。
うな垂れる男の姿を見ても、自分と似てる要素は何も感じなかった。
「似てねぇよ、全然」


吐き気がするような感触が、悔しいほどに剥がれない。
女とキスすることを想像することはあっても、男となんて、考えたことも無かった。
それなのに、思い返しては気分を悪くすることで、昂りを感じてしまう。
不気味な笑みの向こうに、上司の姿が重なる。
上司も、あの行為を受け入れているのだろうか。
俺に似ていると言う男に抱かれる時、彼は、どんな表情を見せるのだろう。
闇に包まれた彼の本性。
ちらつく影に杞憂するより、いっその事、全てを暴いてしまおうか。


「避難安全検証法に基づいて、特避附室に給気する形にしたいそうだ」
打合せ机に並べられた高層ビルの建築図。
センターコアのオフィス主体のビルで、特別避難階段は2箇所と言う典型的な構造だ。
「居室部分で排煙と言うことですね」
「中の間仕切りはまだ想定なんでね、排煙区画も設定しちゃってくれるかな」

避難安全検証法は、建物の中から避難する際の安全性がどのくらい高いのかを示すことで
廊下の幅や歩行距離、排煙方式についての規定を緩和できるもの。
各室・各区画について、複雑な数式で表される基準をクリアできているのかどうか検証する必要がある。
もちろん、それ用の計算ソフトはあるけれど、根気の要る作業だ。
「一応仕様は上がって来てるから。不明な分があったら問い合わせて貰って構わないよ」
「これ・・・納期はどのくらいなんですか?」
「後手後手に回っちゃったみたいで、遅くても土曜日って言われてるんだけど、どう?」
今日は水曜日。
土曜日は休日出勤確定だな。
そう思いながら、大丈夫です、と返した。


思った以上に面倒だと分かり始めてきたのは、既に週末の夜になってからだった。
追加でやってくる仕様変更の情報が積み重なっていく。
後輩と手分けしながらでも、夜を徹して終わるかどうか。
頼みの綱の夏目課長は、既に退社している。
晩飯でも食いに行くか、そう後輩に声をかけた時、社内の電話が鳴った。
「岩佐さん、課長からですよ」

落ち着いた彼の声は、周りの雑踏に掻き消されてしまうようだった。
「急な変更が来てるみたいだね。何とかなりそう?」
「どうでしょう・・・一応明日の昼までには、形になると思うんですが」
「じゃあ、終わったところから打ち出しておいて貰えるかな」
「え?」
「遅くなるかも知れないけど・・・会社に戻って、僕がチェック入れるから」
ふと、街の片隅に立つ上司の姿が脳裏を過ぎる。
隣には、あの男がいるのだろうか。
妄想を掻き消しながら、答えた。
「分かりました。助かります」

□ 36_暴露★ □
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□ 72_虚飾★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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