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暴露★(2/7)

こなすべき仕事をこなし、その対価として金を受け取る。
それが本来あるべき姿。
会社を回す為、取引先との関係を円滑にする為。
その手段として金が使われるのは、致し方ないことだと分かってはいる。
けれど、日常としてそんな行為が行われていることに嫌悪感を抱くのは
俺がまだ未熟だからだろうか。

通常の業務の金額に上乗せする他、空物件の請求をさせることで金を渡し
見返りとして、下請け事務所から現金や商品券を受け取る。
それが、彼のやり方だった。
「要するに・・・賄賂、ですか?」
俺のストレートな物言いに、彼は苦笑して軽く咎める。
「彼らはそれで仕事を得られる。社員に給料も払える。互いに損する話じゃ無いよ」
「そうですが・・・」
連絡手段は全て携帯。
メールもフリーメールを携帯でやり取りすると言う、したたかな方法。
柔らかな人柄に隠された、上司の一面。
気味の悪さが先に立ち、顔が強張っていくのを感じていた。

「これからも、覚えの無い請求書が行くと思うけど」
丁寧に火を消し、その吸殻を灰皿に落とす。
「何も言わずに、決済してくれて構わないからね」
そう言って、彼は俺の肩に手を置き、微笑んだ。
「その内、岩佐君も分かるようになるよ」

同僚も、先輩も、上司も、いつもと同じように仕事をしている。
会社ぐるみで行われていることなのか、夏目課長だけがやっていることなのか。
それすら聞くことの出来ない状況の中で、不信感だけが募っていく。


珍しく常識的な時間に退社した夜。
ビルのエントランスホールで、偶然同期の八巻と顔を合わせた。
「何、こんな早い時間に帰るって、暇なのか?」
「この時間で早いって、お前の部署、どうかしてるぞ」
「お互い様だろ」
時計は、既に夜9時前。
これが冗談にならないところが、ウチの会社の恐ろしいところだ。

八巻が所属しているのは、防災に関連するあらゆる法規を取り纏め
社内ネットワーク上にあるデータベースに反映させる、会社の頭脳と言える部署。
そのデータを元に、設計部隊は図面や計算書を監査・検討していく。
「春の消防法改正分が、やっと一段落ついてね」
「お疲れさんだな。俺らもホントに、助けられてるよ」
テーブルに置かれたビールのジョッキを呷り、同期は得意げな顔を見せる。
「そう言って貰えると、遣り甲斐もあるけどな」

会社の最寄り駅の近くにある、チェーン店の居酒屋。
とりあえず終電までと約束として入ったその店は、週末だからか、随分混雑している。
「そっちはどうだ?」
「一先ず、手がけてた大型物件の申請が終わったところ」
「最近は、煩雑な経路が多いから、大変だろ」
「全く・・・いつまで経っても勉強が終わらない気分だ」
軽く溜め息をつき、目の前の刺身を口に放り込む。
解凍されきっていないタコの感触を、無理矢理ビールで流し込んだ。


視界の端に映った人物に、思わず目が囚われた。
いつからいたのだろう。
少し離れた壁際の席に、見覚えの無い若い男と夏目課長が座っている。
こちらに背を向けている上司の表情は分からない。
俺の目線を追いかけるように、八巻が身体を捻った。
「あれ・・・お前んとこの上司じゃね?」
「あ、ああ。ウチの課長」
「連れは・・・子供、か?随分若いな」
「いや、結婚はしてないはず」
どちらかと言えば、積極的に人付き合いをするような人柄じゃない。
下請け会社の社員かなんかだろうか。
それにしては、若すぎる。

その時、突然上司がこちらに振り向いた。
見てはいけないような感覚に駆られ、顔が引きつる。
俺の気持ちとは対照的に、彼の笑みは穏やかだった。
こちらに対して少し首を傾げ、再び若い男の方へ身体を向ける。
一瞬目が合った若い男もまた、何処か含みを持たせた表情を見せ、目を逸らす。
立ち入っちゃいけない。
分かっているのに、つい、その関係を勘ぐってしまう。
人の良さそうな上辺だけしか知らなかったら、どんなに良かっただろう。


狭いトイレで鉢合わせしたのは、あの若い男だった。
相当飲んでいるのか、足元がおぼつかない様子で、手を洗う俺に近づいてくる。
「あんた、あの人と、どう言う関係な訳?」
力の抜けた状態でしなだれかかられ、よろめいた身体が壁で支えられる。
「ちょっと・・・」
「部下とか?そんな感じ?」
「君・・・飲み過ぎなんじゃないのか?」
俺の身体に寄りかかるように身体を密着させ、泥酔した顔を近づけて彼は言った。
「オレ、あんたの方が、好みかも」

□ 36_暴露★ □
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□ 72_虚飾★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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