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暴露★(1/7)

「岩佐君・・・こんなこと、やめるんだ」
「やめろって、息が荒くなってますよ?夏目課長」
種々の資料が詰め込まれた棚に手をつく上司の身体を、後ろからゆっくりまさぐっていく。
カーディガン越しの体温と、荒くなっていく呼吸を間近で感じる。
ワイシャツをスラックスから引き抜き、その肌に直に手を触れると
うな垂れた彼の頭は、軽く左右に触れる。
「抵抗しないってことは、まんざらでもないんですよね?」
意地悪い口調で囁くと、目を閉じた彼の眉間の皺が深くなった。
小刻みに震える身体は徐々に熱を帯び、鼓動が早くなっていく。
興奮が抑えられず、思わず唾を飲む。

上司の身体を思い通りに出来る優越感に包まれながら
嫌がる素振りを見せつつ、快楽に溺れていく彼を想像する一時。
一回り以上も年上の男の痴態を思い描き、自らの身体を慰める。
彼を、俺の手の中に。
芽生える衝動を摘み取り、踏み固めるほどに、欲求は募る。


「この間のショッピングモールの進捗はどんな感じ?」
「一通り指摘事項をまとめ終わっているので、今日中には事務所にチェックバックします」
作業机の上に広げられた図面に目を落としながら、夏目課長は話を続ける。
「避難経路が複雑だね」
「ええ、バックヤードの部分が込み入ってるので、ちょっと排煙が過剰な感じになりますね」
「まぁ、人の命には代えられないから、仕方ないか」

建物の防災計画を取りまとめるコンサルタント会社の設計部。
設計事務所から上がってくる消火設備や排煙設備の図面を検証する業務に就いて7年目。
目まぐるしく変わる関連法規を頭に入れるのにも精一杯だった時期も過ぎ
やっと一人で物件を持てるまでになって来た。
それでも大型店舗や高層のオフィスビルについては、諸設備について分担することもあり
丁度今は、ショッピングモールの排煙設備についての検討を行っている。

「この部分も、安全区画にした方が良いかもね」
赤ペンでチェックが入った書類の一部を指差し、上司が言う。
「二方向避難の経路だけど、幅員も小さいし、曲がりも多いから」
「分かりました、伝えます」
夏目課長は、この道20年のベテラン。
穏やかな口調と気の弱そうな見た目ながら、その実、知識と経験は抜群で
下請けや客先からは高い人望を得ているようだった。

チェックを入れる俺の横で図面を眺めている上司の携帯に、電話が入る。
携帯のディスプレイに視線を落とし、一瞬俺に目を向けた。
「じゃ、後は宜しくね」
軽く微笑んだ彼はそう言い残し、電話に出る事無く去っていく。


月末の締め日近くになると、下請けの設計事務所からの請求がメールでやって来る。
図面の作図や各種計算など、多くの業務に関する書類に目を通す中
一通、気になる請求書が紛れ込んでいた。
俺が担当していた物件ではあったが、依頼した覚えも無く、しかも高額。
何かの手違いだろうか、そう思って件の事務所へ電話を入れる。

「今日送って貰った請求書なんですけど、これ、頼んでないと思うんですが」
電話に出た設計事務所の担当は、俺の言葉で少し警戒するような口調に変わる。
「あ、いえ・・・それは、夏目課長に」
「夏目から何か言われました?」
「以前、全額頂けなかった分の、補填と言うことで・・・」
「それにしても、ちょっと、額が大きいですよね」
島の向こうに座る上司に目を向ける。
電話の相手と内容に気がついたのだろうか、彼は席を立ち、俺の方へ向かって歩いて来た。
「それは、課長から・・・ご指示頂いて・・・」
「ちょっと、代わってくれるかな」
口ごもる声と、上司の声が被る。
釈然としないまま、俺は彼に受話器を手渡した。

「夏目です。すみませんね、連絡不足だったようで」
開口一番、彼はそう言って下請けに謝意を示す。
「ええ、これで大丈夫ですんで。これからも、宜しくお願いします」
電話を切った上司は、俺のパソコンの画面に映る請求書のファイルを閉じながら、言った。
「あっちで、話そうか」
温和なトーンの中に僅かに混ざる、不穏な雰囲気。
フロアの外へ向かって歩き出す彼に、俺は黙ってついて行くことしか出来なかった。

階段ホールから突き出たような形になっているバルコニー。
ささやかな喫煙所として機能しているこの場所は、密談の場所としての役割も果たしている。
上司は胸ポケットから箱を取り出し、火を点ける。
泣き出しそうな空から吹く風が、煙を飛ばしていった。
「そろそろ君にも、分かっておいて貰った方が良いかな」
「・・・何を、でしょうか」
その表情に浮かぶ笑みは、いつものものとは違って見えた。
心の奥の猜疑心が、そうさせていたんだろう。
溜め息のように煙を吐き出しながら、彼は俺を見る。
「金の集め方、をね」

□ 36_暴露★ □
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□ 72_虚飾★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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