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真偽★(13/13)

その夜は、激しい雨が降っていた。
勉強を終え、一人、教室を出る。
玄関口で空を見やり、傘を開こうとした時、端の方に誰かが立っているのに気が付いた。

私服姿の友は、長い間雨ざらしだったのだろうか。
濡れて垂れ下がる前髪がレンズにかかることも気にしない様子で、俺が差し出した傘に入ってくる。
電気が点いた部屋を望む校舎の影で、彼はポツリポツリと真相を話しだした。

「オレは、ただ、成績の為に・・・なのに」
評価を少しでも良くする為に、先生に取り入った。
そんな下心を隠さず口にした彼は、自らの携帯電話を俺に差し出す。
画面に映し出されていたのは、数多くの画像のリスト。
その全てが、男のモノを咥える学生の写真だった。
「逆らえば、ばら撒くって、笑いながら脅すんだ。そして・・・」
「八重樫・・・」
唇を噛んで俯く彼の頬を、滴が流れ落ちて行く。

傘からはみ出した肩を、雨粒が濡らす。
うるさい位に耳に響く雨音が、すぐ傍の男の気配すらを掻き消してしまいそうな中
ふと、冷たい声が過る。
「お前のせいだ」
憎しみを湛えた潤んだ眼が、俺を見ていた。
その雰囲気に、身体が強張る。
「みずき」
「・・・何?」
「あの人がイく時に、言う言葉」
得体の知れない気味の悪さが全身を震えさせる。
「そんなの、俺、知ら・・・ない」
「お前に咥えて欲しいんだろ。でも、そんなことさせられないってさ。・・・人でなしが」
八重樫の手が俺の肩を掴み、自らに引き寄せる。
冷えた耳に、熱い息がかかった。
「すげー気持ち良かったよ、お前。後悔が吹き飛ぶくらいな。あいつも、悦ぶんじゃね?」
その囁きが、目の前を暗くした。

絶望を引き摺りながら、友は雨に煙る夜の校庭に消える。
あの温もりで生まれた、彼への想い。
それを覆す、吐き気のするような現実。
再び襲う雑多な感情に呼び起された混乱は、しばらく収まることが無かった。


結局、友は目標としていた理系大学を諦め、英文系クラスへ転籍した。
必修とされている海外留学への申込期限ギリギリだったのは、唯一の幸運だったのだろう。
そんな彼が残して行った、一台の携帯電話。
手の中にある、多くの学生たちの恥辱の時間。
それらを見る度に、俺の中に複雑な心情が芽生える。
どうして、俺じゃ、無いんだ。
どうして、あの人は、何も求めてくれないんだ。
強い羨望は、判断を歪めて行く。
高校卒業直前、先生の結婚の報告を聞いた時、俺の心は、何処かで壊れたのかも知れない。

彼から来る年賀状の住所がマンションから一戸建てに変わったのは、俺が大学3年の時。
その変化は、答えの見えない命題に、俺を駆り立てた。
真新しい一軒家を遠目から眺める。
何回か訪れる内、その中に新たな家族の存在が垣間見えてくるようになった。
俺にとっては、最高のタイミング。
見切れて映る、学生の向こうのぼやけた彼の姿。
プリントした写真を適当な封筒に入れ、彼の家のポストに投函した。

小賢しい策略の結果を知ったのは、翌年届いた、彼からの年賀状だった。
住所は変わっていなかったが、それまで隣にあった奥さんの名前は消えていた。
自業自得だと思うと共に、歪んだ定理が組み立てられていく喜びが顔を緩ませる。


この会社に就職したのは、きっと運命だ。
そこそこ有名な進学校である母校。
当然のことながら、会社の諸先輩たちも、大手の牙城を崩さんと営業をかけていた。
決定打を見いだせない中で入社した俺は、上司から直々に命を受ける。
金に糸目は付けないから、とにかく成果を上げてくるように、と。

恩師との交渉を進めた翌日、俺は他の数学教師にも接触を試みた。
学校では支障があるからと、少し離れた喫茶店に呼び出し
話も半分に、上司から手渡された包みをテーブルに置く。
物分かりの良い男なのだろう。
ただ、彼に前面に出られては、今まで積み上げて来たものが全てふいになる。
あくまで、及川先生の顔を立てて下さい、と付け加えた。


彼が俺をその家に招き入れた時の表情から、おのずと結末は見えていた。
ここまで手はずを整えれば、彼は必ず、罠に落ちる。

俺の身体の下で呆然とする彼の首筋に、軽く吸い付いた。
その口から薄く漏れ出た息が、虚構の家に広がって行く。
赤く腫れた跡に舌を這わせ、唾液を塗り広げるように舐めると、肩が上下に揺れる。
互いのモノを擦り合せるように腰を動かすと、その下半身が小さく身悶えた。
「これで、良かったんですよね」
「え・・・?」
切なげな表情を見せる彼の耳に唇を寄せ、耳たぶを甘噛みする。
湧き上がる喜びを必死で押し殺しながら、囁いた。
「これが、僕らの、真、なんですよね」

□ 54_真偽★ □
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会心の一撃

間宮と及川の両サイドが交互に進み、最終話の13回でどんなどんでん返しが来るのかと思っていたら、会心の一撃ですね。
及川より間宮の方が上手だったけど、似た者同士とも思えますし、そもそも恋愛は道徳で語るものでもないですしね…。

ところで、ブログのコメントというのは、ブログの管理人に対して書く、言わばファンレターであって、第三者に対して通じる文脈をあらかじめ想定しているものではありません。第三者の硝子のハートを心配したら、底意地の悪い京都人の私などは何にも書けなくなりますね。

紅葉の名所で有名な岩倉/実相院。綺麗でした。日本の四季の素晴らしさを実感いたします。

貴女にだけ伝わる言葉。

本来、こう言う終わらせ方はちょっと無粋なのかと思っていたのですが
どうしてもネタ晴らしの話を付けたくて、このような構成になりました。
最後のオチまで書いてから、途中の展開を変えて行くと言う手法を取ったのは
初めてかも知れません。

Blogと言う性質上、やはり、他人の眼と言うのはつきものです。
私だけに見えるメッセージを受け取る事は出来ますが
私から貴女だけに伝わる言葉をお送りすることは仕様上、出来ません。
それだけに、どうしても言葉は選びがちになります。

見るのも見ないのも自由。
どう発信するか、どう受け取るかも自由。
改めて、ネットの無尽蔵で不安定な自由の扱い方を感じさせられます。
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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