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真偽★(3/13)

ある日の放課後。
教室には、居残り自習をする生徒が勉強に励んでいた。

「瑞貴、ここの定理ってどう言うんだっけ?」
俺の隣で数学の勉強をしていた八重樫は、そう言いながらテキストを差し出して来る。
「ああ、それは・・・」
数学が得意だった方では無かったけれど、昨年やって来た数学教師のせいか
それまでに無かった、数学への興味が顔を出して来るようになった。
「良く覚えてんな」
「初めから展開させて行けば、分かりやすいだろ?」
「面倒じゃん。それなら数式覚えた方がマシだよ」
「あんな記号を何十個も並べたもん覚えるよりは、良いと思うんだけど」
「お前、ホント理屈っぽい奴だな」

高校の授業は夜の6時まで。
学習塾へ通う生徒も少なくは無かったが、教室は夜9時半まで利用可能だったので
帰宅時間は、おのずと夜遅くなることが多かった。

時計はもうすぐ9時になりかかる辺り。
同級生たちが帰り支度を始める中、八重樫が携帯電話を取り出した。
黒い本体に、赤いライトがけたたましく点滅している。
画面を見た彼は、小さく溜め息をつきながら立ち上がる。
「帰んの?」
「いや・・・ちょっと、及川先生に聞きたいとこがあって」
「もう、帰ったんじゃね?」
「あの人、結構遅くまでいるから」
「そう。じゃ、俺もうちょっと勉強してるから、終わったら帰ろうぜ」
「分かった」
一瞬切なげな表情をした彼は、ぎこちない笑顔を見せて、教室を出て行った。


室内には、もう誰もいなくなった。
真っ暗な校庭を窓から見る。
時計の長針が6に差し掛かる頃、友人はやっと戻って来た。
「遅かったな」
「・・・ああ」
何処と無く落ち込んだような顔が、不穏な空気を生んでいた。
「どうした?」
眼鏡の奥の眼が、戸惑いを帯びている。
「瑞貴」
「ん?」
「・・・ごめん」
俺に近づいてきた彼は、肩に手をかけると同時に、俺の腹に膝蹴りを喰らわせた。

声にならない呻き声が無意識の内に発せられ、膝が折れる。
倒れかかった上半身が蹴られ、壁に打ち付けられた。
制服のシャツの襟首を掴んだ彼は、更に顔面へと拳を振るう。
痛みと苦しみで、視界が霞む。
あまりに突然のことでパニックになった頭は、完全に思考回路を停止していた。

鉄錆のような味覚が、鼻から口にかけて広がる。
漏れていく吐息は、震えていた。
床に倒れた俺の身体に、八重樫の身体が馬乗りになる。
何かが、唇に当たる。
「・・・ほら、咥えろよ」
俺の反応を待たないまま、彼は俺の口の中に、自分のモノを押し込んで来た、
既に膨れていたそれは、酸素を求める俺の口を塞ぐ。
鼻で息をすることにさえ気が付けないまま、苦しさに悶えた。

ぶれる視界の中に、友人の制服のネクタイが映る。
彼の腰が動く度に、頭が床に擦り付けられた。
喉の奥から、出したことの無いような声が上がって来る。
床に手を付き、前傾姿勢で蠢く友。
滴り落ちて来た液体が、頬に当たり、流れて行く。
どうしてなんだ、脳裏にあった想いは、それだけだった。

抑えきれない声が、徐々に頻繁に聞こえるようになる。
「・・・っう」
一瞬強張ったモノが口の中から抜き出され、すぐに顔に生温かい液体の感触が広がった。
不快感が、背筋を寒くさせる。
目を塞がれたままで聞こえたのは、携帯電話のカメラのシャッター音。
恐怖と屈辱の中、正直、その行為の結末を考えることは出来なかった。


彼は、泣いていたのだろうか。
揺らぐ息が耳に届くと同時に、教室のドアが開く音がした。
「何やってるんだ?!」
若い男の声。
駆け込んで来る足音の後、俺の上にいた男の体重が軽くなって行く。
「お前・・・これは預かる。明日、僕の所に来るんだ、良いね?」
先生が矢継ぎ早にそう話すと、友は謝罪の言葉一つ無く、去って行った。

「大丈夫か?間宮君」
彼のハンカチで、顔に纏わりついた粘液が拭き取られる。
ぼんやりとした眼前には、心配そうな表情を浮かべる及川先生の顔があった。
「何が、あったんだい?」
「・・・よく、分かりません」
動き始めた思考回路を巡らせる。
一から定理を組み立てようとしても、肝心の一の部分が見つからない。
ついさっきまで普通だった八重樫に、何があったのか。

先生の腕が俺の頭を抱えるように回り込み、自身の上半身に抱えられる。
ワイシャツに付いた血が、僅かに滲んだ。
「先生・・・血、が」
「良いんだ」
身体を抱きしめる腕の力が強くなり、彼の顔が髪を撫でる。
「このことは・・・誰にも言わないでおくから。君の為にも、彼の為にも」
「・・・分かりました」
胸ポケットに入れられたシルバーの携帯電話が一回だけ、振動した。
彼は気にする風も無く、その手に力を込める。
俺も、何も考えることが出来ないままで、その胸に顔を埋めた。
温もりが、雑多な感情を押し流して行くようだった。

□ 54_真偽★ □
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偶然に同時刻(笑)

16日の私のコメントが22時27分。まべちがわさんの17日のが同じ22時27分。偶然にも同じ時刻で、ビックリしました。

何年か前に、東京か神奈川だったかの有名進学男子校で、医学部志望の生徒Aが同学年のBが急に冷たくなった事にイライラして勉強が手に着かず、このままでは進学に差し障るからという理由で、ハンマーで殴り殺すという事件。今日のを読んでいて思い出しました!

今日はごめんなさい。

blogの管理画面には、頂いたコメントとその投稿時間が並んでいます。
先ほど見て、少し鳥肌が立ちました。
3日間、同じ時刻。
今日はその時間にお返しすることが出来なさそうなので、先に謝っておきます…。

受験シーズンの高校生の感情は、非常に脆いんでしょうね。
そこで人生が決まる訳じゃ無い、そう実感できるのは、大分先に進んでから。
いつかするかも知れない後悔を恐れるあまり、ちょっとしたことで壊れてしまう。
会社の近くにある進学塾に通う子供たちを帰宅時間に眺めながら
君たちは、そんなに勉強してどうするんだ、と思わずにいられません。
Information

まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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