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未練★(3/12)

「お前みたいなのが、一人で来るような場所じゃねぇと思うけど」
下着の中に手を入れると、硬さを増した性器が小さく跳ねる。
「ど、して」
伏し目がちの表情で、彼は声を引きつらせた。
「ガチマッチョな奴に押し倒されたりしたら、抵抗できるか?」
「・・・その気に、なれば」
「無理だな。何もできねぇまま、ガン掘りされて終わりだ」
眼を閉じて息を一つ飲み、腕の中にいる若い男は気分を落ち着かせようとする。
だが、手の中のモノはますますいきり立ち、ちょっとした指の動きにも反応を見せた。
「そういうのが趣味だっていうんなら、付き合ってやってもいいぞ」
「そんな、こと」
耳元で囁かれる言葉に対して、官能に翻弄されながら首を振る姿が妙に艶めかしい。
ぬるつき始めた指先に、まんざらでも無いのかも知れないと思わせられた。

扱く手を速めると、男が俺の手首を掴んだ。
「何だよ、イきたくねぇのか?」
顔を歪めて視線を投げてくる彼は、口を半開きにしたまま言葉を迷いあぐねる。
ふとした衝動に背中を押され、その唇を奪った。
「ん・・・っふ」
苦しげな声が鼻息と共に抜けていく。
肩に置いていた手を後頭部に回し、首を傾げて深いところまで求める。
狭い唇の隙間に割り込み、狼狽える舌に絡ませると
自身の絶頂を阻止しようとしていた男の手の力が緩んでいった。

彼の頭を肩口に抱え、一気に最終地点を目指す。
激しい吐息と滴り落ちる汗が胸板を滑る。
「うっ・・・く」
一瞬緊張した身体から途端に力が抜け、勢い良く噴き出した精液が互いの上半身を汚した。
紅潮した男の顔が近づいてきて、口づけをせがむ。
仕方ない、といった素振りを見せながら、要求に応じる。
セックス無しでこの店での時間を過ごしたのは、初めてだったのに
今までとは何か違う満足感を抱いたことが、不思議だった。


「来る日とか、決まってるんすか」
シャワーを浴び終えて着替えている最中、若い男はそんなことを聞いてきた。
「別に。ヤりたくなったら、来てる」
「・・・そうすか」
彼の言葉の意図は、すぐに分かった。
「別に、決まった相手求めてる訳じゃねぇから」
とはいえ俺はお守りをしに来るつもりは無いし、来られる時間もまちまちだ。
何より、こいつを一人でこの空間に置いておくことが不安でならない。
「ま、ケツでヨガれるようになったら、相手してやっても良いけど」
「すぐには・・・」
二度とヤりたくない相手では、決して無い。
だから、敢えて突き放した。
「他んとこ行った方が良いって、マジで。何されっか、分かんねぇから」

宴の余韻を引き摺る格好をした自分の姿が、ガラスに映る。
頭の片隅に追いやっていた情けない感情が顔を出してくるのが悔しかった。
「またいつか、縁があるかもな」
寂しげな目をした男にそう捨て台詞を残し、ロッカー室を後にした。


結婚式を終えたばかりの先輩は、すぐさま新婚旅行へ旅立っていった。
「こんな時に旅行なんか行きやがって」
「しょうがないですよ、寺門さんの所為じゃないんですし」
その直後に急な案件が舞い込み、残された俺達は延々残業の日々。
溜め息は無意識に出ていくが、却って自分の気持ちを落ち着かせる冷却期間になっている気がする。
「・・・ったく、早く帰ってこいよ」
「あと一週間は、パラオの海を満喫してるんじゃないですか」
「オレなんか沖縄すら行ったことないってぇのに・・・南国野郎め」
「沖縄無いんですか?修学旅行で行きましたよ?」
「えぇ・・・何だよ、どいつもこいつも」
理不尽なとばっちりを受ける前に、さっさと会話を切り上げる。
日常的に交わされる彼の話題にも、あまり動揺することが無くなってきた。
遠ざかる男のことを思い出す時間も徐々に減ってきていて
こうやって少しずつ昇華されていくのだろうと、自分自身、心の何処かで安堵していた。

けれど、未だ自転車に跨る気力は起きない。
カバーを掛けられてベランダに放置されたロードバイク。
楽しかった思い出が蘇り、皮肉なことに、それが感情を痛めつける。
そろそろメンテナンスしないといけないとは分かっていても
こうやって想いをフェードアウトさせていけば自分自身を傷つけずに済む、とも思ってしまう。


雨模様の三連休初日、土曜日の夜。
店に着く直前、一通のメールが届いた。
写真には、よく晴れた空と彩度の低い紺碧の海が広がっていて、まるで別世界を感じさせる。
そこに人物が映っていないことが、僅かな救いだった。

明日帰途に立つ予定の男のメールは、非日常の時間を堪能している喜びに溢れている。
『こっちは雨が降って肌寒いです。その青空、少し分けて欲しい位ですよ』
『この空を持って帰ってやれないのが残念だな』
『土産話で十分です。気を付けて帰ってきてください』
嬉しかったり、寂しかったり、妬ましかったり。
短いやり取りをしている間でも、やっぱり気持ちが揺れ動く。
どうやったら、この未練を断ち切れるのか。
何でも良いから、きっかけが欲しい。

□ 94_未練★ □
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いつもコメント頂きまして、ありがとうございます。
これからも「待ち遠しい」と言って頂ける物をお見せできればと思いますので
何卒よろしくお願いいたします。
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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