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未練★(2/12)

諦めるということには慣れているつもりだった。
今まで好きになった誰かに対して、その想いを遂げたことは一度も無いし、それが当たり前だった。
けれど、電車の外を流れていく車窓を眺めながら、想像以上のダメージを受けたことを実感する。
諦めきれないどころか、彼らへの妬みすら掻き消すことのできない自分が、余りにも不甲斐無い。

引き出物を駅のコインロッカーに放り込み、場違いな格好で場末の路地を歩く。
心の靄を発散する為、行き摺りのセックスに縋るようになって、どのくらいになるだろう。
好きになる男と、身体の関係を持つ男は違う存在。
先輩の身体に図らずも欲情してしまった時に抱いた激しい自己嫌悪をきっかけに
心と身体は別の物、セックスは性欲を満たすだけのもの、そう、自分に言い聞かせるようにしてきた。
やがて見えてきた5階建ての古めかしいビル。
スモークがかったガラス扉を、一つ息を吐いて、開けた。


1階のフロントでロッカーの鍵を受け取る。
奥のラウンジでは、数人の男たちが煙草を吸ったり、スマホを弄ったりしているのが見えた。
2階に上がり、小さなロッカーに服を詰め込み、軽くシャワーを浴びる。
館内を全裸で歩き回ることは原則禁止されているが、守っている輩は殆どいない。
3階から上は、フロア内の温度が一気に上がる。
オープンスペースになっている3階、パーティションで簡易的に区切られた室が並ぶ4階。
5階には風呂が付いている個室があり、ここは別料金になっている。

一発抜いて、もやもやした気持ちを何とかしたい。
薄暗い空間に見知った適当な男を探してみるものの、こんな夜に限って居合わせないようだった。
ついていない、そう思っていると、部屋の隅に座り込む人影が見える。
どうやら一人らしい。
とりあえずこいつで良いかと、近づいてみた。

俺の気配に気が付いたであろう男が、顔を上げる。
何処か怯えたような目つきをする彼は、かなりの細身で、歳も相当若く見えた。
バリ筋やガチムチの男が好まれるこの店では、相手にされない類の客だろう。
訝しげに見下ろす俺よりも先に、言葉を発したのは相手の方だった。
「オレ、ここ、初めてで・・・あの、ケツは、無理っす」
面倒な奴に声を掛けた。
男に抱いた第一印象は、そんな感じだった。
かといって、他に相手がいる訳でも無い。
「・・・そ。ケツが無理なら口でも良いけど、どうする?」
「大丈夫、す」


壁を背にして座る彼の前に立ち、下半身を突き出す。
「ここ、で・・・?」
「何処でやったって一緒だろ?みんな同じことしてんだから、気にすんなよ」
おずおずと股間に顔を近づけていく姿を見て
こいつはこういう場所どころか、男を相手にすることも初めてなんだろうと思わせられた。
「歯だけ、気ぃつけろよ」
その言葉に、彼は一瞬こちらを見上げ、再び視線を落とす。
ぎこちない動きの舌が性器を這い始め、少しずつ身体が昂ぶっていく。

半勃ちのモノが男の口の中に収まり、快感の波が押し寄せてくる。
唾液を引き摺る下品な音が聞こえ始め、衝動が徐々に満たされていく。
微かな呻き声が彼の頭の動きと連動して漏れ出し、目を閉じた彼の眉間には深い皺が刻まれる。
ストロークを促してやろうと頭に手を添えると、狼狽える視線が俺を刺した。
慣れた奴なら喉奥を突いてやるところだが、流石にそれは気の毒だろう。
そう思いながら首の方へ手を回し、深く、浅く、上下左右に緩急を付けた動きに誘導する。
単純な動きを繰り返して緊張した身体が、少しだけ緩んだように感じられた。

壁に手をつき、彼の口淫に身を委ねた。
竿をゆっくりと扱きながら、咥え込んだ先端をじっくりと舐る。
苦しげな声を上げ、裏筋から下の方へ唇で愛撫していく。
玉に吸い付かれる刺激が尾てい骨の辺りを痺れさせ、段々と平静が保てなくなる。
深い吐息が口から出ていく毎に、男の責めは激しくなり、他人から施される快感に身が震えた。
張りつめた糸が切れる寸前になって性器を引き抜き、彼の首元に押さえつける。
彼の手の上から自分の手を添えて、一気に絞り出す。
「・・・っあ」
乾いた俺の喘ぎに、声にならない驚きの音が被る。
絶頂と引き換えにやってきた疲労感で、上半身を壁に任せた俺に
若い男は、満足げで、それでいて何処か切なげな表情を見せていた。


床の上に転がっているトイレットペーパーで、彼の身体を汚した液体を拭き取り
壁にもたれ、足を投げ出した状態で座る男の隣に腰を下ろした。
貧相な肢体を首筋から眺めていくと、一所の興奮が目に入る。
肩に手を回してこちらへ引き寄せ、もう一方の手を下半身に伸ばす。
明らかに強張った身体を慰める様に、耳元に唇を寄せた。
「何で、ここに来た訳?他にも色々あんだろ?」
トランクスの下で燻ぶる部分を弄りながら、男に問う。
「・・・敷居が、低そう、だったから」

このご時世、大抵のことはインターネットで調べがつくし
ハッテン場と呼ばれる場所の情報も、ある程度のことは知ることができる。
彼も、そういったツールを駆使して新しい扉を開こうとした。
しかし、ここ最近の店の主流は容姿や体型でカテゴライズされている場合が多く
どうやら彼が馴染めそうな店は、見つけられなかったらしい。
確かに、ここの敷居は低いのかも知れないが、だからこそ自分の見てくれに努力をしない男は
大抵の場合、全く相手にされないか、オモチャにされるかのどちらかになる。
恐らく彼は、そこまで想像力を働かせることは、できなかったのだろう。

□ 94_未練★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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