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未練★(10/12)

ガランとして見晴らしの良くなったバルコニーから、住宅が立ち並ぶ夕景が見える。
以前馴染みだった自転車屋の主人は二、三苦言を呈しながらも、再来週までには仕上げると言った。
手帳に予定を書き込む時、その頃は既にゴールデンウィーク前であることに気が付く。
日並びが当たり年の今年は、後半が5連休。
一歩踏み出せば、更に先の世界が見えてくる。
着実に時を重ねていっている気がして、心なしか嬉しくなった。


既に太腿辺りに痛みを訴え始めた男は、湿布で応急措置を取りながらベッドに横になっている。
「おかしいな・・・一応毎日学校までチャリで行ってるのに」
「距離も距離だし、知らない道走るのって、思いの外、緊張するからな」
「でも、こんなに遠出したことなかったから、楽しかったよ」
屈託のない笑顔に吸いこまれ、その額に軽くキスをした。
「ま、今晩はじっとしておけ」
そう言った俺の首に、彼の腕が回る。
「・・・ヤダ」
「明日、帰れなくなるぞ?」
「電車で帰るから、良い」
目の前に迫った彼の顔が傾げ、すぐ後に唇の感触がやってきた。
幾度も触れ合わせている内に、彼の舌が俺の下唇を突く。
拍子に開いた隙間から入り込んできた物が、俺の物と絡み合う。
薄い視界の向こうにある上気した顔を見ながら、その大胆な行動に昂ぶりを感じ始めていた。

ベッドに横たわった俺の上に、彼が馬乗りになる。
Tシャツを脱がされ露わになった上半身に、男の舌が静かに這っていく。
柔らかな刺激が徐々に身体に熱を持たせ、衝動が顔を出し始める。
腹筋の割れ目を指で数回なぞり、いよいよその手がベルトにかかった。
「・・・康平」
「何」
軽い金属音を上げながら、腹回りの拘束が解かれる。
間を置かず、服の中から膨らみ始めた性器が抜き出される。
「オレ、もう、相手・・・できるよ」

俺が何の考えも無しに口にした戯言は、未だに彼の中で遺恨となっているらしい。
愛玩するようにモノを扱く彼は、窺いの眼差しをこちらに向けてくる。
「ゆっくり慣らせば、良いって、言っただろ」
ハッテン場通いでセックスが普通の感覚になっていることは確かだったけれど
強要するつもりは微塵もない。
ましてや、無理矢理貫かれるような行為を受けた彼に対しては、戸惑いもある。
「オレが、入れて欲しい、んだ」
それでも彼は、その行為を望む。
「あの人じゃなく、オレじゃなきゃできないことが、一つでも良いから欲しい」
友人と恋人の明確な境界線を、身体に刻みたかったのだろう。


彼が持ってきたバックパックの中には、些かいかがわしい器具が幾つか入っていた。
ローション、細めのディルド、洗浄器。
どれも、自分で買って、使っているのだという。
「家じゃなかなか使えないけど・・・夜中、試してみたり、してた」
鈍く光る玩具を手にする男の後ろに、疾しい想像が広がる。
「だから、多分、大丈夫」
自らのモノで喘ぐ背中を眺めてみたいという欲求が頭を掠めた。
男の願望を言い訳に、心を決める。
「・・・分かったよ。その代わり、時間かけて解してくから、覚悟しとけよ」
俺の言葉に一瞬たじろいだ彼は、すぐに官能的な目つきに変わり、小さく頷く。
それは、本能を呼び覚ます、決定的な表情だった。


狭いユニットバスの湯船に身を沈める。
顔半分くらいまで浸かり、息苦しさを楽しんでいたところで、彼が入ってきた。
「ちゃんと洗えたか?」
「・・・うん、多分」
どうやら、まだ直腸洗浄には不慣れらしい。
「ま、そいつも慣れだな」
幾分申し訳なさげな顔をする彼に笑みを返し、風呂から上がる。
適当にシャワーを浴びただけの男の身体を後ろから抱き締め、壁に手をつかせた。
「あんまデカい声出すなよ。隣の奴に何だと思われるから」

ローションを手に取り、上半身から下へ身体を撫でると、途端に彼の頭が項垂れる。
乳首を軽く弄り、腹をまさぐり、やがて辿り着いた場所は、既に屹立していた。
「まだ、何もしてねぇじゃん」
軽く指でなぞると、肩が大きく揺れ、吐息が空気を震わせる。
「すげー、興奮して・・・我慢できない」
「イきたくなったら、出して良いぞ」
うなじに唇を寄せ、耳元まで舐りながら、そこから手を離した。
「でも、こっちはしばらくお預けな」
背後を窺う切なげな視線が、より一層、俺の感情を煽る。

腰をこちらへ突き出させ、尾てい骨の辺りから粘液を垂らしていく。
割れ目に沿って流れる液を掬いながら、人差し指を滑らせる。
程なく行き着いた穴は、当然異物の侵入を拒むように閉ざされていた。
数回指を往復させて、タイミングを計る。
男が震える息を吐いたその時、彼の中へ指を押し込んだ。
「・・・っふ」
目の前の背中が一気に強張り、指が締め付けられる。
「力、抜けって」
「ん・・・うん」
背中を擦りながら、徐々に奥へ沈めていく。
生々しくうねる熱い感触が腕の方まで絡みついてくるようだった。
指先を小刻みに動かし壁を刺激していると、まもなく男の反応が変わり始める。
未知の快感に、流されつつあったのかも知れない。

□ 94_未練★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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