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応報★(2/6)

リクライニングチェアに拘束されている男の身体を、カメラが這う。
服装には殆ど乱れが無く、それなのに小刻みに震える身体からは快感に溺れる様子が見て取れる。
画面の外の男から辱めの声を浴び、視界を奪われている彼の口が声にならない喘ぎを吐く。
乱雑に開かれたワイシャツの下には、乳首を責める二つの金具。
下半身にフォーカスが映り、誰かの手が彼の怒張を開放すると
勢いよく立ち上がったモノの先端からは、我慢汁が垂れていった。

***********************************

モデルルームを訪れる機会は、週に2、3回ほど。
彼が毎回対応してくれる訳では無いものの、その姿を目にすることは自然になった。
そして、見慣れる程に、自分の中での想像がリアルになっていく。
少し前に見つけた映像に収められていたのは、アイマスクだけで隠された彼の顔。
低めの鼻と、厚めの下唇の面影は、他人の空似以上に思えた。

「もう、交代のお時間ですよね?」
夕方、夜便のドライバーと交代する寸前に電話を掛けてきたのは、笠松さんだった。
「いえ、大丈夫ですよ。集荷ですか?」
「突然、明日の朝までにっていう書類を求められまして」
「丁度近くにいますんで・・・10分程度でお伺いします」

ビデオの中の男は、必ずと言って良いほどワイシャツにネクタイ、スラックスを身に着けており
作られた物とは違い、着慣れた感があるところが妙な真実味を演出していた。
今のところ、男が出ているであろうビデオは、手元に5本。
その中の大半は同じネクタイを首から下げていて
彼のお気に入りなのだろうと、勝手に想像していた。

「本当にすみません。先方の融通が利かなくて」
俺がモデルルームに入るなり頭を下げた姿に、狼狽と高揚が入り混じる。
「いえ・・・配送センターに直で持っていけば、間に合いますんで」
動揺を悟られない様、急ぐ振りをしながら荷物を受け取った。
「お手数かけます。宜しくお願いします」
「お預かりします」
申し訳の立たない顔で見送ってくれた彼は、画面の向こうの男と、まるで同じ装いをしていた。


あんなビデオに出るくらいなのだから、性的指向は俺と同じはずだ。
とはいえ、性急に事を進めても、はぐらかされるのが関の山。
最悪、俺や会社に不利益をもたらすことだって考えられる。
どうすれば、彼と、関係を持てるのか。
より確実な手段を模索する内、辿り着いたのは一つの行動だった。

夜7時。
理想の住まいを掲げた看板を照らす照明が落とされる。
しばらくすると、建物から数人の男たちが出てくるのが見えた。
しかし、その中に探し人はおらず、更にその10分後、真っ暗になった建物から彼が出てくる。
戸締りの番なのだろう。
自ら閉めた扉に鍵をかけ、何回か確かめた後で駅に向かっていった。

俺が知っている彼は、モデルルームで接客する姿と、カメラの前で狂乱の喘ぎを吐く姿だけ。
チャンスを窺うには、もっと、彼を知る必要がある。
最寄りの駅から電車に乗り、数駅先で更に私鉄に乗り換えた男の後を追いながら
自分の抱く歪んだ執着心を、無理矢理正当化しようとしていた。

程々混雑している車内で携帯に目を落としていた彼が、不意に視線を上げる。
停車駅としてアナウンスされた地名は、聞いたことはあっても、降りるのは初めての場所だった。
職場からは、大よそ40分ほどの距離。
毎朝自転車通勤している俺から見れば、これだけでも一仕事のように思える。
一つしか無い改札を出ると、小さなバスロータリーを囲むように店が並ぶ。
駅近くのコンビニに入っていった男は、5分ほどで弁当と何かが入ったレジ袋を提げて出てきた。

小さな商店街を抜けると、大きな環状線に出る。
道路の向こうは住宅街らしく、空の明るさが明らかに違って見えた。
横断歩道の信号が点滅を始め、前を行く男が駆け出していく。
ここで走り出しては、間違いなく気づかれる。
逸る気持ちを抑えつつ、道路の向こうを歩く、その行方を目で追いかけた。

幸運なことに、彼は横断歩道近くに建つ、道路に面したマンションに入っていった。
当然、自社の物件なのだろう。
比較的新しい15階ほどの中層マンションで
バルコニーの形状から察するに、下半分程はワンルーム、上層はファミリータイプらしい。
暗い窓が目立つ下層のある部屋に、明かりが灯る。
5階の角部屋。
見えるはずもない姿を想像しながら、我ながら気味の悪い達成感に顔が弛んだ。

時計に目を落とすと、夜の9時を回った辺り。
着替えもそこそこに、コンビニで買った弁当を食っているのか。
そして、その後、俺と同じように、好みの男を餌に自慰行為に耽るのか。
画面の向こうの、仮想現実の世界の住人だったはずの男が、すぐそこにいる。
妄想が現実味を帯びてくるにつれ、執着心が肥大するようだった。
奇跡的な偶然を、何としてでもモノにしたい。
帰り道、そればかりが頭の中を巡っていた。

□ 78_狂乱★ □ ※若干のSM表現を含みます。苦手な方はご注意下さい。
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□ 87_応報★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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