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応報★(1/6)

薄暗い室内で、椅子に腰かける一人の男。
低音のノイズに紛れる息遣いが、幾ばくかの昂ぶりを感じさせる。
彼は自らの手で首元からネクタイを外し、襟元のボタンを開け、裾をスラックスから引き抜く。
やがて半開きの唇が微かに震え出し、右手がスラックスのファスナーを下ろしていく。
未だ衣服の下に隠された部分は、けれど奮い立っていることは明らかで
待ち切れないモノを焦らすよう、彼は指を隙間に差し入れ、ゆっくりと撫でまわしていた。

***********************************

「藤堂、お前3丁目の担当だったな」
ある朝のミーティングの際、センターの所長がそう声を掛けてきた。
「そうです」
「今度、あの付近にマンションのモデルルームが出来るらしくてな」
「法人契約してる会社ですか?」
「ああ。再来週くらいに営業が入るらしいから、一応挨拶に行っておいてくれ」

今の運送会社に就職してから、もうじき5年が経つ。
前職は健康食品会社の営業職。
全く畑違いの転職をした当時は、毎日足腰が悲鳴を上げるほどの激務だと思っていたが
トラックの運転にも慣れ、身体が出来上がってくると、案外自分に合った職だと思える様にもなってきた。

担当しているエリアは、都心から10km圏内の住宅が多い街だ。
このところ、マンションの建設ラッシュが続いており、何軒ものモデルルームが林立している。
大手の開発会社は、大抵どこかしらの運送会社との法人契約を結んでおり
今度出来るモデルルームは、ウチが担当している会社の物らしい。

「場所は分かってるんですか?」
「駅出て突き当たったところのコンビニの隣だってさ」
駅裏を走る、狭い道路沿い。
道幅は4tトラックがギリギリすれ違えるくらいだと言うのに、路線バスまで通る厄介な道だ。
「ああ、あそこですね。・・・搬入・搬出もこちらで?」
「いや、それは移転配送の部署でやるらしい」
「分かりました」


勤務体系は4週6休。
独身で、友達もそれほどおらず、これといった趣味も無い俺にとって、休みはそれほど重要でも無い。
長いこと、勤務日よりも多少遅く起きて、洗濯や掃除を適当に済ませる日になっていた。

虚しい休日が過ぎ去ろうとしていた夜のこと。
いつものように当て所なくネットを彷徨い、動画紹介ブログに辿り着く。
キャプチャーされた画像を見て、何となく好みのモデルがいればダウンロードする。
パターン化された性欲解消の方策を取ろうとしていた俺の目を、一枚の画像が釘付けにした。

特に目新しい部分がある訳では無かった。
しかも、モデルの男の姿は、盗撮物だけあって首から上の様子が殆ど分からない。
やや華奢な身体つき、少し低めのトーンの声、右手の甲にあるホクロ。
サンプル動画を観て、僅かな手がかりから男の実像を補完する。
如何にもサラリーマンといった佇まいも、他の商業ビデオには無い魅力で
恋愛対象かどうかは別として、ヤりたい男、であるように、俺には思えた。

その動画をきっかけに、暇さえあれば、ネットの海を彷徨う日々を過ごしている。
有名どころのモデルでは無いことは分かるが、探す手立ては無いに等しく
無修正の盗撮物、それだけに絞っても数は決して少なくない。
一週間ほど経ち、諦めようとしていた矢先に新たな映像を見つけ、引くにも引けなくなっていた。
どんなに疲れて帰っても、彼の姿で自慰行為にふけり、絶頂に達する愉しみが止められない。
久しぶりに夢中になれる対象に出会い、何となく充実した気分になっていたのかも知れない。


年季の入ったコンビニの脇の小路にトラックを停め、車輪止めをタイヤに噛ませて場を離れる。
前面道路に停車することは難しいだろうと考えながら、新たなモデルルームへと小走りで向かった。
掲げられた看板には、この地域の価値を示す値段が並んでおり
それは、まぁ、相場通りなのだろうという素人らしい思考が通り過ぎていった。

ガラスの扉を開けて中に入ると、オープン直前の建物は独特の軽い刺激臭に満ちており
中には、数人の男たちが忙しそうに動き回っているのが見えた。
俺の挨拶に気が付いたらしい一人の営業が、こちらに近づいてくる。
歳は俺と同じくらい、背格好は俺よりも一回りほど小さい感じの、眼鏡をかけた平凡な男だった。

「こちらのエリアを担当しております、藤堂と申します。一応、ご挨拶をと」
「わざわざすみません。これからしばらく、宜しくお願いします」
薄い笑みを浮かべながら、彼は俺が差し出した名刺を受け取る。
その時、不意に見えた右手に、一瞬だけ思考が固まり、また動き出す。
「急ぎの時は、こちらの携帯にご連絡しても大丈夫ですか?」
「ええ。私は6時で交代しますけど、ご連絡頂ければ夜便に引き継ぎますので」
「助かります・・・じゃあ、私の名刺もお渡ししておきますね」
再び近づいてくる、彼の手。
別に、こんな場所にホクロがあるのは珍しいことでも無い。
名刺を受け取りながら、短絡的な思考を追いやろうと試みる。
「でも、ここの前の道、狭くて大変じゃないですか?バスも通るみたいですし」
「そうですね。とりあえず、トラックは少し離れた所に停めるようにします」
けれど、そう思えば思う程、声までもが何処かで聞いたことのあるような、そんな気がしてくる。


受け取った名刺を車の中で眺める。
笠松朗信、首都圏営業部、主任。
ごく普通のサラリーマンにしか見えない彼が、俺が毎夜求めている男なのだろうか。
顔を売る必要のある営業職に就いておきながら、そんなリスキーなことをするとも思えない。
いや、だからこそ、顔が殆ど見えない映像ばかりなのかも知れない。
余りにも出来過ぎた偶然に、妄想と衝動がエスカレートしていく。

□ 78_狂乱★ □ ※若干のSM表現を含みます。苦手な方はご注意下さい。
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□ 87_応報★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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