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応報★(5/6)

コンビニの隣では、用を果たした建物の解体が始まった。
そこから少し離れた幹線道路沿いでは、躯体だけのマンションが空に向かって伸びつつある。
幾人もの理想の住まいを横目に、週初め、普段よりも多めの荷物を載せてトラックを走らせながら
気持ちは既に、明日へと傾いていた。


ビルの谷間の暗がりで、一人のサラリーマンが歩いてくるのを窺う。
俺に気が付くことなく通り過ぎた彼は、数メートル先のビルへと入っていった。
時計に目を落とし、しばらく待つ。
携帯に届いた一通のメールを合図に、軽く深呼吸をして、その場を離れた。

店に入るなり、ニヤつく男が小さな鍵を投げ寄越す。
「あんまり激しいことすんなよ?掃除面倒だから」
「・・・分かってる」
「フラれたら、オレが相手になってやるさ」
「余計な心配、どーも」
鍵に付けられたタグが示しているのは、一番奥まったところにある部屋だった。
「あ、そうだ」
「何?」
「その部屋のTV台、どっかの馬鹿が蹴飛ばして壊しやがったから修理中なんだ。気を付けろよ」

扉の前に立ち、ボディバッグから一枚のDVDを取り出す。
ふとしたことから芽生えた執着心。
偶然に重なった偶然が、その感情を大きく膨らませた。
歪んだ片想いが成就される可能性が限りなく小さいと分かっていても
もう、引き返せない。


鍵を鍵穴に差し込み半回転させると、小さな金属音が立つ。
ノブを回し扉を開けると同時に、室内から勢いよく物音が聞こえた。
中の男が力任せに戸を押えるよりも早く、隙間に身体を捻じ込む。
「なっ・・・え・・・?」
彼の力の勢いで閉まった扉の前で、驚愕の視線を受け止めながら
言葉を失った男に、彼の知らないひとときを差し出した。
「お届け物です。笠松さん」

台におかれた液晶画面には、よくあるビデオの導入部分が流れている。
服装にそれほどの乱れが無いところを見ると、まだ気分を昂ぶらせる前段階だったのだろう。
「何で・・・ここに」
狼狽えた表情のまま、彼は俺の肩に手をかける。
「いや、いいから・・・出てって、下さい」
ある程度力を籠めているつもりなのだろう。
けれど、筋力の差は歴然だった。
彼の抵抗を反動にして身体を翻し、扉を背にするよう、その胸元を左腕で押さえつける。
「貴方が出てるビデオ・・・全部、観ましたよ」
「・・・は?」
レンズの向こうの眼が、明らかな動揺を映す。
薄く開かれた唇からは、何の音も出てこない。
「休みの日は、あんなことして、過ごしてるんですね」
瞬間、彼の頭を巡った選択肢は、幾つあったのだろう。
数十秒の沈黙の後、どの逃げ道も塞がれていると悟ったらしい彼は、やっと俺から目を逸らした。
「・・・金、ですか。目的は」

右手で顎を掴み、無理矢理唇を奪う。
苦しげな声が骨に沁みた。
俺の身体を引き剥がそうと、彼の肘が胸の辺りに突き立てられる。
抗う気持ちが向けられるほどに、気分が盛り上がっていく。
首から耳の後ろに手を回し、振れる頭を押さつけたまま、待ちに待った感触を味わった。

「金なんか、いらない」
息継ぎの間に、そう呟いた。
「じゃあ、何の・・・為に、こんな、こと」
いつもの落ち着いた低い声が、異常な具合で上ずっている。
画面の中から響く喘ぎの、一歩手前の、声だった。
「金、以外に・・・何が、欲しい」
怯えた眼を、真正面から受け止める。
俺が欲しいのは、ただ一つだけ。
「あんたが、欲しい」


素直なアプローチをしていれば、彼が振り向いてくれる可能性はゼロでは無かったのだと思う。
互いに同性愛者。
仕事上の付き合いでも、関係は悪くなかった。
でも、あの時、画面の向こうの彼に惹かれなければ、ただ通り過ぎていく関係で終わっていただろう。
結局、俺たちには、こういう末路しかなかったのか。

眉間に深い皺を寄せ、ずれたままの眼鏡の向こうから、彼は俺を見ていた。
「どうして・・・何で、オレ?」
抵抗の力を弱めながら、それでも未だ、目の前の男の意図が分からないままで混乱している。
「初めは、ちょっと良いなって、思った程度だった」
肩口を押えながら、緩んだネクタイを外していく。
襟が擦れる甲高い音が耳を刺激した。
「でも、あんたがどんな風にオナって、どんな顔で感じて、どんな声出してイくのか、何度も見てる内に」
ワイシャツのボタンを2、3個外し、うなじに顔を寄せる。
薄い整髪料の匂いが僅かな彼の体臭を引き立てながら鼻腔に入り込む。
「引き返せなくなった。自分でも、怖い位、夢中になった」
布を掻き分ける様にざらついた肌の上に舌を滑らせると、得も言われぬ塩味が耳の下を引きつらせ
俺の首筋を、震える吐息が流れていった。

□ 78_狂乱★ □ ※若干のSM表現を含みます。苦手な方はご注意下さい。
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□ 87_応報★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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