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狂乱★(1/5)

日曜日の午後、看板を持ちながら駅前を行きかう人々を眺める。
真冬の割に、今日はそれほど寒くない。
会社のロゴが入ったウインドブレーカーの前を開けると、服の中に溜まった熱が逃げていき
代わりに入り込んできた冷気が、瞼を狙っていた眠気を吹き飛ばしてくれる。
腕時計に目をやると、交代の時間まで後10分ほど。
白い息を一つ吐いて、気合を入れ直した。

「戻りました」
後輩と任を交代し、突貫工事で建てられたプレハブ小屋に戻る。
「お疲れ様でーす」
狭い詰所では、チラシ配りを終えた女の子が数人で談笑していた。
空調が効き過ぎているのか、眼鏡が一気に曇る。
ワイシャツの裾でレンズを拭く俺に、一人の娘が声をかけてきた。
「大変ですね。社員さんなのに」
「ああ・・・まぁ、これも仕事だから。お客さんが一人でも増えてくれれば、良い訳だしね」
もちろん、こんな仕事内容に満足している訳じゃない。
でも、それを悟られないように、笑って答えを返す。

都内の私鉄沿線に建設中のマンションのモデルルーム。
そこの担当になってから2ヶ月ほどが経つ。
好況と言われるマンション需要も、その実、売れているのは立地が良い所だけで
他の大部分では、相変わらず苦境に立たされている。
客足が芳しくないことも本部では織り込み済みなのか、ここに配属された社員は3人だけ。
数人の派遣の子はいるものの、結局、看板持ちやポスティングまで俺たちの仕事になっていた。


「笠松君、ちょっと」
ウインドブレーカーからスーツの上着に着替えた俺に、上司から声がかかる。
「ご案内して貰えるかな」
カウンターの向こうに立っていたのは、中年の男だった。
こういう場所で、この年代の一人客は珍しい。
家族の気配も感じられない雰囲気に訝しむ気持ちを押し込んで、営業スマイルを作る。
「いらっしゃいませ。・・・では、私の方でご案内差し上げます」

モデルルームの間取りは、最多価格帯の2SLDKのプランを模っている。
一通り案内し終わった後、男は他のプランはどうなっているのかを尋ねてきた。
「最も広いプランは、最上階の4LDKになります」
「セカンドハウスで使うつもりだから、広さはそんなに必要じゃないんだよね」
「それであれば、こちらなんかが宜しいかと」
小さなテーブルいっぱいにA3サイズのカタログを広げ、指し示す。
最近需要が増えつつある単身者や投機目的の為に設定されている1LDKプラン。
このマンションでは、日照条件の悪い北東側にその住戸を配している。
「うん、これくらいが丁度良いね。・・・値段も手ごろな感じで」
「ありがとうございます。こちらの東側の窓からは、スカイツリーも望めますよ」
必ず言わなければならないとされている宣伝文句を口にした俺を、彼は軽く鼻であしらう。
「流石に、そういうのに惹かれる歳でもないかな」
「失礼しました。今回は、全室スカイツリービューが売りの一つなもので」

カタログを手に取り、細かく書かれている仕様を真剣に読んでいた男が、ふと顔を上げる。
「遮音性能は、どうなの?」
「こちらについては、遮音等級D-55という、遮音性能的にはかなりハイレベルなものになっております」
マンションにおいて、隣室からの騒音はクレーム数でもNO.1だ。
下手をすると訴訟問題にまで発展しかねない火種に、会社も大分ナーバスになっている。
今回は線路や首都高が近い立地ということもあり、壁厚・スラブ厚200mmと構造のグレードは相当高い。
「このプランでも?」
「ええ、変わりありません」
何かを考える風な表情を見せた直後、彼は顔を緩める。
「それは魅力的だね。・・・前向きに検討させて貰おうかな」
「何卒、宜しくお願い致します。ご不明な点があれば、こちらまでご連絡頂ければ」
好感触な客に、カタログ一式と粗品と、自分の名刺を手渡す。
これは、契約に結び付くかも知れない。
そんな期待を胸に、外に出た男が見えなくなるまで、頭を下げ続けた。


勤務時間を終えた夜。
私鉄とJRを乗り継いで上野に出る。
雑多な小路を抜け、小さなテナントビルに入り、階段で3階を目指す。
何の変哲も無い金属のドアを開けると、視界には小さなカウンターと天井までの大きな棚が入ってくる。
「・・・どうも」
カウンターに頬杖をついたまま煙草を咥える男は、そう言って俺の全身を値踏みするように見る。
棚に並んでいるのは、アダルトビデオのDVD。
その殆どがゲイ向けの品揃え。
適当なケースを手に取り男に渡すと、彼は一つの包みと小さな鍵を差し出した。
「ごゆっくり」

部屋数が多くない代わりに、一部屋の面積は通常のビデオボックスよりも広く出来ている。
サラリーマンがサボりついでに自慰を楽しむ空間、というよりは
実際、近くのクルージングスペースから流れてくる客がサカる場所としての意味合いが大きいらしく
それなりの設備も充実している。
時折迷い込んでくるノンケの男を、虎視眈々と狙う奴らがいるとの話も聞くが
今のところ、そこまで危険な目には合ったことは無い。

男から受け取った包みを開ける。
中には、小型のビデオカメラ。
ディスプレイが置かれている台の下にある浅い棚にそれを置いて、椅子に座る。
カメラの下に携帯を置き、レンズの角度を調整し、一旦席を立つ。
軽くネクタイを緩めて、深呼吸と背伸びをしてから、再び席についた。

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狂乱★(2/5)

このバイトを始めたのは、つい2ヶ月程前のことだ。
誘いの声を掛けてきたのは、カウンターに座っていた、あの男。

「アンタみたいなのがさぁ、ノンケっぽくて、ウケが良いんだよ」
卑しい目つきで差し出したのは、一台のビデオカメラだった。
「どうせ、何発か抜くんだろ?そのついでに小遣い稼げるんだから、良い話だと思うけどね」
「それ、何処に流れる訳?」
「あぁ?・・・そりゃ、言えねぇな」
男の視線が、裏モノも多く混ざるDVDの並ぶ棚を滑る。
まともなルートじゃない可能性もあるのだろう。
「顔出せって言ってるわけじゃねぇんだ。分かりゃしねぇよ」
「・・・幾ら、くれんの?」
「一発1.5万。但し、スーツ着たままで、オナホは無しな」

毎日つまらない仕事の連続で、鬱憤が溜まっていたのもある。
裏に流れても、顔さえ映っていなければ、ばれることは無いはずだ。
「・・・帰りに、渡せば良い?」
「ああ。とりあえず、5分、10分は粘れよ?早漏は人気ねぇからな」
ビデオカメラを手に取った俺に、男は気味の悪い笑みを浮かべる。
その表情に不快な気分を抱えながら、個室に入った。

盗撮自慰物、とでもいうのだろうか。
様々なタイプの男が自慰をしているシーンだけが延々流れるビデオは
俺自身があまり興奮できないこともあって殆ど観たことは無いが、それなりに人気があるらしい。
ノンケリーマン盗撮、とかいっても、実際はこんな風に作られているのだと知ってしまえば
興覚めも良いところだな、と思う。


とりあえず、借りたDVDをセットしてヘッドホンを着ける。
ビデオカメラは、ディスプレイの台に置いた。
その時観ていたのは、スポーツクラブでの云々といった内容だったと思う。
男たちの絡みを眺めている内、ある程度身体も昂ぶっていく。
けれど、視界の端にカメラが映ると、急に気分が萎えてしまう。
まともじゃないことをしている、そんな呵責が興奮を自制させていたのだろうか。

目を落とすと、ディスプレイが置いてある台の下に、棚があることに気が付く。
やや低い位置に付けられた板にカメラを置き、携帯を下に入れて角度を付ける。
液晶画面には、絶妙に見切れたリクライニングチェア。
自分の視界に、カメラは入り込まない。
つまらない悩みから解放された安堵の息を一つ吐き、改めて再生ボタンと録画ボタンを押した。

金髪スジ筋の男が、トレーニングマシンにもたれかかるガチムチ男の腕のタトゥーに舌を這わせる。
卑猥な言葉を囁かれながら、発達した大胸筋を揉まれる厳つい男の口から、荒い息が漏れる。
カメラは筋肉質の身体を滑り、やがて屹立した股間を弄る太い指が見えてきた。

男の指に呼応するよう、自分の下半身に手を伸ばす。
布の上からある程度焦らし、スラックスのファスナーを下ろすと、興奮の感触が手に纏わりつく。
耳には、二人の男の卑猥な吐息が充満する。
椅子に深くもたれるように、天を仰いだ。
身体がぶつかり合う音と、野太い喘ぎが段々と激しさを増していく中で、手の動きを速める。
自分の息遣いは聞こえなかったけれど、自制が効くような段階では無かった。
片方の手でネクタイの結び目を掴み、ひたすら、絶頂を目指す。
ゴールが近いことを示すように手の滑りが良くなり、快感が折り重なる。
痛い様な、痺れる様な、官能的な辛さが全身を覆う。
もう少し、そんな抵抗は無駄だとばかりに、衝動が突き抜けていった。
「・・・っう」
震える手の中に精液が満ちていく。
放心状態をしばらく楽しみ、傍にあるティッシュを引き出す。
男が言っていた制限時間には、達していただろうか。
徐々に戻ってくる理性がそんな疑問を頭に残すと同時に、カメラの停止ボタンを押した。


あのビデオがどうなったのか、俺が知る由も無い。
棚の中のディスクの一部に焼き付けられているのかも知れないが、大して興味も無かった。
とはいえ、こうやってカメラを前にするのは、これで3回目。
需要はあるのだろうと思う。

個室のドアに、小さなノックの音が響く。
「ちょっと、渡し忘れた物があるんだけど」
追いかけるように聞こえる男の声。
そんなもの、何かあっただろうか。
疑問に思いつつ開けたドアの向こうには、見知らぬ大柄の男が立っていた。

一瞬、男の口角が上がる。
ドアの隙間に身体を捻じ込むように入り込んできた奴は、俺の首に手をかけ、身体を壁に押し付けた。
「・・・な」
突然のことに混乱しながら、男の腕を引き剥がそうとする俺を馬鹿にするよう
男は顔を近づけ、更に首を締め上げる。
苦しさが全身を火照らせ、視界を霞ませていく。
上半身を弄るような手の動きを、意識の中で追いかける。
しばらくするとスーツの上着の中を探る手が止まり、中に入っていた物が抜き取られた。
財布の次に盗られてはいけない物。
「こんなバイトやってるくせに、ちゃんと持ってるんだな」
目の前に、それが差し出される。
「これ、ビデオと一緒にばら撒いたら、どうなると思う?」
男の下劣な囁きが、恐怖と絶望の中にこだまするようだった。

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狂乱★(3/5)

「笠松朗信・・・営業部首都圏営業二課。まともそうな仕事じゃん」
男は奪った名刺入れから一枚抜き、その内容を読み上げた。
首を腕で押さえつけられたまま、打開策も思いつかない時間が過ぎていく。
「そろそろオナニービデオにも飽きてきたんだよな」
そう言いながら、奴は俺の名刺入れを床に放り投げ
睨みつける視線をものともせずに、不快な笑みを浮かべる。
「もうちょっと、過激なモノにチャレンジしてみようぜ、朗信くん」
「・・・は?」
腹の辺りに重い衝撃が走る。
「う・・・っぐ」
崩れかけた身体に、更に男の拳が食い込んだ。
「安心しろよ。サイコーに、気持ち良くしてやるから」


身体が縛り付けられたリクライニングチェアが、大きく軋む音を立てる。
背もたれに廻した腕は手枷で繋がれ、M字に開かされた脚がアームレストに拘束帯で括られた。
全てを振り切って逃げるには、俺は、過ちを犯し過ぎている。
受け入れざるを得ない状況への諦めと不安が、身体を大きく震わせる。

軽い金属音を立ててベルトが外され、スラックスと下着が尻から抜けていく。
男が手にしている容器から、上向かされている下半身に向かって粘液が落ちる。
ヌルヌルとした感触が割れ目を滑る度、不快感と快感が綯交ぜになって身体に沁みた。
俺から一旦離れた男は、小さな錠剤を持って再度近づいてくる。
「よく効くんだ、こいつが」
ローションまみれの指で摘んだ物を俺に見せつけ、彼はそう囁く。
抵抗など何の意味も無いと分かっていても、無意識の内に、俺は首を振っていた。

指の先端と共に差し入れられた薬が、肛門の奥へと吸い込まれていく。
「蓋、しておいてやるからな」
指と入れ替わりに入ってきたのは、アナルプラグ。
「・・・く」
あまり経験の無い、酷い違和感と閉塞感が、身体を強張らせる。
顔を歪める俺を満足げに見下ろしながら、男は尻周りの粘液をティッシュで拭き取り、服装を元に戻す。

「折角だから、こっちも焦らしといてやろうか」
男の腕が、背後からワイシャツのボタンを外し始める。
Tシャツがたくし上げられ、筋肉質とは言えない平板な上半身が露わになる。
腹の方から徐々に上がってくる掌は、熱を帯び、湿っぽい。
寒いくらいの部屋の空気に晒されている肌を溶かすように、温かさが拡がっていく。
やがて突起に触れた指が、そこをゆっくりと転がすように弄ぶ。
深い吐息には、まだ、嫌悪感しか含まれていなかった、と思う。

「いっ・・・て」
急に襲った痛みに、拘束具が音を立てた。
乳首を挟み込むピンチコックのネジが、キリキリと音を立てて締められる。
あまりのキツさに、目を閉じて歯を食いしばる。
息を吐くことで忍耐が途切れるような気がして、呼吸すらもままならない。
それでも奴は双方に同じ仕打ちを与え、やはり服装を元に戻していく。

眼鏡が外され、視界がアイマスクで奪われる。
これから起こることに何の手がかりも無いまま、唇を震わせるしか、無かった。
「お前の身体の準備が出来るまで、ちょっと休憩だ」
楽しげな男の声が、耳を掠める。
「おっと、忘れてた」
鼻で笑う声と共に、下半身に刺激が突き抜ける。
「っう、く」
小さな振動音が身体の中を走り回るように響く。
強くも無く、弱くも無いアナルへの責めが、身体を自然と捩らせた。
「後で、もっと太いのブチ込んでやるから、楽しみにしてな」


男が部屋を出ていって、どのくらい経ったのだろう。
部屋の中には、椅子が軋む音と、玩具の振動音と、自分の吐息が充満する。
薬が効いてきたのか、俺の身体がこの所業に屈し始めてきたのか。
闇の中に見え始めてきたのは、降伏の二文字。

ドアが開く音で、虚ろだった意識が覚める。
鍵をかける音の後で聞こえたのは、ビデオカメラの録画の開始を告げる小さな電子音。
誰かの気配は背後に陣取り、その手が俺の顎を撫でた。
「恥ずかしい格好してんな、兄ちゃん」
さっきの男とは、違う声。
「もう、出来上がったか?」
吐息が緊張で荒くなる。
喉元のネクタイが解かれ、ワイシャツのボタンが上から一つずつ外されていく。
布の下を弄る手に当たる違和感の正体を、知ってか知らずか。
「何だ、これ?ん?」
乳首を虐める残酷な物体を、男は指で弾く。
「んっ、う」
強烈な痛みが、喉の奥から拉げた音を押し出す。
Tシャツがたくし上げられ、上半身が空気に触れた。
「こんなの着けて、いつも営業してんじゃないんだろうな」
こいつも、俺の素性を知っている。
「いっ・・・」
せせら笑う声に導かれた絶望感が、再び襲う痛みに吹き飛ばされていった。

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狂乱★(4/5)

ベルトを外す音が聞こえ、スラックスの前が開けられる。
身体の中を巡る衝動には、気が付いていた。
けれど、それは無理矢理植えつけられたものだと、自分に言い訳を繰り返していた。
「何だよ、もう勃ってんのか?」
ボクサーブリーフの上を這う指が、腰を浮かせる。
モノの先端から付け根まで下りていった気配が、更に奥へ進む。
「オモチャで気持ち良くなっちゃいましたって?」
穴を塞ぐ玩具に手をかけた男は、更に奥へと捩り込む。
「はっ・・・あ」
脚が括りつけられたアームレストが嫌な音を立てる。
痛みに混ざる快感を追い払うように、唇を噛み締めた。

下半身の衣服は、折り曲げられた膝の部分まで脱がされた。
アナルプラグが抜かれると、穴から生暖かい粘液が流れ出し、腰の方まで垂れていく。
開放感と遣り切れなさが残る身体に、男は次の戯れを押しつける。
「穴、ヒクヒクさせて・・・だらしねぇな」
割れ目に沿って擦り付けられているそれは、さっきまでの物よりも長く、太い。
ローションであろう液体が量を増し、ピチャピチャと卑しい音を立てる。
アナルセックスの経験は無い。
快感を上回る恐怖が、あったからだ。
それなのに、今の俺は、男の挙動に何かを期待している。

物体の先が、身体の中に入り込む。
男性器を模しているのであろうそれは、カリの部分が吸い込まれたところで止まった。
「もっと、奥までえぐって欲しいんだろ?」
耳元で囁かれる男の声が、痛い程に頭に響く。
「ほら、言えよ。どうして欲しいんだ?」
入り口辺りが掻き混ぜられる感覚が背筋を寒くする。
「言わなきゃ、抜くぞ?」
思わず頭を振った。
それが俺の本心だったのか、浮かされた頭では判断できなかった。
「・・・奥、まで」

窮屈な隙間を異物が押し拡げながら入り込み、下腹部までを痺れさせる。
一度限界まで達したらしい物が、また抜かれ、挿し込まれる。
その動きが繰り返される内に、身体の強張りが段々と解けていく。
深い吐息に音が混ざり込むことも抑えられない。
「感じてんのか?ん?」
言葉は無くても、波打つ身体が、その答えを見せつける。


玩具を体内に残したまま、男は次の標的に手をかける。
乱暴に掴まれたモノは、その勢いで激しく扱かれた。
「うっあ」
狂おしい程の快感が頭の中を白くする。
けれど、流れはすぐに堰き止められる。
先端が指で拭われ、それらしきものが唇に宛がわれた。
「ほら、舐めろよ」
言う通りに、舌を伸ばす。
塩味と酸味が混ざる、えげつない味。
「どうだ?てめぇが垂れ流す我慢汁の味は」
捻じ込まれてきた親指が口の中を穿つ。
翻弄される舌の隙間から唾液が、抗う気持ちと共に垂れていく。

背後から、両肩を押さえる様に腕が回されてくる。
「そろそろ、ここも虐めてやんねぇとな」
けたたましい電動音が聴覚を覆い、直後、鮮烈な刺激が身体中を駆けた。
「うぐ・・・っあ」
二つの硬い感触が、細かな振動を伴いながらモノの先端を挟み込む。
「デカい声出せよ。電マの音に負けてんぞ?」
物体に挟み込まれるモノが、悲鳴を上げながら快感に耐える。
「ああっ・・・」
付け根の方へ下ろされていく刺激が、玉を捉え弄ぶ。
「気持ち良いのか?ん?」
玩具に押しつぶされそうな恐怖と、今まで感じたことの無い快楽。
「い・・・いっ」
全てのしがらみのタガが、一気に外される。

小刻みな震えが、身体の芯まで打ち込まれてくる。
アナルに沈む玩具と、そこに宛がわれた玩具同士がぶつかり合う音が気分を一層昂ぶらせる。
「チンポ、ピクピクしてんぞ。どうした?もう、限界か?」
逆らう感情は生まれなかった。
むしろ、その辱めが絶頂をより近づける。
「・・・も、っと」
興奮した男の鼻息が頬を霞めた。
「人生が終わるって怯えながら、おかしくなれよ。淫乱野郎が」

玩具に扱き上げられるモノは、痛みと、それを覆い尽くす快感に苛まれながら俺を頂点に引き上げる。
「あっ・・・い、もう・・・イ、く」
やっと、終わる。
まだ、終わりたくない。
相反する感情を一掃するように、意識が弾ける。
吹き出した精液が、胸の辺りまで生暖かい感触を残す。
吐き出される荒い息には、有り得ない満足感が滲んでいた。

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狂乱★(5/5)

会社から支給される名刺の枚数は、毎日チェックすることが義務付けられている。
悪夢のような夜が明け、いつものように出勤してから、俺は二度目の悪夢に襲われた。
前日配ったはずの枚数と、一枚、数が合わない。
考えられるのは、たった一つの可能性。
最悪な想像を覆すことも出来ず、しばらく、現実を受け入れられなかった。
刻み込まれた快感の代償は、あまりにも大きい。


それから一週間。
不安に苛まれる日々は変わらず過ぎていった。
「三輪様、お待たせ致しました」
テーブルに着いたのは、俺が少し前に応対をした男だった。
契約を確約された客を前にしても、気分は全く上がらない。
その中でも、上司と共に必要書類やローン、融資の説明を進めていく。
応対には特に問題も無く、仮契約が無事に終わった。
マンションの販売状況を示すボードにバラの造花が飾られ、完売まであと数戸であることが示される。
ここまで来てやっと、もやもやした気分が、少しだけ和らいだ気がした。

「ありがとうございました。今後とも、何卒宜しくお願い致します」
他の客の応対に回った上司の分まで、客に深く頭を下げる。
「こちらこそ。・・・ああ、そうだ」
目の前の男は、自分の鞄から封筒を取り出し、温和な表情で俺に差し出した。
「今度、個人的に、君と話をしてみたいんだけど」
「・・・どういう、ことでしょう?」
「これを見れば、分かると思うよ」
ふと目を細めた彼の顔が、俺の耳元へ近づいてくる。
「ああいうバイトは、まずかったんじゃないのかな?」
不穏な囁きが鼓動を急かし、思考が黒い渦を巻く。
「連絡、待ってるからね」
言葉を失った俺の肩を一つ叩き、男は去っていった。

数枚の写真は、おそらくビデオからキャプチャーされたものだろう。
顔こそ分からないものの、全てに、自分の痴態が写っている。
そして、二つ折りにされた名刺。
契約の話をしている時、彼は俺の名刺を上司の物と並べてテーブルに置いていた。
これは、前に俺が手渡した物じゃない。
狭いトイレの中で必死に震えを抑える。
今、自分が何をすべきなのかが分からない。
最悪な想像は、そのまま、最悪な現実として目の前に迫っていた。


薄暗い部屋は、彼が求めた部屋とほぼ同じ間取りだった。
生活の匂いは全く無く、そこにあったのは、ひたすら直接的な男の匂いだけ。
「どういった・・・ご用件でしょうか」
三輪と名乗る男に指定されたのは、勤務地から30分ほど電車で行った都心に近いマンション。
左腕にコートを下げ、右手に菓子折りを下げて立つ俺を、男は興味深げに眺めていた。
「僕は別に、君を脅そうなんてことは考えてないよ」
伏せた視線に彼の身体が入り込んでくる。
肩を掴まれ、傾くように引き寄せられた。
「面白いものを、見せてあげたくてね。・・・きっと、君に気に入って貰えると思って」

リビングダイニングに置かれた金属製の棚には、何台ものDVDレコーダーが設置され
大きなテーブルの上にはおびただしい数のメディアが積まれている。
その中には、見覚えのある小型のビデオカメラも数台並べられていた。
奥の部屋に近づくにつれ、何かの音が耳に届く。
人の呻き声と、モーター音。
あの夜、身体の奥底に刻み込まれた響きが、吐き気と共に蘇ってくる。

扉を開けた先の窓には、丸の内の夜景と小さな東京タワーが映っていた。
「ここの眺めも悪くないだろう?」
男の穏やかな声が、その窓の前に置かれた椅子と人影で不穏なものに変わる。
仄かな街の灯りに照らされているのは、全身を拘束された男の姿。
スーツを肌蹴られた身体に赤いロープが這い、様々な玩具に飾られていた。
顔は大きなアイマスクに覆われ、局部には残酷な器具が嵌め込まれている。
苦しげな呻き声を上げ、小さく痙攣を繰り返す身体から、目が離せなかった。
「あんな風にしばらく放っておくと、セックスの時、狂ったように泣き叫ぶんだ」
異常な光景に官能を重ね合わせてしまう自分を、冷静に見られない。
ぼやけていく意識の中、不意にネクタイを掴まれ、男と向き合わされる。
「忘れられないんじゃないか?あの時味わわされた快感が」
得体の知れない表情に、声も出なかった。
「狂わせてあげるよ・・・君が勧めてくれた、あの部屋で」


その時、自分が何と答えたのか、もう、覚えていない。
滲む視界に浮かぶのは、青白いスカイツリーと快楽に堕ちていく自分の姿。
全身を駆け巡る刺激は、けれど金属の檻に阻まれた射精を伴うことなく絶頂へ引きずり込む。
繰り返し打ち寄せる波が、何回イったのかという記憶さえ攫っていく。

待ち侘びていた男が扉を開ける。
部屋の一角に置かれた三脚にビデオカメラをセットし、身悶える俺に満足げな笑みを見せた。
唾液が沁み込んだ布製の猿轡が外され、吐息が彼の前髪を揺らす。
「今日も、良い啼き声を聞かせて貰おうかな」
そんな言葉にさえも、狂い始めた身体が熱くなる。

部屋の中に響くのは、身体がぶつかり合う音と、錯乱した俺の声。
薄情な夜景に覆い被さる様に、二人の姿が窓に映る。
掌に冷たい感触を残すガラスさえ溶かしてしまいそうな昂ぶりが、喘ぎとなって出ていく。
やがて、淡い光に煌めく闇を、白い衝動が汚した。

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Information

まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

*** Link Free ***



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