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狂乱★(2/5)

このバイトを始めたのは、つい2ヶ月程前のことだ。
誘いの声を掛けてきたのは、カウンターに座っていた、あの男。

「アンタみたいなのがさぁ、ノンケっぽくて、ウケが良いんだよ」
卑しい目つきで差し出したのは、一台のビデオカメラだった。
「どうせ、何発か抜くんだろ?そのついでに小遣い稼げるんだから、良い話だと思うけどね」
「それ、何処に流れる訳?」
「あぁ?・・・そりゃ、言えねぇな」
男の視線が、裏モノも多く混ざるDVDの並ぶ棚を滑る。
まともなルートじゃない可能性もあるのだろう。
「顔出せって言ってるわけじゃねぇんだ。分かりゃしねぇよ」
「・・・幾ら、くれんの?」
「一発1.5万。但し、スーツ着たままで、オナホは無しな」

毎日つまらない仕事の連続で、鬱憤が溜まっていたのもある。
裏に流れても、顔さえ映っていなければ、ばれることは無いはずだ。
「・・・帰りに、渡せば良い?」
「ああ。とりあえず、5分、10分は粘れよ?早漏は人気ねぇからな」
ビデオカメラを手に取った俺に、男は気味の悪い笑みを浮かべる。
その表情に不快な気分を抱えながら、個室に入った。

盗撮自慰物、とでもいうのだろうか。
様々なタイプの男が自慰をしているシーンだけが延々流れるビデオは
俺自身があまり興奮できないこともあって殆ど観たことは無いが、それなりに人気があるらしい。
ノンケリーマン盗撮、とかいっても、実際はこんな風に作られているのだと知ってしまえば
興覚めも良いところだな、と思う。


とりあえず、借りたDVDをセットしてヘッドホンを着ける。
ビデオカメラは、ディスプレイの台に置いた。
その時観ていたのは、スポーツクラブでの云々といった内容だったと思う。
男たちの絡みを眺めている内、ある程度身体も昂ぶっていく。
けれど、視界の端にカメラが映ると、急に気分が萎えてしまう。
まともじゃないことをしている、そんな呵責が興奮を自制させていたのだろうか。

目を落とすと、ディスプレイが置いてある台の下に、棚があることに気が付く。
やや低い位置に付けられた板にカメラを置き、携帯を下に入れて角度を付ける。
液晶画面には、絶妙に見切れたリクライニングチェア。
自分の視界に、カメラは入り込まない。
つまらない悩みから解放された安堵の息を一つ吐き、改めて再生ボタンと録画ボタンを押した。

金髪スジ筋の男が、トレーニングマシンにもたれかかるガチムチ男の腕のタトゥーに舌を這わせる。
卑猥な言葉を囁かれながら、発達した大胸筋を揉まれる厳つい男の口から、荒い息が漏れる。
カメラは筋肉質の身体を滑り、やがて屹立した股間を弄る太い指が見えてきた。

男の指に呼応するよう、自分の下半身に手を伸ばす。
布の上からある程度焦らし、スラックスのファスナーを下ろすと、興奮の感触が手に纏わりつく。
耳には、二人の男の卑猥な吐息が充満する。
椅子に深くもたれるように、天を仰いだ。
身体がぶつかり合う音と、野太い喘ぎが段々と激しさを増していく中で、手の動きを速める。
自分の息遣いは聞こえなかったけれど、自制が効くような段階では無かった。
片方の手でネクタイの結び目を掴み、ひたすら、絶頂を目指す。
ゴールが近いことを示すように手の滑りが良くなり、快感が折り重なる。
痛い様な、痺れる様な、官能的な辛さが全身を覆う。
もう少し、そんな抵抗は無駄だとばかりに、衝動が突き抜けていった。
「・・・っう」
震える手の中に精液が満ちていく。
放心状態をしばらく楽しみ、傍にあるティッシュを引き出す。
男が言っていた制限時間には、達していただろうか。
徐々に戻ってくる理性がそんな疑問を頭に残すと同時に、カメラの停止ボタンを押した。


あのビデオがどうなったのか、俺が知る由も無い。
棚の中のディスクの一部に焼き付けられているのかも知れないが、大して興味も無かった。
とはいえ、こうやってカメラを前にするのは、これで3回目。
需要はあるのだろうと思う。

個室のドアに、小さなノックの音が響く。
「ちょっと、渡し忘れた物があるんだけど」
追いかけるように聞こえる男の声。
そんなもの、何かあっただろうか。
疑問に思いつつ開けたドアの向こうには、見知らぬ大柄の男が立っていた。

一瞬、男の口角が上がる。
ドアの隙間に身体を捻じ込むように入り込んできた奴は、俺の首に手をかけ、身体を壁に押し付けた。
「・・・な」
突然のことに混乱しながら、男の腕を引き剥がそうとする俺を馬鹿にするよう
男は顔を近づけ、更に首を締め上げる。
苦しさが全身を火照らせ、視界を霞ませていく。
上半身を弄るような手の動きを、意識の中で追いかける。
しばらくするとスーツの上着の中を探る手が止まり、中に入っていた物が抜き取られた。
財布の次に盗られてはいけない物。
「こんなバイトやってるくせに、ちゃんと持ってるんだな」
目の前に、それが差し出される。
「これ、ビデオと一緒にばら撒いたら、どうなると思う?」
男の下劣な囁きが、恐怖と絶望の中にこだまするようだった。

□ 78_狂乱★ □
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□ 87_応報★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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