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応報★(4/6)

無機質なコンクリートの壁を前に、一人のサラリーマンが複数の男から暴行を受けている。
手振れが酷く、画質も悪いカメラが、ぐったりとした男にフォーカスを当てていく。
筋肉質な男がその頭を掴み、ひしゃげた眼鏡を外すと、彼は何かを懇願するように唇を震わせた。
焦点が男たちから離れていくと同時に、中心にいた人物が床に組み敷かれ
何かを引き裂くような鋭い音と、くぐもった声が、悪夢の始まりを告げる如く響いていた。

***********************************

ガラスの扉に貼られた、完売御礼の文字。
残務処理に追われる営業たちは、疲れを見せながらも、皆一様に晴れやかな表情をしていた。
「こちらの撤収は、いつくらいになるんですか?」
書類用の袋に受領印を押しながら問うた俺に、彼は満足げな笑みを見せる。
「来週からは、また別の場所へ移るので・・・ここ2、3日で、といった感じです」
「そうですか。次は、また都内で?」
「ええ。もう少し都心に近い場所です」
「マンション業界は好況なんですね」
「どうでしょう・・・厳しい時期に先行投資しておいた分が、タイミングよく花を咲かせたってところかと」

恐らく、顧客として相対することは最後の機会になるだろう。
「藤堂さんには、いろいろ御無理をお願いしてすみませんでした。大変助かりました」
「こちらこそ。次の場所でも、引き続き弊社とお付き合い、お願いします」
やや上目づかいで俺を見る表情に、淫靡な歪みが影を落とす。
外堀は埋まりつつある。
むしろ、俺たちの関係は、これからが本番だ。


映像をキャプチャーした数枚の画像を見せると、男は僅かに眉を上げ、口元に気持ちの悪い笑みを浮かべた。
「ああ・・・こいつか」
カウンターに写真を投げ置き、キーボードを打ち始める。
「こんなんが良いんだ」
歪んだ表情のまま視線を投げてくる様が、自分の心を詮索してくるようで不快だった。
「好みなんて、人それぞれだろ?」
「何処にでもいるリーマンじゃん。つまんねーな」
調べが付いたのか、彼は一つ息を吐き、灰皿に貯まった長めのシケモクを指で摘み上げる。
「ん~・・・7本くらい?あるけど」
吐き出された煙が当所も無く漂う。
彼の物かどうか判断が付かなかったものも含めれば、手元にあるビデオはそれ以上の数。
「・・・そ、分かった」
俺が知らない彼は、もう、無いらしい。
残念な気持ちと共に、ある種の充足感が身体を昂ぶらせた。

「あ・・・ちっと待って」
そう言って席を立った男が、裏の部屋に消えていく。
パソコンの脇に置き去られた写真を回収し、これからのアプローチについて思案を巡らせた。
自宅は分かっている、次の勤務先も、概ね見当がつく。
けれど、いずれも二人の間の共通項からは外れており、偶然を装うにはリスクが高い。
やっぱり、この場所でケリをつけるのが手っ取り早いだろう。

程なく戻ってきた男の手には、小型のビデオカメラが携えられていた。
「これなんだけど」
「・・・やるわけねぇだろ」
「そーじゃねぇよ」
こちらに向けられた液晶画面には、何やら騒々しい場面が展開されている。
「あいつだと思うんだけど・・・画像が悪くてね」
「自分のとこで撮っといて、わかんねーとか」
「いや、これはウチで作った奴じゃねぇ」
男はカメラの停止ボタンを押し、再び俺を窺う。
「ガチの盗撮。多分、本人も知らねぇんじゃねーの、撮られたの」
カウンターに置かれた数本のコードの横にカメラを置いた彼は、俺の身体を視線で撫でる。
自分も、こんな風に営業マンのことを見ていたのかも知れないと、惨めな気分にさせられた。
「一回ヤらせてくれたら、貸してやっても良いけど?」


革のマスクに顔半分を覆われた男が、ワイシャツだったと思しき布を引き摺りながら背面座位で腰を振る。
苦しげで官能的な乾いた声を吐き出す度に、その喉仏が大きく震えていた。
周りからは、下衆な男たちの卑しげな声。
不意に背後の男が身体を起こし、快楽に溺れる男の頬に手を寄せる。
引き合うように双方の顔が近づき、粘着質な口づけを交わし始めた。
舌と舌とが絡み合い、唾液を啜る音が続く。
突き上げが激しくなったのか、口元だけの表情が大きく歪む。
満足げに鼻で笑う中年の男が、その耳元で、発情の囁きを残した。
「もっと、狂え・・・アキノブ」

男たちの高笑いが部屋に響く中、床に伏した満身創痍の男の様子が映し出される。
既に纏わりつく衣服も無く、全身が精液に塗れたままで動かなくなった身体。
放り投げられた鞄から、見知った色の封筒が顔を出す。
そこで、ビデオは終わった。

独り善がりな行きずりのセックスよりも、遥かに自分の身体は興奮している。
痛々しいほどに昂ぶっているのに、自分の手で抜いてしまうのがもったいない。
彼の中に、ぶちまけたい。
彼の名を、呼びながら。


カウンターの男が、一枚のケースを差し出してくる。
「これ、焼いといた」
それを受け取り、代わりにビデオカメラを手渡した。
「どう?何発抜けた?」
俺の胸元に顔を寄せた奴が、わざとらしく音を立てて匂いを嗅ぐ。
彼とは似ても似つかない男。
とりあえず、今はそれでも良い。
「・・・そうだな」
頭を抱えるように身体ごと引き寄せ、一つ、溜め息をついた。
「お礼に、もう一回。今度は・・・中に出してやるよ」

□ 78_狂乱★ □ ※若干のSM表現を含みます。苦手な方はご注意下さい。
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□ 87_応報★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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