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応報★(6/6)

足元に、深い紺青のネクタイが落ちている。
扉にもたれたままの彼は、俺が拾い上げたそれを虚ろな眼で一瞥した。
「これ、好きだよね」
「え・・・?」
「これで、分かったんだ。あんただ、って」
「そんな・・・そんなのだけで?」

最悪の奇跡だと、彼は言った。
自分が犯した行為を後悔することは、今まで何度もあったのだろう。
もちろん、既に取り返しがつかないことも、よく分かっているはずだ。
「あんたみたいな奴が、他にもいるのかな」
「さあ・・・どうかな」
俺の中に脅迫の意図が無いにしても、彼にとっては、秘密を知る人間だというだけで十分な脅しになる。
その事実に打ちひしがれる姿が、憐れで、何よりも愛おしく感じた。
「でも、俺があんたを想う気持ちは、誰にも負けてない」
頬に手を添え、軽く口づける。
「守ってやるよ・・・俺が」
目を細めた男は、ふと視線を落とし、恭順の姿勢を見せた。


防音仕様になっているであろう扉に手をつかせ、背後から男の身体に手を滑らせる。
スラックスからワイシャツを引き抜き、ベルトを外す。
耳の後ろを唇で愛撫しながら、僅かに揺らぐ鼓動を感じていた。
「・・・鍵、開いてるから。嫌だったら、出てけ」
腹の辺りを弄りながら囁くと、彼の頭が少し下向く。
やがてドアノブに伸びた手が、一瞬の戸惑いの後で、その鍵を閉めた。

うな垂れたままの彼を抱き締める様に撫でていく。
熱を帯びた肌の感触が、掌を通して俺の身体を奮い立てる。
頭上で握り締められた男の拳は、絶え間なく続く微かな刺激で震えていた。
上着を捲り上げ、汗ばんできた背中に舌を這わせると、身体全体が弓なりに反る。
胸の辺りの小さな突起を指で擦りながら、半分ほど露わになった腰回りを執拗に舐った。
決して筋肉質では無く、かと言って痩せぎすでも無く、程よく脂肪の付いた肉感は
画面を見ているだけでは決して分からない、最高の感触だった。

細身のスラックスを膝の辺りに引っ掛けたまま、下半身を自分の方に引き寄せる。
柔らかな素材のトランクスの中では、確かに、彼の衝動が頭をもたげようとしていた。
腹から徐々に下へ手を伸ばすと共に、静かな吐息が腕に熱を絡ませる。
「・・・オレ、も」
呟きの声は、俺から窺えない表情を想像させるに十分すぎるほどの官能さを帯びて耳に届く。
「あんたで、抜いてた・・・」
「・・・マジで?」
「ネタに、するのに・・・丁度良かった。互いに、何も知らない。見てくれだけで、妄想出来る」
所々で言葉を引きつらせながら、彼は想いを吐いた。
「期待に、応えて・・・くれるか」


足元に屈みこんだ彼が、俺の下半身をゆっくりと解いていく。
顔を出したモノは、既に準備が整っているかの如く膨らんでいた。
指で軽く撫でられただけでも、思わず息が漏れる。
顎を少し上げ、数秒の躊躇いの後、男は俺の性器を口に含んだ。

腰に回された手が肉に食い込む程、彼は深く深く、自らの喉に他人の衝動を突き立てる。
支えにしている扉が立てる軋む音と相まった、苦しげな呻きが聞こえてくる度に、快感が身体中を駆けた。
頭の中が官能だけで満たされていくこの瞬間が、来たるべき絶頂へと心身を急かす。


TV台の正面にある、狭い空間。
大きめのリクライニングチェアを退かし、仰向けになる。
安物のラグが引いてあるだけの床の感触は、思った以上に固く背中に響いてきた。
ワイシャツを肩に引っ掛けたまま、彼が俺の上に跨る。
その身体の向こうには、彼が観るはずだったであろうビデオが垂れ流されていて
あれは確か、俺が初めてここに来た時に渡されたやつだったなと、思い出していた。

眼鏡をかけたままの彼の顔がみるみる近づいてきて、すぐ目の前で止まる。
「あんたで、良かったのかもな」
そう呟きながら薄く微笑む男の頬に手を伸ばす。
傾いだ顔に視界を奪われると同時に、目を閉じた。
唇を触れ合わせたのは一瞬、割って入ってきた舌を絡ませ、求め合う。
互いのモノを擦り合せる様に動く彼の腰。
画面の中から出てきた男と、やっと、一つになれる。

やがて、熱く、息苦しい空間に飲み込まれた欲望は、程なく、彼の中へと噴き出されていく。
名前を呼ぶことは、まだ、出来なかった。


彼が営業部から管理部へ異動になるという話を聞いたのは、それから1ヶ月程経ってからだった。
そろそろ、誰かの為に時間を作る努力をしたい。
偶然休みがぶつかった平日の朝、彼はベッドの上でそう笑う。
こんな気分になったのは、初めてかも知れない。
散々回り道をした想いが、やっと、目的地に辿り着いた気がした。

翌日、病欠をしたドライバーの代わりに、いつもとは違うエリアの配送に当たる。
道はあらかた覚えているものの、大口の客が多く、スケジュールはタイトだった。
そんな時、集荷の依頼が端末に届く。
場所はそれほど遠くない。
オペレーターに了解の返事をしながら、頭の中で効率的な道順を辿った。

エントランスに掲げられた名前で、彼の会社が手掛けたマンションであることを知る。
首都高速の高架の傍、まだ新しい建物の中廊下は薄暗く、ひんやりとした空気に包まれていた。
向かった先は、8階の角部屋。
中から出てきたのは、インターホンの声のイメージと違わない、中年の男だった。

着払いの荷物は3つ。
どれも箱は大きいが、重量はそれほどでも無い。
一気に持っていけるだろうと考えながら伝票を箱に貼付する俺に、男が声を掛けてきた。
「君、どっかで会ったこと、あるかな」
その言葉に目を上げ、顔を窺う。
毎日多くの人間と相対するが、彼の記憶は、俺の中には無い。
「いえ・・・初めて、かと」
「そうか、思い違いかも知れないね」
「よくある顔だと、言われますので」
柔和な顔から発せられる声に些細な引っ掛かりを感じながら、笑顔を返した。

***********************************

ふ~ん、お兄さん、こういう系趣味なんだ。
ああ、そうだ、ちょうどお勧めなのがあるんだよね。
作りもんじゃねぇよ、ガチの盗撮。
タチの方が良い身体しててさぁ、マジ抜けるって。
観たい?
そうだなぁ・・・。
じゃあ、一回ヤらせてくれたら、貸してやっても良いけど?

□ 78_狂乱★ □ ※若干のSM表現を含みます。苦手な方はご注意下さい。
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□ 87_応報★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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