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応報★(3/6)

大きな窓に映るのは、首都高速の高架橋と、青く光る電波塔。
縋りつくように窓に身を任せる男は、背後の男の動きに合わせて錯乱したような声を上げていた。
身体がぶつかり合う音が段々と激しくなり、途切れ途切れの喘ぎが快感の波の到来を告げる。
項垂れていた頭が上向き、短い叫びと共に男の精液が窓を汚す。
闇に紛れた顔に覆いは無く、仄かな街の明かりに照らされた表情は恍惚としている。
そこに、営業マンとしての彼の面影は、微塵も無かった。

***********************************

モデルルームの壁に飾られたパネルが、バラの造花で覆い尽くされつつある。
「売れ行き、好調みたいですね」
「おかげさまで。金利が安い内にっていう、駆け込み的な部分もあるんでしょうけど」
彼を筆頭に、目標達成を間近に控えた営業たちの士気は上がっているように見えた。
物件が完売すれば、こうやって言葉を交わす機会は失われる。
けれど、それは二人の間の営利的な関係が終わることを意味しており
却って、彼に近づきやすくなるはずだと考えていた。


彼との出会いから2ヶ月程が経ち、邪な休日を過ごすことが既に習慣になっている。
同僚と飲みに行く以外、これといった行動もとらずに職場から真っ直ぐ自宅へ向かうことが殆どだったが
ある火曜日の夜、彼はいつも乗り換えるはずの駅を通り過ぎ、自宅とは反対方向の街へ降り立った。
平日にもかかわらず人の波が出来ている繁華街を通り抜け、薄暗い小路を男は慣れた風に歩く。
たまに擦れ違う見知らぬ男の雰囲気が、その場所が通常の風俗街ではないことを教えてくれる。

5分ほど歩いたところで、彼はあるビルに入っていく。
しばらくタイミングを見計らった後、そのエントランスを覗き見た。
掲げられたサインには十数件の店名が並んでいたが
風俗店であることは想像がついても、業態までを窺うことは出来ない。
その中の一つに見覚えがあるような店名はあったが、中で鉢合わせするようなリスクは避けたい思いもあり
結局、元来た道を引き返すことにした。

記憶に引っかかっていた名前は、ネット上ですぐに明らかになった。
1、2年前、あるブログで話題になっていたビデオボックス。
ゲイ物の裏ビデオの品揃えが都内でも有数であることと、ハッテン仕様のやや広めの個室が特徴らしい。
水曜定休の彼にとって、今日は休前日になる。
入っていったのはこの店であろうことを、確信した。


天井まで作りつけられた棚の中には、無数のDVDケースが並べられている。
ジャンルと趣向だけが簡単に書かれたラベルから、正直中身を想像することは難しい。
適当に取ったケースには、殆ど伏字になっていないライバル会社の名前があった。
前から見かけることはあったし、同じ場所でかち合ったりした時はつい身体に目が行くこともあるが
あれはただ単に制服の違いであって、どの会社のドライバーも大して変わらないはずだ。
そんなことを考えながら、手に取った物を棚に戻した。

「好みがあれば、それなりのもん、勧めるけど?」
小さなカウンターに肘をつき、煙草を咥えた男が声を掛けてくる。
平日の昼間、普通に考えれば客が来るような時間でもない。
「ウチ、無いもん無いから」
持て余した時間が彼の口を滑らかにしているのだろう。
そして、自慢げに話す男の視線は、明らかに俺の身体を這っていることが分かった。
「・・・じゃあ、適当に見繕ってよ」
ああ、と気怠い笑みを浮かべ、手元のノートパソコンを弄りだす。
あの中に、この膨大な映像のデータが収められているらしい。
「そーだな・・・やっぱ、同じ系統の方が良いんだろ?」
「は?」
「良い身体してっからさ・・・そういう方が良いんじゃねぇの?」
ほぼフィルターだけになった煙草を灰皿に押し付け、男が立ち上がる。
棚に目を滑らせながら数枚のDVDを抜き取り、徐々にこちらへ近づいてきた。

「こんなもんかな」
そう言って、彼は数枚のケースを差し出してくる。
ラベルにあるのは、如何にもバルキッシュな文言の数々。
俺は他人からこういう系統で見られているのかと、少し微妙な気分になった。
ふと、腰回りに他人の感触が当たる。
「手伝ってやろーか?」
「・・・いらない。黙々とマスかきたい時も、あるだろ?」


低い天井の廊下には、点々と無機質な扉が並んでいる。
指定された部屋に入ると、中にはTVとDVDデッキが収まった低い台とリクライニングチェアが置かれていて
左手奥には、人が二人やっと横になれる程度の空間があった。
ドアを背にして眺めた光景に、強烈な既視感を覚える。
飽きるほど観た、平凡なサラリーマンの痴態の一部始終。
その背景が、今まさに、目の前に広がっていた。

男が勧めてくれた映像は、絡みを見ているだけでも満腹になりそうなほどのボリュームで
画面殆どを覆い尽くす褐色の肌に興奮はしないのだと、改めて実感させられた。
こんなことなら、素直に好みを暴露しておいた方が良かったのかも知れない。

「モデルからでも、検索できんの?」
帰り際、カウンターの男が未だ送ってくる熱視線をあしらいながら問いかける。
「有名どころじゃない限り、無理だな」
「じゃ・・・ここで撮ったやつ、なら?」
俺の言葉で、男の表情が明らかに変わる。
中途半端に伸びた髪を掻き上げながら、彼はわざとらしい溜め息をついた。
「バイトする奴ぁ、案外多いんでね」

□ 78_狂乱★ □ ※若干のSM表現を含みます。苦手な方はご注意下さい。
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□ 87_応報★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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