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玩弄★(9/9)

触れては離れ、また触れる。
繰り返される軽い愛撫で開かされた唇の間に、彼の舌が入り込む。
その度に呼吸が遮られ、不安定な身体の痛みと相まって、まるで軽い拷問のようだった。
苦しさから喉が鳴ったそのタイミングで、彼は首を傾げて俺に問う。
「稲富さん、オレのこと、嫌いですか?」
「・・・何?」
上半身を重ねるように圧し掛かる彼の身体。
意図的にやっているであろう膝の動きは、股間を撫でるように小刻みに動く。
「お前・・・やめろって」
「いーでしょ。・・・どーせ、しばらくしたら、いなくなるんだから」
首筋を滑る舌の感触に、背筋が寒くなる。
「こんな、とこで」
本気で抵抗出来ないのは、この瞬間にほだされかけているから。
きっと、後輩もそれを分かっている。

唇を重ね合うことだけは、ずっとしないでおこうと決めていた。
心なんかいらない。
最後の砦を崩さないよう、自分の中で一つだけ、禁忌を作り、守ってきた。
踏みにじられた誓い。
僅かな面積から伝わってくる彼の全てが身体中を震わせ
砦の向こうにある嫉妬と敗北感に塗れた恋心が、顔を出し始める。

彼の腕に頭を抱えられながら、幾度となく口づけを繰り返す。
不自然な姿勢のまま昂ぶる身体が、自制心を揺らがせる。
「週末、まで、待てないのか?」
「待てません」
静かに身体を撫でていく手が、やがて太腿を擦る。
「稲富さんだって、待てないでしょ?」
「いい加減に・・・」
「キスだけで、反応しちゃってるじゃないですか」
指先が、変化を見せつつある部分を捉えた。
思わず引いた身体は、当然のように椅子に遮られる。
「しゃぶれって、言って下さいよ。いつもみたいに」

こんなことは初めてだった。
会社にプライベートは持ち込まない。
ましてや、この場で性欲を発散させようなんて、考えたことも無かった。
就業中に彼の姿を見ても、夜の彼とは別人だと、そうまで思い込ませてきたのに
開かれるスラックスのファスナーから僅かな熱が逃げ出すのと共に、その矜持すら奪われる。
「オレねぇ、稲富さんの、あの眼が好きなんです」
「・・・眼?」
「そう。オレを散々いたぶってる時の、冷たくて、高圧的で、すっげぇやらしー眼」
欲情を明らかにした歪んだ眼に、思考の全てが吸い取られる様な感覚。
「あの眼で見られるとね、もうそれだけで、勃ちそう」

無理矢理引っ張り出されたモノが、彼の手の中で膨らんでいく。
「舌、出して」
唇の上に舌を這わせながら、彼は囁く。
誰か来るかも知れない恐怖と、快感に浮かされる背徳感が思考を鈍らせた。
軽く突き出した舌を、唾液を絡めた彼の舌がゆっくりと舐る。
口淫を模したかのような執拗な行為。
中にまで入り込んだ舌は、軽く吸い付きながら全体を味わうように犯す。
混ざり合う唾液といかがわしい水音が、段々と抗う気持ちを削いでいく。
「ほら、早く。オレのこと、軽蔑して。咥えろって、言って」


視線の先には、まだまとまり切れていない資料の束と、やりかけの表が映るディスプレイ。
ブラインドが下ろされた無機質な窓が、非常灯に小さく照らされていた。
片肘を机につき、頭を支えて目を閉じる。
それほど座り心地の良くない椅子が、彼の頭の動きと共に音を立てる中
息を殺して、後輩から与えられる快楽に耐える。
苦しいほどに気持ち良い。
静かに引き出されるワイシャツの中に、彼の手が入り込む。
脇腹を擦られるくすぐったささえも、絶頂への後押しにしかならなかった。

腹の辺りから上がって来る痙攣が、深く喉を鳴らす。
同時に出ていく精液が、彼の体内へと吸い込まれる。
苦しげな呻き声を上げて飲み込んだ彼は、名残惜しそうに萎れたモノをしばらく咥えていた。
「何、やってんだよ・・・」
床に膝立ちしたままの彼が、俺を見上げる。
「最後の、思い出作り」
「はぁ?」
「会社でするなんて、興奮するじゃ、ないですか。一回、やってみたいと思ってて」
満足そうに笑う彼が取りだしたのは、俺が持っているものと同じスマートフォン。
自分に端末を向けた彼は、俺のモノに舌を這わせながら、その光景を記録に収めた。


立ち上がった彼は、疼いているだろう自身に一瞥をくれた後で俺を見る。
頬に添えられた手に呼ばれるよう、顎を突き出した。
近づいて来た彼の顔は、けれど、眼前で止まる。
「稲富さん」
「・・・何」
「オレのこと、好きでしょ?」
心を見透かす眼が歪み、答えを待たないまま、彼は唇を重ねる。
「・・・身体だけじゃ、満足、出来ないんでしょ」
俺の胸中を代弁するように囁きながら、俺の言葉を遮り続けた。

彼の中にいる男が、誰なのかは未だ分からない。
もしかしたら、身体を虐げる俺の向こうに、あいつを見ているのかも知れない。
そんな恐怖が無い訳では無かった。
しかも、俺が抱く気持ちを分かっていながら、性欲を満たし合うだけの関係と割り切っているのなら
告白は、何の意味も無い。
弄ばれてるのは、俺の方か。

「どーでもいい、そんなこと」
彼の肩を掴み、立ち上がる。
机の上に置いていたスマートフォンを手にし、彼の身体を反対側へ押しやった。
「ここで抜けよ。見ててやるから」
その時、俺はどんな目をしていたのだろう。
怯んだ彼の表情の影に、悦びが覗く。
後輩は、その場に腰を下ろし、ゆっくりと自らの身体を弄り始めた。

□ 68_玩弄★ □
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□ 74_挑発★ □
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コメント

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もやもや。

非公開コメントですが、お返事させて頂きます。

ご無沙汰しております。
早々にリクエスト頂きまして、ありがとうございました。
今回の話は、如何にもやもやするラストにするかを目指して書いていた為
続きを、と言うのはごもっともかと思います。
お届けするのは、季節を一つ跨いでしまう頃になるかも知れませんが
何卒、気長にお待ち頂ければと思います。

まだまだ残暑が続くようです。どうぞご自愛ください。
これからも宜しくお願い致します。

ありがとうございます

お返事ありがとうございました。もう一度読み返しました。確かにもやもやするのですが、今回はもやもやを素直に楽しみました。というか妄想がどんどん広がるのを楽しんだ感じです。読者のワガママで勝手をいってしまいました。すみません。どうぞ気になさらないようにしてください。作品楽しみにしてます。
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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