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玩弄★(1/9)

「お前、飲み過ぎなんだよ」
「そんなこと、ないですよ」
床に転がるビールの空き缶を見ながら、どんどん陽気になっていく後輩を宥める。
「ビールばっかで、よく飽きないな」
「稲富さんだって、芋焼酎、一本空けてるじゃないですか」
「お前が飲まないからだろ?」
週末の夜、こうやって宅飲みをすることは珍しいことでは無かった。
互いの家を行き来しながら、TVを観たり、ゲームをしたり、そんな時間を過ごす。
過去に風俗に誘ったこともあったけれど、あからさまに嫌な顔をされてから、止めた。

6つ下の氏家とは、彼が入社して来た時、OJTのチューターを担当してからの縁だ。
新人研修を終え、学生時代との違いを実感してくる頃。
誰もがナーバスになりかける中で、彼もまた、同じように戸惑いを持っていた。
何の気なしに飲みに誘い、気晴らしにカラオケでもと声を掛ける内に
同じ時間を共有することが増えてくる。
彼女が出来たらそっちを優先させる、そんな約束もあったような気もするが
結局、今のような関係は1年以上続いていた。


機種変更したばかりのスマートフォンに、着信が入る。
「稲富さん、電話ですよ」
「ん?ああ」
手渡された電話をおぼつかない手で受け取った。
「もしもし?」
酔いが混ざる俺の声に、電話の向こうの同期は苦笑で答えた。
「何だ、飲んでるのか?」
「まあ、ちょっと。・・・で、何?」
「今度の送別会のことなんだけど・・・」
院卒で入社して来た同期の海老名は、開発部の出世頭。
既に家庭を持ち、人生の足固めを着実にこなしている。
未だ将来のビジョンが見えていない俺とは、まるで違う。

「来週の金曜日で良いか?」
「来週・・・あ、うん、大丈夫だと、思う」
同じ時期に入社したのは、確か20人ほどだった。
それが一人辞め、二人辞め、今では10人いるかいないかの状態。
月末に会社を去る同期も、新天地を目指す、と言いながら、その実は嫌気がさしたからとのこと。
それじゃ、何処行っても長続きしないだろ、と呆れたことを覚えている。
「また、後輩と一緒なのか」
「まあ、そう」
ふと視線を向けた先の彼と、目が合った。
さっきまでの明るい表情が嘘のような、何処か切なげな顔が、酔いを少し飛ばした。


「誰ですか?」
子供は良いぞ、お前もさっさと結婚しろよ。
そんな常套句をあしらいながら電話を切ると同時に、後輩はそう尋ねてきた。
「同期だよ。開発の、海老名ってやつ」
「え・・・でも、歳が違うんじゃないですか?」
「院卒だから、2つ上なんだよ」
単純な疑問が浮かんだのは、流れで言葉を発した後だった。
「お前・・・あいつ、知ってんの?」

歳も、部署も違う。
開発と俺ら営業とはフロアも違うから、後輩と同期に接点があるとは思えなかった。
「いや、知ってるってほどじゃ・・・無いんですけど」
核心を濁すように、彼はそう言った。
「まぁ、良いじゃないですか」
嘘を吐くのが苦手なのか、秘密をほのめかすのが好きなのか。
意味ありげな笑みを浮かべ、彼は俺のグラスを手に取って焼酎を一気に呷った。


風呂から上がると、ソファに寄りかかる様に床に座り、天を仰ぐ後輩の姿が目に入る。
ワイシャツのボタンを2つ3つ開けた状態の乱れた服装の彼は、今にも崩れ落ちそうだった。
「このまま寝んなよ。片付かねぇだろ?」
足で身体を小突くと、軽く頭を振りながら俺を見上げる。
「あー・・・すんません」
出来上がるのはいつものことだ。
泥酔いし、仮眠を取って、朝帰る。
それが、週末の彼のお定まりだった。
意識を取り戻したらしい彼は、もそもそと自ら飲んだビールの缶をまとめ始める。

「稲富さん」
ソファに座り、グラスに僅かに残った薄い酒を飲み干す俺に、彼は振り向かずに呟いた。
「何だよ?」
「オレねぇ・・・ゲイなんすよ」
ガラステーブルに置かれる缶が、小さな鋭い音を立てる。
TVに映される異国のサッカー中継の声が、やたらと遠く聞こえた。
「・・・は?」
「海老名さん、すげー、気になってた」
「お前・・・何、言っちゃってんの?」
大きな溜め息をついた彼が、俺の方へ視線を戻す。
余りに複雑な表情が、その告白の信憑性を物語っていた。

□ 68_玩弄★ □
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□ 74_挑発★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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