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挑発★(1/3)

「どうしたの?何か、探し物?」
入社して一ヶ月程経った、研修期間の真っ最中。
社員証を紛失して会社のエントランスで右往左往していた俺に、彼は声をかけてきた。
「あの・・・ちょっと、社員証が、どっかにいっちゃったみたいで」
呆れたように笑う彼は、そのまま受付脇の内線電話を取る。
「じゃ、総務に聞いてみるよ。・・・新入社員だよね?名前は?」
「氏家、です」

彼の名前を知ったのは、それから随分経ってからだった。
社内報に載っていた部署紹介の小さな記事。
開発部の主任と銘打たれた写真の横にある名前を、何度も読み返した。
きっと俺のことなど、一つの日常の出来事として流されてしまっているのだろう。
それでも、あの些細な出会いの瞬間が、忘れられない。
机の引き出しに仕舞い込んだ古い社内報を、今でも見返すことがある。


「海老名にぶち込まれるとこでも、想像してんのか?」
きっかけは、一つの嘘だった。
その言葉が、彼の中の何かを刺激したのだと思う。
転がり落ちるように関係は異常さを増し、心を置き去りにした身体だけが先走る。
「いな、とみ・・・さん」
「あ?」
床に座って机に寄り掛かり、自らの身体を慰める俺を、先輩は屈み込んだまま愉快そうに見ている。
首元から下がるネクタイに手をかけ、彼の顔を呼んだ。
「キス、して・・・」
俺が彼に縋る時、彼は必ず目を細めて眉間に浅い皺を寄せる。
敗北感と嫉妬の表情なのだろう。
自分は優秀な同期の代わりなのだと、打ちひしがれているのだろう。

肉体関係を望まない恋愛感情があることを、俺はそれまで知らなかった。
キスをして、身体を寄せ、互いの官能を満たし合う。
今までしてきた多くの片思いには、必ずそんな妄想がセットになっていた。
けれど、長い間慕い続けている男に対してだけは、行為を想像することが出来ない。
俺の醜い欲望で、彼を汚してしまうのが怖かったし
ほんの一瞬の思い出と、若いままの彼の面影だけで、十分満たされた。

半開きの唇の間に、男の舌が刺し込まれてくる。
「ん・・・う」
二人の舌が絡まる程に吐息と唾液が口の中に満ちていく。
性感を押し上げる刺激が、震える身体から我を忘れさせるようだった。
「ほら、早く、イけ」
興奮を隠しきれない声が、目の前で発せられる。
「・・・あ、っは」
モノを扱く手に力を籠めながら、崩れた言葉で更なる責めを強請った。
首筋を舌が這い、熱を帯びた掌が上半身を弄る。
「終わったら、もっかい、オレのしゃぶれよ」
いやらしく高圧的な視線に刺され、やがて、俺の身体は跳ねるように絶頂に達した。


歳の離れた友達のように接してくれた先輩を、慰みの材料にし始めたのは2回目の春頃。
風俗の誘いを断った代わりに、彼の家で数本のAVを観たことが発端だった。
酒を飲みながら、女の喘ぎ声を聞き、揺れる肢体をぼんやり眺める。
時折見切れて映る男優の腹筋で一息つく俺とは対照的に、隣の男は興奮を隠しきれていない。
半ば恍惚とした視線が画面を滑る度、本来の男の本性を見せつけられるようで居た堪れなかった。

2、3本観終えた辺りで、彼はトイレに立つ。
何をしているかは明らかで、短いようで長い時間をビールで紛らわせた。
「お前は良いの?」
まさにスッキリしたと言った赤ら顔で再び隣に座った彼は、そう尋ねてくる。
「俺は、あんま・・・大丈夫っす」
「風俗もAVも興味無いって、何だよ。まさか・・・二次元とかが良い訳?」
「そういうんじゃ、無いですけど」
近づけられた顔が遠のく瞬間、僅かな彼の匂いが鼻に届く。
その時初めて、彼に対して雄を意識した。

舐める様な性的な視線、昂ぶりを表すやや荒い鼻息。
自宅に戻った休日の朝、リアルな感覚を思い返しながら自らの身体を慰める。
あの指に、あの舌に、敏感な所を弄られる邪な想像が次から次へと頭の中に流れていく。
純粋な性欲が、彼に汚され、虐げられることを望む。
そこに、恋愛感情は無かった。
ただ、彼と繋がっていたかった。
だから、自らの秘密を曝け出そうと決めた。


ここが何処なのか、見失ってしまうほどの興奮が二人の間に充満する。
膝立ちになった俺の喉に、彼は滾る器官を突き立てる。
逃げられない苦しさが、身体を震わせ、軋ませた。
「おら、もっと・・・口、締めろよ」

こんな関係が長く続く訳も無いことは、分かっている。
彼はいずれ、我に返り、後悔する時が来るだろう。
激しさを増す凌辱を、全て受け入れる。
想い人の名前を呟き、彼の嫉みを煽る。
そうすることで心を引き留め、猶予を先延ばそうとしていた。

舌に纏わりつく精液の味が時間の終わりを告げる。
口の中から引き抜かれていくモノに唇を寄せた。
静かに頭を撫でる彼の手の感触が、身体に沁みていく。
「・・・俺のもの」
残渣を拭いながら呟いた言葉は、彼の耳には届かなかっただろう。

□ 68_玩弄★ □
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□ 74_挑発★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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