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受容(2/4)

合鍵を貰った時のことは、よく覚えている。
思いを伝えた夜から、一ヶ月もした頃。
彼の会社で新規物件の打ち合わせを行った後だった。
資料と共に渡された小さな袋。
外側から触った感じで、中に何が入っているのかはすぐに分かった。
「平日はお互い、仕事に追われるだろうから。週末が良いだろうね」
自らの手元を整理しながら、彼は少しトーンを落として言った。
「まぁ、君の好きにして良いよ。電話一本貰えると、驚かないで済むと思うけど」
そう笑いながら、彼は席を立つ。

建物を出てすぐ、自分のキーリングに鍵を入れた。
仕事で話す機会はあっても、それほど多くの電話を交わすことも無く
プライベートで会う時間も、なかなか取れない状況が続いていた。
想いばかりが募り、悶々としていた日々に刺さる、一本の鍵。
物質的な繋がりは必要ないと思っていたけれど、想像以上の嬉しさが、頭の中を巡っていた。


玄関のドアを開けると、リビングにいたらしい叔父が廊下に出てくる。
「お疲れ様。随分遅かったね」
「・・・ちょっと、別件が急に」
嘘が口を衝いた後ろめたさで落とした視線に、彼は僅かに目を細めた。
「兄貴の所に、行ってたんだろう?」
瞬く間に看破され、何も言葉が出ない。
彼は静かに俺の肩に手を回し、奥の部屋へと促していく。

ソファに腰を下ろした俺の隣に座った彼は、首を傾げて俺を見た。
「さっき、電話が来てね。郁真に何かあったら、力になってやってくれって、言われたよ」
微かな溜め息が、二人の間の空気を揺らす。
「兄貴やお義姉さんがショックを受けるのは、仕方無い。それは分かるね?」
「・・・うん」
「どんなに年を重ねたって、直視できない事実はあるんだ」
まるで自分に言い聞かせるように呟いた彼は、俺の身体を抱き寄せる。
肩口の温もりを頬で感じ、気持ちが幾分落ち着いていく。
「辛いだろうけど、自分で決めて告白したのなら、現実を受け入れなきゃならない」
「大丈夫。俺は・・・大丈夫」
叔父の手が、俺の後頭部を優しく撫でる。
視線を上げると、眼鏡の向こうの瞳が、真っ直ぐにこちらを見ていた。
想いに偽りがないことを噛み締めながら、再びその身に顔を寄せ、目を閉じた。


防災設備の事前相談の為に所轄の消防局へ赴く日のこと。
待ち合わせ先に現れた叔父の雰囲気が、いつもと随分違うように感じた。
「眼鏡、変えたんだ?」
「ああ・・・この間、検査で現場に行った時に曲げちゃってね」
最近の若い奴らが着けているような、スクウェアフレームの黒縁眼鏡。
「今は、こういうデザインが多くて。かと言って、如何にもって言うのも抵抗あるし」
まだ慣れないのか、しきりに微調整を繰り返す彼に、素直な感想を伝える。
「でも、格好良いよ。似合ってる」
一瞬驚いた表情を見せた彼は、少し照れたように顔を綻ばせた。
「ありがとう。君がそう言ってくれるだけで、満足だよ」


「お待たせしました」
局内の待ち合わせスペースに現れた担当者の顔を見て、目を疑った。
相手も俺の顔を認識し、僅かに表情を変化させる。
以前、一度だけ夜を共にしたことがある男。
こんなところで、遭うなんて。
気持ちを落ち着かせるように、息を吐く。
幸い、隣の席に座る彼は、その微妙な空気の変化に気が付かなかったようだった。

日下と書かれた名刺を手渡してきた彼は、俺たちの名刺を見て当然の疑問を口に出す。
「ご親戚ですか?」
「いえ、本当に偶然でして」
「へぇ・・・珍しいですね」
仕事関係で、俺と彼が親戚であることは公表していない。
それは、彼が伝手を使って俺の会社に便宜を図っていると思われるのが嫌だから、と話したからだ。
「心なしか、似ているような気もしますけど」
「それは、彼が可哀想ですよ。私みたいな中年と一緒にされたんじゃ」
些か疑いの視線を俺に向けながら、正面に座る男は愛想笑いを浮かべた。

打ち合わせは、大きな懸案も無く終わった。
「これは、実務のご担当はどちらになりますか?」
「私が担当します」
「でしたら、念の為、携帯電話の番号も書いておいて貰えます?」
そう言って、局員は俺の名刺を差し出して来る。
何度も消防協議に行っているが、携帯番号を聞かれるのは初めてだ。
それとなく窺った表情には、何かの企みが透けて見えるようだった。
しかし、常識的におかしい訳でもなく、断る理由も無い。
戸惑いを見せないよう、番号を記した名刺を返す。
「じゃ、宜しくお願いしますね」
何処となく満足げな笑みを浮かべ、彼は奥の執務室へ戻って行った。

□ 28_代償★ □ ※小児性愛的表現を含みます。苦手な方はご注意下さい。
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□ 51_受容 □
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テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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セックスレスって?

近親婚の範囲は国や地域によって違います。
日本で認められている「いとこ結婚」は、中国や韓国では禁止。一方、「おじと姪」などの傍系三親等血族の結婚は日本では禁止だけど、ロシアやドイツでは可能。不思議ですね。作家の島崎/藤村もロシアだったら、あんなに悩まなくて済んだのに…。
善継と郁真は、心の繋がりのあるセックスレス夫婦みたいなのかしら!?最近、多いみたいですね、セックスレス夫婦。なんと4割位だそうで、ビックリします。
それを知った夫は、「ウチはそんな事にならない。」と断言(笑)。
でも、お腹の調子が悪い時に寄って来られたら嫌なんだけど…。

根の深い問題。

相手の身体に飽きたから、性欲が減退して来たから。
セックスレスの原因はいくつもあるのだと思いますが
身体を重ねる時間も無いほど追い立てられる毎日を過ごしていることも
その原因の一つになっているのではないかと実感しています。
性欲は、最悪一人でも解消できます。
手を繋いで、抱き合って、キスをして…それだけで満たされてしまうのは
何となく本能が削られているような、切ない感じもしますが
セックスレス=ラブレスとは思いたくないですね。

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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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