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受容(4/4)

溜め息と共に閉じた携帯電話を手に、彼の隣に座る。
「お疲れ様。遅かったんじゃない?」
「ああ、急な打ち合わせが入ったんだ」
少し疲れた様子の手が、俺の顔に触れた。
「今日は眼鏡なんだね」
「この間、片方レンズ流しちゃって・・・明日買いに行こうと思うんだけど、付き合って貰えない?」
「構わないよ」
頬に添えられた手に自分の手を重ねると、僅かに身体を引き寄せられる。
逆らうことなく、彼の身体に身を預けた。
密着感を妨げる眼鏡を外し、携帯と共にローテーブルの上に置く。

「さっきの電話、さ」
「友達かい?あまり良い雰囲気では、無さそうだったけど」
「ちょっと、前にいろいろあった奴で・・・ヤらせろって、しつこいんだ」
軽い溜め息の後、彼は口を開く。
返ってくる言葉は、予想がついた。
違う言葉を期待することも、いつものことだった。
「君の、好きなようにして良いんだよ。オレに遠慮することなんか、無い」

それが彼の優しさなんだろう。
背中を撫でてくれている手が、彼の想いを俺の身体に擦り込んでいく。
分かっている。
叔父と甥と言う如何ともしようがない事実が、元凶であることは。
だからこそ、優しさが鋭い牙になって、心に刺さる。
「どうして」
「ん?」
「どうして、そんなことするなって、言ってくれないの?」
見上げた先にある表情は、切なげだった。
「俺のこと、パートナーとして・・・恋人として、見られない?」
「そう言う訳じゃない。でも・・・」
俺が、俺じゃなかったら、良かったのか。
戸惑いを浮かべる眼を見つめながら、彼が頑なに守り続ける戒律を、唇で傷つけた。

鏡とは違う、柔らかく暖かな感触が身と心に沁みる。
触れ合っていた時間は、ほんの僅か。
彼は俺の背中に腕を回したままで、唇を震わせていた。
「俺は、善継さんだけ、見てたいんだ」
鼓動が早くなるのを感じる。
混迷の色を深めていく顔に手を添えて、呟いた。
「・・・分かって」

血縁関係は、障害になっているだけじゃない。
繋がりがあったからこそ、俺はこうやって、彼と向き合うことが出来ている。
散々恨んできた、相反する現実。
それが、眉間の辺りに当たったフレームと、遅れてやってきた幸せな感触で溶けていく。
「・・・辛い思いさせるつもりじゃ、なかったんだ」
落ち着いた口調で囁きを残した唇が、再び重なり合う。
短い時間の中で、激しい高揚感が、身体中を駆けて行った。


気を付けてくださいね、そう苦笑する店員に軽く頭を下げながら、店を後にする。
眼鏡の違和感からやっと解放された俺は、隣を歩く彼に尋ねた。
「善継さんは、コンタクトにしないの?」
「もう、この歳だしね。オレはこのままで良いよ」
不意に眼鏡を外した彼の眼が、僅かに鋭さを帯びる。
「人相も、悪くなるだろ?」
その問いに答える言葉は、流石に往来の中では発することが出来ず
気にすること無いのに、と笑顔を返した。

「他に何か買っていく物があるなら、見て行こうか」
百貨店のエスカレーターで振り向き、彼は言った。
差し掛かるフロアは、ちょうど紳士用品売り場。
「そう言えば・・・名刺入れが大分古くなったから、ちょっと見てみようかな」

売り場に並ぶ品物は、思った以上にバリエーションが豊富だった。
革製のものから金属製に至るまで、デザインも千差万別。
中でも目を引いた名刺入れは、持った感じも悪くない。
俺たちを認めた店員がやってきて、声を掛けて来た。
「何かお探しですか」
「これ、欲しいんですけど」
差し出す手が、叔父の手で制される。
「あと、色違いのこっちも貰えるかな」
「ご会計は?」
「一緒で」
「え・・・そんな、良いよ」
ありがとうございます、と店員は棚の下にある箱を2つ取り出す。
突然の申し出に驚く俺の肩を軽く叩き、彼は目を細めた。


彼の部屋に戻ると、シンプルにラッピングされた包みが手渡された。
「ありがとう・・・でも、本当に良かったのに」
「まぁ、記念みたいなもんさ」
「記念?」
意図がはっきりしない俺の顔を、彼の手が優しく包み、傾げた顔が近づいてくる。
一瞬唇を触れ合わせ、彼は穏やかな表情を浮かべた。
「・・・そう言うの、大切にする方なんだ?」
「一年中、同じ毎日じゃつまらないだろう?」

現実を認めたくなくて、口にしなかった言葉。
「キス、して。・・・叔父さん」
戸惑いながら、躊躇いながら、全てを受け入れて、彼と共に送る人生。
抱えるものも、引き摺るものも、減りはしない。
その代わり、大切にしたいものも、増えていく。
灰色の毎日に少しずつ彩りを与えてくれる些細な出来事を抱えながら、また一歩前に進む。

□ 28_代償★ □ ※小児性愛的表現を含みます。苦手な方はご注意下さい。
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□ 51_受容 □
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テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

コメント

非公開コメント

じんとしました

ありがとうございました。何度も読み返しました。近親姦や小児性愛は結構軽々しくBLでは扱われていますが、まべちがわさんのストーリーはとてもリアルでした。それだけに他にはない罪悪感や危ない感じがよく出ていたと思います。二人が幸せになるのは数々の困難があるのだろうけれど、乗り越えていってほしいと心から思ってしまいました。
ようやく寒くなってきました。どうぞご自愛ください。
sasukia

ホッとしました。

そのお言葉を頂けて、本当に良かったです。
自分には無い感情、かと言って軽々しく妄想だけで片付けられない感情と言うことで
この話に限らず、いつも葛藤の繰り返しです。
これからも、どうぞご閲覧のほど、宜しくお願い致します。
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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