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代償★(1/8)

「今日は、何して遊ぶの?」
「そうだな・・・いつもとは、ちょっと違うこと、しようか」
「どうしたの?・・・何か、怖いよ」
「おじさんと一緒だから、怖くなんか無いだろ?」
「でも・・・パパに、怒られる」
「大丈夫、おじさんが、守ってあげるよ」

歪めた遠い記憶で、今の身体を慰める。
子供の身体が、こんな快感を覚える訳も無いのは分かっている。
それなのに、どんな動画より、画像より、過去の男とのプレイよりも
俺の身体を昂らせる、疚しい想像。


「今度の物件なんだけどね、新規のお客さんなんだよ」
上司である足立室長は、そう言って担当者の名刺と仕様書と図面を手渡してくる。
「規模は小さいけど、ま、初めてだからね」
「事務所ビルですか」
「そう。とりあえず、相手の対応とか、ペースをこれで掴んでくれる?」
「分かりました」
「そう言えば、これの担当の人、君と同じ苗字なんだ。珍しいよね」
手渡された名刺に視線を落とす。
記された名前に一瞬言葉が出なかった。
そんな俺の表情を見て、室長が尋ねる。
「もしかして、親戚とか?」
「いえ・・・多分、違うと思います」
「じゃ、後は君の方から連絡してくれるかな。まず、ざっくりした見積りが欲しいって言ってるから」

営業を兼ねる室長が持ってきた物件の発注先は、中堅ゼネコン。
10年ほど前に政治家との贈収賄事件でニュースを賑わせて以来、鳴りを潜めていたが
最近、マンションや中小物件を中心に、徐々に復活して来ている。
その社名の下に書かれた、課長と言う役職と、幾つかの資格と、俺と同じ苗字の名前。
知らない名前じゃない。
それは、忘れるように仕向けられた、幻の名前。


夏の暑い日だった。
大好きだった叔父と公園で遊んだ帰り、家で出迎えた父は、俺の姿を見て血相を変えた。
水飲み場でふざけているうちに、全身ずぶ濡れになってしまった俺は
上半身だけ裸という格好だった。
父は、彼と手を繋いだ俺を無理矢理引き剥がし、家の中へ促す。
「お前・・・どういうつもりなんだ」
「何がだよ?」
「オレの子供に、手を出してるのか」
「そんな訳・・・無いだろう?」

物陰からその様子を見ていた俺は、父と叔父が言い争っていることが、ただ悲しかった。
言っている意味はよく分からなかったけれど、大変な状況であることは子供心に感じていた。
「ホモだってだけでも最悪なのに、更にショタコンか?」
「なっ・・・」
「弟だからと思って、信用してたのに」
「オレは、何も、してない・・・」
「二度と、郁真に顔を見せるな。・・・オレにも、な」

その後、父は俺に、公園であった出来事を事細かに聞いてきた。
何をして遊んだのか、何を話していたのか。
幼い俺は、その雰囲気が怖くて、泣きながらポツリポツリと言葉を口にする。
父の声は決して優しいものではなく、怒りを抑えた静かなものだった。
「・・・叔父さんのことは、もう忘れるんだ。良いね」
あの人は、関わっちゃいけない人なんだ。
真剣な目が、幼稚な心に固く鍵をかけた。


俺の性的指向は、彼によって目覚めさせられた訳じゃ無い。
あの日も、その前にも、叔父に何かされたと言う事実は無かった。
男を性的対象として見るようになったのも、あれから随分経ってからだ。
けれど、俺は今でも、歪曲した彼との思い出で、欲求を満たしている。
初恋、だったんだろうか。
記憶の奥底に眠る、叔父の声と眼差し。
名刺の裏に透けて見えるようで、手が震えた。

「橘ですが」
電話の向こうの声は、間違いなく本人だった。
円熟味を増した、男の声。
父とは5つくらい離れているはずだから、50代になったくらいか。
「お世話になります。今回担当させて頂きます、橘と申します」
「こちらこそ。・・・奇遇ですね、同じ苗字とは」
「本当に。私も驚きました」
彼の様子に、相手が甥であると言うことに気がついた風は無かった。
子供の頃から、20年近く会っていないのだから、当然だろう。

「一度、詳細を打合せできればと思ってるんですが、如何ですか?」
概算の見積り金額を伝えた後、彼はそう提案してくる。
「ええ、今週なら・・・金曜日でどうでしょうか」
「夕方でも構いませんか?午前中は別件の打合せがあるもので」
「分かりました。では、夕方に。時間は、後ほどご連絡下されば」
結局、素性を明かす事無く、電話は終わる。
仕事であることは承知していても、何処かで期待してしまう自分がいた。
心の空白を埋める、所業を。

□ 28_代償★ □   
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□ 51_受容 □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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