Blog TOP


代償★(1/8)

「今日は、何して遊ぶの?」
「そうだな・・・いつもとは、ちょっと違うこと、しようか」
「どうしたの?・・・何か、怖いよ」
「おじさんと一緒だから、怖くなんか無いだろ?」
「でも・・・パパに、怒られる」
「大丈夫、おじさんが、守ってあげるよ」

歪めた遠い記憶で、今の身体を慰める。
子供の身体が、こんな快感を覚える訳も無いのは分かっている。
それなのに、どんな動画より、画像より、過去の男とのプレイよりも
俺の身体を昂らせる、疚しい想像。


「今度の物件なんだけどね、新規のお客さんなんだよ」
上司である足立室長は、そう言って担当者の名刺と仕様書と図面を手渡してくる。
「規模は小さいけど、ま、初めてだからね」
「事務所ビルですか」
「そう。とりあえず、相手の対応とか、ペースをこれで掴んでくれる?」
「分かりました」
「そう言えば、これの担当の人、君と同じ苗字なんだ。珍しいよね」
手渡された名刺に視線を落とす。
記された名前に一瞬言葉が出なかった。
そんな俺の表情を見て、室長が尋ねる。
「もしかして、親戚とか?」
「いえ・・・多分、違うと思います」
「じゃ、後は君の方から連絡してくれるかな。まず、ざっくりした見積りが欲しいって言ってるから」

営業を兼ねる室長が持ってきた物件の発注先は、中堅ゼネコン。
10年ほど前に政治家との贈収賄事件でニュースを賑わせて以来、鳴りを潜めていたが
最近、マンションや中小物件を中心に、徐々に復活して来ている。
その社名の下に書かれた、課長と言う役職と、幾つかの資格と、俺と同じ苗字の名前。
知らない名前じゃない。
それは、忘れるように仕向けられた、幻の名前。


夏の暑い日だった。
大好きだった叔父と公園で遊んだ帰り、家で出迎えた父は、俺の姿を見て血相を変えた。
水飲み場でふざけているうちに、全身ずぶ濡れになってしまった俺は
上半身だけ裸という格好だった。
父は、彼と手を繋いだ俺を無理矢理引き剥がし、家の中へ促す。
「お前・・・どういうつもりなんだ」
「何がだよ?」
「オレの子供に、手を出してるのか」
「そんな訳・・・無いだろう?」

物陰からその様子を見ていた俺は、父と叔父が言い争っていることが、ただ悲しかった。
言っている意味はよく分からなかったけれど、大変な状況であることは子供心に感じていた。
「ホモだってだけでも最悪なのに、更にショタコンか?」
「なっ・・・」
「弟だからと思って、信用してたのに」
「オレは、何も、してない・・・」
「二度と、郁真に顔を見せるな。・・・オレにも、な」

その後、父は俺に、公園であった出来事を事細かに聞いてきた。
何をして遊んだのか、何を話していたのか。
幼い俺は、その雰囲気が怖くて、泣きながらポツリポツリと言葉を口にする。
父の声は決して優しいものではなく、怒りを抑えた静かなものだった。
「・・・叔父さんのことは、もう忘れるんだ。良いね」
あの人は、関わっちゃいけない人なんだ。
真剣な目が、幼稚な心に固く鍵をかけた。


俺の性的指向は、彼によって目覚めさせられた訳じゃ無い。
あの日も、その前にも、叔父に何かされたと言う事実は無かった。
男を性的対象として見るようになったのも、あれから随分経ってからだ。
けれど、俺は今でも、歪曲した彼との思い出で、欲求を満たしている。
初恋、だったんだろうか。
記憶の奥底に眠る、叔父の声と眼差し。
名刺の裏に透けて見えるようで、手が震えた。

「橘ですが」
電話の向こうの声は、間違いなく本人だった。
円熟味を増した、男の声。
父とは5つくらい離れているはずだから、50代になったくらいか。
「お世話になります。今回担当させて頂きます、橘と申します」
「こちらこそ。・・・奇遇ですね、同じ苗字とは」
「本当に。私も驚きました」
彼の様子に、相手が甥であると言うことに気がついた風は無かった。
子供の頃から、20年近く会っていないのだから、当然だろう。

「一度、詳細を打合せできればと思ってるんですが、如何ですか?」
概算の見積り金額を伝えた後、彼はそう提案してくる。
「ええ、今週なら・・・金曜日でどうでしょうか」
「夕方でも構いませんか?午前中は別件の打合せがあるもので」
「分かりました。では、夕方に。時間は、後ほどご連絡下されば」
結局、素性を明かす事無く、電話は終わる。
仕事であることは承知していても、何処かで期待してしまう自分がいた。
心の空白を埋める、所業を。

□ 28_代償★ □   
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■   ■ 5 ■   ■ 6 ■   ■ 7 ■   ■ 8 ■
□ 51_受容 □
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■
>>> 小説一覧 <<<

代償★(2/8)

「ダメだよ、そんなとこ、触っちゃ・・・何か、変な感じが、するよ」
「そう?どんな感じなのか、言えるかい?」
「よく、わかんない。・・・くすぐ、ったい、みたいな」
「・・・嫌?」
「や、だ・・・やめて、おじさん」
「ホントに、嫌なの?やめちゃおうか?」
「・・・やだ・・・ううん・・・やじゃ、ない」


父ほどの歳の男は、待ち合わせ場所に現れた俺を見て訝しげな表情を浮かべる。
「君・・・まだ、高校生・・・?」
制服さえ着ていなかったけれど、元から童顔の俺は一目でそれだと分かっただろう。
携帯サイトの掲示板には、当然のように誤魔化した歳で登録していたから
彼が驚くのも無理はなかった。
「良いの?オレみたいなオジサンで」
「・・・はい」
初めてになるであろう男は、俺の顔をしばらく眺めた後、言った。
「そう。じゃあ・・・楽しもうね」
見も知らぬ男に、性的欲求の相手として見られる瞬間。
自分で望んだはずなのに、恐怖と緊張で身体が強張った。

あの頃から、自分と同年代の男には全く興味が無かった。
一目惚れするにしても、父や叔父に相当する年齢の男ばかりだった。
無意識の内に、幼い時に満たされなかったものを欲していたのだろうか。


高校生の俺を連れて、何処にも行き様が無かった彼は、自らの車をその場所に選んだ。
震える俺の手をヘッドレストに固定し、アイマスクで視界を奪う。
「大丈夫、怖がらなくて良いよ」
優しく囁きながら、彼の手が頬を撫でる。
震えで半開きになった俺の唇に、彼の唇が重なった。
想像以上に柔らかい感触。
その唇は、しばらく留まった後、頬を辿り耳へ滑る。
耳たぶを軽く噛みながら、手は首筋を撫でていく。
くすぐったくてもどかしい感覚が、背徳感の中で、快感に変換されていった。

乾いた手がシャツの中に入り込んでくる。
違和感に思わず声が漏れた。
二本の腕に挟まれるよう、背中と胸を柔らかくまさぐられる。
「怖い、かな?」
「・・・は、い」
「素直に、感じて良いんだよ」
僅かに興奮が感じられる声が耳を刺激した。
指が乳首を撫でる。
自分の息遣いが車の中に充満するのを感じ、身体が更に熱くなる。

徐々に上半身が浮いてくる。
彼の手は、ジーパンの上から腰や太ももの辺りを動き、やがて股間を捕らえた。
経験の無い刺激を受けた身体は、既に反応を見せていて
それを知られるのが怖かった俺は、つい戸惑いの言葉を投げかけてしまう。
「ちょ、っと・・・待って」
まるで俺の言葉が聞こえなかったかのように、彼はその手の動きを止めない。
モノを根元から撫でる感覚が、腰を浮かせる。
「やっぱ・・・無理・・・」
背筋を強張らせる刺激を受けながら息絶え絶えに懇願すると、彼の唇が声を遮る。
唇が僅かに触れる距離で、彼は俺に問いかけた。
「ここで、止める?」
ファスナーが下ろされ、開いた部分から手が入り込む。
トランクスの上から先端をこする様に撫でられる。
「や、め・・・」
「・・・聞き分けの、無い子だ」
凄みの混ざるその声に、急に後悔が襲う。
自分が晒されるであろう想像もつかない快感に、脅えていた。

ベルトが外され、ジーパンの前が開く。
外に出されたモノを、彼の手が緩やかに撫でる。
「若いと、勃ちが早いね」
恥ずかしさを煽るような口調で、彼は言葉を投げた。
「こんなにピクピクさせて・・・でも、嫌なら、しょうがないな」
そう言って、彼はモノから手を離し、シャツをたくし上げて行く。
露わになった上半身に、彼の舌が静かに這う。
生暖かい感触が上がってきて、身を捩る。
拍子に拘束された手首に痛みが走り、逃げ道が無いことを知らしめられた。

背中に回された彼の手に力が入り、胸を突き出すような格好になる。
舌が敏感な突起を捉え、舐り上げる。
押し殺した喘ぎが車内に響いた。
もう片方を指で軽く挟みながら、彼は愉快そうに鼻で笑う。
「敏感だね」
「も・・・たす、けて・・・」
快感が脅威に変わっていく。
この刺激をどう受け止めて良いのか、分からなかった。
「助けを呼んだって、誰も来ないよ?」
彼の指の動きは段々と激しさを増す。
首を振りながら、やり場の無い憤りに耐えた。
「言っただろ?素直に、感じてごらん」
両方の乳首が指で弄られ、摘み上げられる。
声を抑え過ぎた喉の痛みは、大きな波に飲み込まれていった。

□ 28_代償★ □   
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■   ■ 5 ■   ■ 6 ■   ■ 7 ■   ■ 8 ■
□ 51_受容 □
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■
>>> 小説一覧 <<<

代償★(3/8)

「じゃ、ここは、どうかな?」
「ん・・・」
「気持ち、良い?」
「うん・・・きもち、い・・・」
「じゃ、おじさんも、気持ち良くしてくれるかい?」
「どう、したら・・・いいの?」
「ここ、触ってくれるかな?手で、ぎゅって握って・・・」


身体へのリアルな刺激と、頭の中の妄想がリンクする。
無垢なものを汚していく興奮が、男の声から嫌と言うほど感じられた。
彼の意図するままに反応を見せ始める身体が、官能に溶かされて行く。

一瞬、彼の手がモノに触れ、背筋が寒くなる。
声にならない声が、自分の耳を支配する。
「もう、限界かな?」
その言葉に、焦燥感が募る。
首筋や腹、上半身の至るところで、彼の唾液が蒸散する寒気を感じながら
俺は無意識の内に、腰を浮かせる。
彼はその格好を鼻で笑いながら、意地の悪い口調で囁いた。
「どうして欲しいのか、ちゃんと、自分の口で言えるよね?」
「・・・触って」
「何を?」
モノの先端が指で弾かれる。
不意に襲う刺激に声が出る。
滑りのある感触で、自分の状態を改めて思い知らされた。
「ガマン汁垂らした、だらしないチンポ、触って欲しいんだろ?」
素直に求める身体とは裏腹に、羞恥心が言葉を遮る。
「ま、オレは、君みたいな子のこんな格好見てるだけでも、十分抜けそうだけどね」
自分の流す液体を付けた指が、腹の辺りをくすぐって行く。
「君は、それでも、良いの?」
もう、抗えなかった。
「俺の、だらしないチンポ、触って・・・下さい」

彼の手が上下に一往復するだけでも、絶頂の影が襲う。
全身が喘ぐような、信じられないほどの快感。
「焦らされ過ぎて、すぐ、イっちゃいそうだね」
耳を舐める彼の舌の感触が、顔を強張らせる。
震える唇からは、短い叫びしか生まれなかった。
自らの手で扱く時よりも、動きはゆっくりのはずなのに、桁違いの刺激。
これが、男との性行為。
自分の身体に羨ましさを感じるくらいの享楽に包まれながら、俺は絶頂を迎える。


視界が開け、両手に自由が戻ってくる。
気の抜けた俺の顔を、男の唇が這って行く。
「いい子だね」
そう言って、彼はそっとキスをしてくる。
その舌が唇を撫で、口の中に入り込む。
俺は少しの息苦しさに口を開け、舌先を触れ合わせた。

彼の手が、俺の腕を掴み、彼の方へと引き寄せる。
何処に導こうとしているのか、雰囲気で分かった。
吐息を感じながら、舌を絡めつつ、俺は彼のモノを服の上からまさぐる。
自分の父親と、叔父と重なる彼が、欲情している事実。
触れてはいけない様な感覚に陥った。

動きを止めた俺の手の上に、彼の手が添えられる。
「他人のモノに触るのは・・・初めて、だよね」
目の前の男の問に、俺は戸惑う視線で答えた。
運転席のシートに身を沈めた彼は、俺の身体を抱き寄せる。
自らズボンの前を開け、下着の中に震える手を引き込む。
いきり立ったモノの感覚が手に纏わりついた。
「こうやって、添えてくれてるだけで、良いよ」
俺の手に重ねられた手が、緩やかに動き出す。
彼の吐く息が、徐々に深く、激しくなっていく。
震える身体に抱き締められながら、俺は、間接的に、彼を快感へ導く。


年上の男は、自分とは違う。
子供だった俺は、そんな風に思っていた。
父や叔父が、どのように性欲を満たしているのか。
考えてはいけないものだと、感じていたのかも知れない。
けれど、刺激に打ち震える中年の男の姿を見ながら、その思いは間違っていることを悟る。
俺が叔父を、妄想の中で汚しながら快楽を得ているのと同じように
叔父もまた、想像の中で俺を犯していて欲しい。
そんな劣情が、心の中に植えつけられる。

男の歪んだ表情が、視界の殆どを占めていた。
首を伸ばし、彼の唇を奪う。
薄目を開けた彼は、何処か満足そうな視線を俺に向けた。
目を閉じ、舌を絡ませながら、握る手に力を込める。
やがて、彼はくぐもった声を上げて、果てた。
手を包む精液の感触が、気分を現実に引き戻して行った。

□ 28_代償★ □   
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■   ■ 5 ■   ■ 6 ■   ■ 7 ■   ■ 8 ■
□ 51_受容 □
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■
>>> 小説一覧 <<<

代償★(4/8)

「おじさん、今日も・・・また、してくれる?」
「して欲しいのかい?」
「・・・うん」
「悪い子だ」
「だって・・・」
「郁真は、気持ち良いこと、好きなのかな?」
「好き・・・でも、これ、悪いこと、なの?」


打合せスペースに現れた彼は、俺の顔を見ても特別驚いた様子は無かった。
まさか、絶縁された甥が目の前にいるとは、思ってもいなかったのかも知れない。
印象は子供の頃から大きくは違わず、歳を取って、父に雰囲気が似てきたような気がする。
それが、禁忌への憧れを更に助長していく。

差し出された俺の名刺を見て、彼は明らかに動揺した。
「郁真・・・君、か」
「ご無沙汰しています。叔父さん」
「まさか、こんな所で、会うとは・・・ね」
20年振りの再会が、仕事の場。
彼に秘めた恋心を抱く俺は、嬉しさで一杯になりながらも、それを悟られないように必死だった。
「僕も、驚きました。名刺を見た時に」
「すっかり、立派になったね」
その表情は、甥の成長を喜ぶ叔父の顔。
優しい顔に心が満たされながら、罪悪感が影を落とす。
欲求の糧にしている自分の愚かさを呪いながら、惹かれていく気持ちが抑えられない。

物件の打合せは、滞りなく進んだ。
仕事が出来る人間なのだろう。
彼の手でまとめられたであろう数枚の資料には、必要最小限の仕様と留意事項が並んでいる。
A3の用紙に印刷された図面を見ながら、施主と彼の意向が伝えられた。
「来週の中頃には、機械設備から電気容量が上がってくるはずだから」
「分かりました」
「先行で、照明プロットと警報関係を進めて貰えるかな」
「消防打合せは、こちらで手配しても大丈夫ですか」
「構わないよ。オレも同行したいから、日程が整ったら教えてくれる?」
小さい頃、彼がどんな仕事をしているのか、よく知らなかった。
電気設備の設計事務所に就職すると父に告げた時、神妙な顔になったのはそのせいだったのか。


「兄貴は・・・元気にしてる?」
一通りの話が終わった後、叔父は俺にそう聞いてきた。
「ええ、ちょっと前に体調を崩しましたけど、今は元気ですよ」
「そう。何よりだね」
白髪の混じる髪の毛を短めに揃え、縁の細いフレームの眼鏡をかけた中年の男。
右手の薬指に嵌る幅広の指輪が、この年代の男とは少し違う雰囲気を作っている。

「君は・・・と言う話をするには、時間が経ち過ぎてるか」
微笑む彼の目尻に、皺が寄る。
「・・・そうですね。僕は、まだ子供でしたから」
「でも、雰囲気は、あまり変わって無いかもね」
そう言いながら、彼は手元を整理し始める。
俺はこの機会を手放すのが惜しくて、一つの提案をしてみた。
「叔父さん、今日は何か予定、あります?」
「いや、別に無いけど・・・もう少し仕事が残ってるから」
「僕も一旦会社に戻らないといけないんですけど、その後、飯でもどうですか」
「ああ、構わないよ」
彼は自らの手帳のページを1枚破り取り、それに電話番号を書き留めた。
「じゃ、方が付いたら、電話貰えるかな」


この再会を、彼も喜んでいるかどうか、分からなかった。
同性愛者であるが故に絶縁されたこと、それに俺が少なからず関わっていること。
そのわだかまりが消えているとは、思えない。
しかも、俺自身が抱える、誰にも言えない秘密。
それを知ったら、彼はどう思うのか。
俺に、視線を向けてくれるだろうか。

「実家から通ってるんじゃ、無いんだね」
彼との待ち合わせは、新宿だった。
俺も彼も小田急線沿線に住んでいるから、と言うことで落ち着いた結論だ。
「就職してからすぐ、一人暮らしで」
実家は春日部にある。
会社まで通えない距離では無いけれど、ゲイ故の後ろめたさに耐え切れず、独立した。

家族には、気付かれて無い、と思っている。
ただ、母は女の影を微塵も見せないことを、多少訝しく思っているらしく
たまに実家に顔を見せると、良い人はいないのかとポツリと呟くことがある。
いつかは言わなきゃならない事なんだろうか、そう思うと気が重くなる。
幸運なことに、社会的に晩婚化が進み
20代後半で結婚していないことは、特別なことでも何でも無くなって来ている。
きっと、俺が30歳、40歳になる頃は、一人身であることも目立たないだろう。
そんな後ろ向きな考えで、現実から逃げている部分があった。

彼が勧めてくれた店は、落ち着いた雰囲気の和食居酒屋だった。
以前、会社の歓送迎会で使った店だと言う。
カウンターの他に個室席もあり、俺たちは個室に通された。
「こんな風に、サシで飲む日が来るとは・・・思ってもみなかったよ」
眼鏡の奥の優しい目は、その機会を喜んでいるように見えて、ホッとする。
彼はその視線を俺に向け、ふと目を細める。
「もう、二度と会うことは無いと、思ってたからね」

□ 28_代償★ □   
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■   ■ 5 ■   ■ 6 ■   ■ 7 ■   ■ 8 ■
□ 51_受容 □
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■
>>> 小説一覧 <<<

代償★(5/8)

「ん・・・や、だ」
「ちゃんと、素直に言わないと、やめちゃうよ?」
「・・・きもち、いい」
「郁真は、どんどん、エッチになっていくね」
「そんなこと、ない、よ。おじさんが、いつも、してくれるから」
「おじさんのせい?」
「だって・・・ボク、こんな・・・」


数年前、父方の祖父が亡くなった際にも、叔父は葬儀に姿を見せなかった。
実のところ、父は彼に連絡をしたらしいのだが、彼の意思で来なかったと言うことだ。
「でも・・・叔父さんは、何も、悪くない。父さんが・・・」
「それは、違う。兄貴にそう思わせた、オレが悪かったんだ」
巡り会えた喜びは、失われた時の重さを実感させた。
日本酒が注がれたグラスを手に、彼は目を伏せる。
「郁真は、聞いてるか?オレが・・・」
口ごもる彼の問に、俺は視線で答えた。
「兄貴は、それでもオレを受け入れてくれた。本心がどうかは、分からないけどね」
酒を一口呷り、彼は続ける。
「それに、甘えていたんだよ。身近な人間にほど気を遣わなきゃならないことを、忘れてた」
過去を解きほぐす様に語る彼の姿を見て、俺は居た堪れなくなる。
この人は、強い。
でも、それは、寂しさで培われた、強さ。

俺の表情を見て、彼は尋ねた。
「自分が悪いと・・・思ってるんじゃないんだろうね?」
「え・・・?」
「別に、オレは君が嫌いになって、姿を消した訳じゃ無いよ」
「それは・・・分かってる」
「むしろ、成長していけば、オレが嫌われる立場になるだろうと、思ってた」
「どうして・・・」
叔父は静かに溜め息をつき、顔の前で手を組む。
「普通の男は・・・同性愛者を受け入れられないものさ」
その言葉に、心が締め付けられる思いだった。
何度も経験してきた、苦しさと葛藤が頭を巡った。

「だから、あれが良いタイミングだったのかも知れないと、今では思ってるんだよ」
突然断ち切られた日常。
それでも彼は、良かったと口にする。
これが時の力なんだろうか。
「君に誘われた時、正直驚いたんだ。てっきり、オレを拒絶してるものだと、思ってた」
「そんな訳・・・」
俺も、貴方と同じ痛みに耐えている。
俺も、貴方と同じ悩みに苦しんでいる。
言ってしまえたら楽になるのに、なかなか言い出せない。


彼が手を組みかえる時、部屋の間接照明の光を浴び、指輪が僅かに輝いた。
「・・・叔父さんは、恋人、いるの?」
俺がどうしてその話をしたのか、彼は気が付いたのだろう。
自身の指に目を向けて、言った。
「いや・・・今はいないよ。もう、一人で生きていく覚悟は、とっくに出来てる」
「それは・・・大切なもの、なの?」
「この歳になるとね、過去を大切にしたくなるもんなんだよ」
その口調は、まるで子供に言い聞かせるようなもので
自分の弱いところを見せないようにする大人の、言い振りだった。
未だに子供じみた感情を引き摺る俺は、彼の過去に、軽い嫉妬を覚える。

「郁真は、どうなんだ?そろそろ結婚の話も、あって良いんじゃないか?」
当然のように話す彼に、俺は思わずうろたえる。
「僕は・・・」
目の前の焼酎に口をつけ、息を吐いた。
「僕も、叔父さんと、一緒なんだ」
彼の顔が、一気に曇る。
目を合わせられず、下を向いた。
「だから・・・今日、こうして時間を、作って貰った」

戸惑っているのか、沈黙は長く続いた。
静寂を崩した声は、震えていた。
「それは・・・オレが、何か・・・」
「違う、そうじゃない」
思わず声が大きくなる。
「叔父さんのせいじゃ、ない。自分でも知らない内に・・・なってた」

男が男を好きになることに、特別なきっかけは無いんだろうと思う。
きっと、男女間の恋愛と、変わらないはずだ。
些細な感情のぶれが大きくなって、傾いていく感覚。
ただ、対象が同性であると言うこと、それだけの違い。

「それ・・・兄貴は、知ってるのか?」
「家族には、言って無いし・・・言うつもりも、無い」
「そうか・・・」
彼の表情は、そこはかとない寂しさを窺わせていた。
可愛がっていた甥が、自分と同じ境遇に立っていることを憂えているのだろうか。
喜んでくれるとは微塵も思っていなかったものの
その表情を見ているのが、堪らなかった。
多分、それは、俺が抱える彼への想いがそうさせていたのだと思う。

□ 28_代償★ □   
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■   ■ 5 ■   ■ 6 ■   ■ 7 ■   ■ 8 ■
□ 51_受容 □
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■
>>> 小説一覧 <<<

代償★(6/8)

「パパには・・・内緒だよ?」
「わかった」
「おじさんとの秘密、守ってくれるかい?」
「うん、約束する。そしたら・・・また、してくれる?」
「良い子だね。・・・でも、いけない子だ」
「どうして?」
「また、して欲しいなんて、おじさんを喜ばせること、言うからだよ」


他人には決して話すことの出来ない悩み。
関係の薄い二人の間を深めるには、もってこいの理由になる。
俺は、相談に乗って欲しいという口実で、叔父の家を訪問するきっかけを掴んだ。
自分のことのように苦悩する彼に対して、俺は未だに下心を消し去れないでいた。

2LDKの分譲マンションに叔父は住んでいる。
同じ男の一人暮らしでも、俺の家とは雲泥の差があった。
地位も、収入もそれなりにあるのだろうから、当然と言えば当然だ。
促されるまま、リビングに置かれたソファに腰を下ろす。
「ビールくらいしかないけど、良いかな」
上着を脱いだ彼は、そう言ってローテーブルに缶ビールを2本並べた。

「別にオレも、他人の相談に乗ってやれるような立場じゃないけどね」
距離を開けて座る彼は、そう言って俺を見る。
「少なくとも、君の倍近くは生きてる訳だから。アドバイスくらいは、出来るかも知れない」
微笑む彼の目には、幾ばくかの戸惑いが見て取れた。

恋愛感情は、いつだって移ろいやすい。
本気の恋を、俺はしたことが無かった気がする。
移り気な感情のまま、男と関係を持っては、消えていく。
求めているのは一人だけなのに、遠すぎて手が届く希望も無かった。
その彼が、すぐ触れられる位置にいる。

「・・・叔父さんは、年下と付き合ったこと、ある?」
「無くは無いけど・・・あまり離れていても、相手が退屈するだろう?」
「そうかな」
「折角同じ時間を過ごすんだから、価値観や物の見方は近い方が良いと思うよ」
もっともらしい問に、もっともらしい答。
核心に迫るのが、怖かった。
彼が恐れた拒絶に、俺が見舞われるかも知れないと思うと、遠まわしなことしか言えない。

「父さん以外に、誰か、カムアウトした人って、いるの?」
「身近な人間には、いないね。家族でも、兄貴だけだ」
「僕は・・・誰にも言って無い。叔父さん、だけ」
「まぁ、良かったのかな。こうやって、君の支えになれるのなら」
「僕も、良かった。身近に頼りになる人が、出来て」
父の面影を感じさせる顔を見ながら、また父への秘密が一つ増えることに気が重くなる。
ゲイであること、叔父へ想いを寄せていること、そしてそれを成就させようとしていること。


ソファの座面に投げ出された彼の手に、自分の手を添えてみた。
驚きの表情が、向けられる。
「・・・どうした?」
俺はその問に答えず、軽く手を握ったまま、話を切り出す。
「叔父さん、僕とよく遊んでくれた公園、覚えてる?」
「あ、ああ・・・覚えてるよ」
「あそこ、もう今は住宅地になっちゃって。無くなったんだ」
「そうか・・・あの辺も、変わっただろうね」
「でも、僕の中では、いつまでも・・・僕と叔父さんの思い出の場所なんだ」
楽しかった子供の頃の記憶が蘇る。
それに被さる、下劣な妄想。
最悪な、感情。

「郁真?」
彼の手を握る手が震える。
込み上げてくる感情が、視界を滲ませた。
「何に、苦しんでいるんだ?」
俯いた俺の前髪を掻き揚げ、下から覗き込むように俺を見る。
こぼれた雫がネクタイに染みを残す。
「・・・叔父さんのこと、ずっと、好きだったんだ」
凍りついた彼の表情に、感情が溢れた。
「どうしようもなかったんだ。止められなかったんだ」
声にならない様子の彼の視線を感じながら、言葉を投げる。
「歪んだ気持ちなのは、分かってる。でも、僕は、どうしたら良い?」

涙が玉のようになって落ちていく様を見ていた。
叔父の手も、同じように震えていた。
どうして俺は、こんなに彼に惹かれているのか。
何度も何度も考えた問は、もちろん、本人にも答えが出せないことは分かっている。
幾ら涙を流しても、気持ちは沈んだままだった。

□ 28_代償★ □   
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■   ■ 5 ■   ■ 6 ■   ■ 7 ■   ■ 8 ■ 
□ 51_受容 □
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■
>>> 小説一覧 <<<

代償★(7/8)

「おじさん、ボクと、いつまでも一緒に遊んでくれる?」
「それは、出来ないな」
「どうして?ずっと一緒に、いてよ」
「大きくなったら、もっと楽しいことが、たくさんあるよ」
「おじさんとが、いい」
「郁真は、わがままだね・・・そんな悪い子には、お仕置きしないと、ね」
「やっ・・・」
「嫌じゃないだろう?」
「やじゃ、ない・・・もっと、ずっと、きもちいいこと、して」


彼に抱きすくめられ、不意に視界が暗くなる。
その肩口に頭を埋めるように、身体を預けた。
「どうして・・・どうして、オレなんだ」
震える声が、頭上から響く。
「君は・・・可愛い甥、それ以上の何ものでも、無いんだ・・・」
それは、まるで自分に言い聞かせるような口調だった。
禁忌に触れる、それが如何に大きいものなのか、叔父である彼にはよく分かっているのだろう。
「オレは、君に、何をした?」
自身を責めるような言いぶりが、辛かった。
「僕が・・・僕が、悪いんだ。叔父さんのせいじゃ、ない」

子供の頃から今に至るまで、身体はいろいろな刺激を覚えてきた。
それが積み重なるにつれ、叔父への想いと妄想が大きくなっていった。
「・・・分かってるんだ。叶えられないことも、叶えちゃいけないことも」
目の前の、薄いブルーグレーのネクタイが、再び滲んでいく。
「でも、どんなに時間が経っても、前に進めない」
腕の力が強くなる。
互いの身体の震えが、まるで共鳴するように大きくなった。
「手を差し伸べたい・・・もがく君を見るのは辛い。でも・・・」
どうしたら良い、と彼は祈るように何度も呟く。
目の前に現実を突きつけられても尚、俺の気持ちは薄れない。
妄想で欲求を満たしても、仮に、彼の手によって満たされたとしても
俺はこの場から、前に進むことは出来ないんだろう。

抱えられていた頭を、少し上に向ける。
目と鼻の先には叔父の顔があった。
俺を見る彼の目は酷く切なげで、戸惑いを浮かべている。
しばらく見つめ合った後、彼は小さく首を振った。
「・・・ダメだ。やっぱり・・・」
俺の想いが彼を苦しめる。
それが更に、俺の動きを封じ込める。


どのくらい彼の腕の中にいたのだろう。
唐突に沸き上がる不安と悲しさが、涙となって流れていく。
その間、彼は俺の頭を優しく撫でていてくれた。
思い出の中の優しい叔父の姿が、そこにはあった。

「・・・落ち着いたかい?」
静かな声が泣き疲れた身体に染みる。
「もう少し・・・このままで、いたい」
彼が僅かに体勢をずらし、密着感がより増した。
ワイシャツを通して感じられる体温が肌に溶けて、鼓動が早くなる。
「・・・許して欲しいことが、あるんだ」
「何・・・?」
「ずっと、好きで、いさせて・・・想像の中で犯されることを、許して」
背中を擦る手の動きが一瞬止まり、その手が俺の肩を強く掴む。
「君の好きにして良いんだよ。それを許すことが、オレの出来る、全てだから」

キスさえ出来ない。
刺激を求めて疼く部分に、手を触れて貰うことも出来ない。
それでも、服の上から彼の手の優しい感触が滲む。
彼が父の弟じゃなかったら。
同じ指向を持つ彼と身体を求め合うことに、何の障害も無かったはずだ。
けれど、こんなに苦しくなるほどの恋に落ちることも無かったと思う。
運命は、何て、悪戯なんだろう。


夜は大分更けていた。
帰る手段を失った俺に、叔父は泊まっていくよう提案してくれる。
シャワーを浴びると、だいぶ気分は落ち着いた。
「郁真はベッドで寝て良いから」
スウェットに着替えた叔父は、そう言ってソファに腰掛ける。
「・・・叔父さんは?」
「オレは、ここで良いよ」
寝室にあるベッドは、セミダブル。
二人で寝るのに、無理な大きさでは無い。
彼には無い衝動を持った俺と、ベッドを共にするのは戸惑いがあるのだろうか。
俺は、彼の傍らに立った。
「何も、しないから・・・隣に、いて」
小さく溜め息をつき、彼は立ち上がって俺の肩を抱く。
「全く・・・我が侭なところは、変わらないね」

□ 28_代償★ □   
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■   ■ 5 ■   ■ 6 ■   ■ 7 ■   ■ 8 ■   
□ 51_受容 □
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■
>>> 小説一覧 <<<

代償★(8/8)

「恥ずかしいよ・・・おじさん」
「大丈夫。どうすれば気持ち良くなるのか、見せてごらん」
「ここ・・・こうすると・・・」
「どう?」
「ん・・・きもちい・・・」
「おじさんにされるのと、どっちが良い?」
「・・・される方が、いい」
「郁真は、おじさんがいないと、ダメなのかな」
「うん、おじさんじゃないと・・・ボク、ダメだよ」


一つのベッドに、二人の男が横になる。
卑猥な行為を目的とした同様の経験は、過去に何度もあった。
でも、そう言う時は、互いの温もりや鼓動を感じる間もなく、衝動をぶつけ合うだけ。
純粋に睡眠を目的とする今とは、全く違う状況だ。

二人分の体重を受け、ベッドの軋む音が響く。
並んで横になった彼の手が、俺の身体に僅かに触れた。
ゆっくりと自分の手を差し出してみると、指が絡んでくる。
やがて二つの手がしっかり握られると、彼の声が耳に響いた。
「おやすみ」
優しい声が身体を包み込む。
徐々に睡魔に襲われる感覚が、心地良かった。


明け方近くに目が覚めた。
互いに寝返りをうっていたのか、俺は彼に背中を向けた格好で横になっている。
彼の気配で、自分が置かれた状況を思い出す。
寝息も、体温も、こんなに近くで感じているのに
彼に包まれることは出来ても、交わることは決して出来ない。
急に身体が昂るのを感じて、俺はベッドを出た。

洗面とセットになっているトイレは広くて、若干落ち着かなかった。
しかも、洗面台の前には壁一面の鏡があって、自慰行為には向かないな、と妙に冷静になる。
それでも、悶々とした気分を抱えているのは、怖かった。
自制できる自信が、無かった。

ロータンクに手を置き、前屈みの状態で、自分のモノに手をかける。
欲求を解消する唯一許された方法で、俺は身体を満足させていく。


「おじさん、きもちいい?」
「ああ・・・気持ち良いよ。上手くなったね」
「おじさんが喜ぶこと、したいんだ」
「じゃあ・・・ちょっと、ここ、舐めてみてくれる?」
「え・・・そんなとこ、汚いよ」
「大丈夫だよ。・・・なら、先に、郁真のを舐めてあげる」
「や・・・ダメ、だよ」
「・・・どう?」
「ん・・・あ」
「気持ち良さそうな、顔だね。こう言うのは、どうかな」
「やっ、やだ・・・」
「ダメ?」
「きもち、よすぎて・・・こ、わい」
「怖くないさ。いっぱい気持ち良くなって、良いんだよ」
「や、あ・・・体が、ヘンに、なっちゃうよ・・・おじさん」
「可愛いよ、郁真。もっと、おかしくしてあげる・・・」


寝室のドアからは、赤みがかった薄い光が漏れていた。
ベッドの隣に置かれた書斎机の椅子に、叔父が腰掛けている。
「ごめん・・・起こした?」
「いや、大丈夫だよ。気が付いたら、いなかったんでね」
「何、してるの?」
彼の手には、過去を繋ぎとめている指輪があった。
愛おしそうな視線を浴びる銀の物体に、不意に羨ましさが募る。
その感情を否定するように、叔父はその謂れを口にした。
「これは・・・昔、付き合ってた男の、遺品でね」
「亡くなったんだ・・・」
「ああ、交通事故で。もう、5年くらい、前になる」
「長かったの?その人と」
「そうだね。一生添い遂げられるかも知れない、そう思ってた」
しばらく指で指輪を回した後、小箱に納め、引き出しの中に仕舞い込む。
彼はベッドに座る俺に視線を移し、真剣な表情で問いかけた。
「オレは、確実に、君より先に逝く。それでも、君は良いのかい?」

歳の差が生む、逆らえない現実。
愛する人を失う辛さを知ってこその、言葉。
それでも、俺は、彼じゃなきゃ、ダメなんだ。
「構わない。その時まで・・・そばに、いて」

椅子から立ち上がった彼は、俺の隣に座り、肩に手を回す。
俺は彼の肩に顔を寄せ、目を閉じた。
「将来を大切にしたいと思うなんて、もう、オレには、無いと思ってたよ」
優しい口調で呟いたその一言が、胸に沁みた。

朝までの短い時間、俺は彼の腕に抱かれながら眠る。
想いを通じ合わせるだけでも、禁忌に触れているのかも知れない。
それ以外のことは、何もいらない、何も求めない。
だから、せめて、彼の心だけは、俺の傍に置かせて欲しい。
そう、願うばかりだった。

□ 28_代償★ □   
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■   ■ 5 ■   ■ 6 ■   ■ 7 ■   ■ 8 ■
□ 51_受容 □
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■
>>> 小説一覧 <<<
Information

まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

*** Link Free ***



>> 避難所@livedoor
Novels List
※★が付く小説はR18となります。

>>更新履歴・小説一覧<<

New Entries
Ranking / Link
FC2 Blog Ranking

にほんブログ村[BL・GL・TL]

駄文同盟

Open Sesame![R18]

B-LOVERs★LINK

SindBad Bookmarks[R18]

GAY ART NAVIGATION[R18]

[Special Thanks]

使える写真ギャラリーSothei

仙臺写眞館

Comments
Search
QR Code
QR