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幻想★(9/10)

どんなに楽しいことでも、いつかは終わりを迎える。
味わった快感を思い返しながら、次に訪れるであろう新たな楽しみに思いを馳せる。

夜更けまで男たちに弄ばれ続けた身体は、奥まで精液に汚されていた。
ベッドから立ち上がると、腿の内側を他人の液体が垂れていく。
朦朧としたままシャワーブースへ向かおうとした時、隣の部屋から男が入ってきた。
「楽しかったかい?」

シャワーの湯と共に、様々な物が流れていく。
背中を撫でる男の手が、行為の跡を一つ一つ消してくれる。
まるで子供をあやす親のように、彼は優しく穏やかに俺の身体を愛撫する。
項垂れ、頭から湯を被りながら、その時間が過ぎるのを待っていた。


「親父と、知り合いなんでしょ」
身体中を駆ける鈍い痛みに耐えながら、別室のソファに腰かけた彼に改めて問うた。
「母さんは・・・それ、知ってるの?」
煙を吐き出しながら、彼は俺に一瞥をくれる。
「本人に聞いたら良いじゃないか」
聞ける訳がない。
不安定な繋がりを、これ以上揺さぶるようなことはしたくなかった。
「それは・・・」
短くなった煙草を灰皿に押し付けた彼は、ふと目を細める。
「君は今、人並みの幸せを手にしているだろう?」
それでも、ずっと付き纏っている違和感を払拭したい。
「本当のことを知れば・・・もう二度と、元には戻れないよ」


男と母が知り合ったのは、男が高校生の時だった。
2つ上の看護学生だった女とは、バイト先で知り合った。
ある夜、彼氏に振られたと落ち込む女を慰める内に、身体の繋がりを持ったと言う。
互いに深い関係を求めていた訳では無かったものの、女の身体の異変で、その状況は一変する。
思いも寄らなかった妊娠、流されるまま書かされた婚姻届。
子供の親になると言うことに、逃げだしたくなるほどの不安が圧し掛かった。

男は高校を辞め、働くようになった。
女は看護学校を辞め、身体が動く限りバイトを続けた。
親からの金銭的なサポートはある程度あったと言うが
幼い二人に必要だったのは、精神的な支えだったのかも知れない。
慣れない仕事で疲労困憊の男の身体を、女は半ば狂ったように求めるようになった。
彼女は、満たされない何かを、セックスで埋めようとしていたんだろう。
それは子供が産まれてからも変わらず
赤ん坊が泣き続けても尚、女は夜な夜な官能に縋っていた。

眠りの浅い夜が来る日も来る日も続いた。
子供の泣き声が夢の中のことだったのかも定かでない意識が、激しく鈍い音で覚める。
暗がりに立つ女の足元には、横たわる子供の姿。
「・・・真沙子・・・敏也?」
嫌な予感を振り払うように、目を凝らす。
女は感情を顔に表すことも無く、虚ろな声を漏らした。
「ねぇ、これは・・・事故、よね・・・そうでしょ?」

救急隊が駆け付けた時には、子供は既に息を引き取っていた。
自らの行為を忘れてしまったかのように取り乱す女は、警察官に宥められても泣き叫んだ。
突然失われてしまった命への哀しみを上回る、女が抱える闇への恐怖。
夜明けの事情聴取では、事故だったと証言した。
けれど、もう元には戻れない。
心身を病んでいると診断された女は、実家へ戻って行った。
男は、それを機に、女の前から姿を消した。


「驚いたよ。まさか、本当に看護師になってたなんて」
元妻との再会は、偶然だった。
たまたま健康診断の為に訪れた病院で、男は母と顔を合わせた。
新たな家族を持ち、人並みの幸せを手に入れた女。
過酷な、それでも幸せだと思っていた人生を必死で走っていた自分に、足をかけた存在。
「まぁ、どんなに歳をとっても、根本は変わらないってことは分かっていたけど」
面影を残したまま月日を経た眼の奥に、男は、あの闇を見たのかも知れない。

人間の欲求は、心身の枯渇の証し。
男からのアプローチを、女は拒まなかったと言う。
夫とでは経験できない激しいセックスを与えた夜、男は初めて女の家族の素性を知る。
自らの名前の文字を冠した子供。
幼かった心に、劣等感を植え付けた同級生。
大きな喪失感から立ち直れないままの男にとって
自分の手で壊した幸せの欠片を掻き集め、一人でやり直そうとしている女が、どうしても許せなかった。


「ここまでは、僕の計画通りだよ」
「・・・計画?」
俺の怪訝な視線を受け止めながら、彼は新しい煙草に火を点ける。
「君は、もう、僕からは逃げられない」
母と似ている、彼が口癖のように言っていたのは
俺の身体に潜む卑しい因子を、見抜いていたからなのだろう。
「もちろん、これで終わりじゃないさ」
立ち上がった彼の手が、俺の顎を撫でる。
薬の効果は既に切れていたはずだった。
吐息を受け止めた男の目元に細かな皺が寄る。
「ありふれた生活が粉々になるのを見届けるまで」
触れ合った唇の感触が、与えられた快楽を蒸し返す。
この期に及んでも、俺は、狂った時間が再び訪れることを望んでいた。
「僕に、付き合って貰うからね」

□ 70_幻想★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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