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幻想★(7/10)

本当は分かっていた。
煙草のせいなんかじゃない。
これが俺の、本性なんだと。

こんなことを父と母が知ったら、何と言うだろう。
彼を責めるだろうか。
俺を責めるだろうか。
「久しぶりだね」
6、7年振りに再会した男は、当時と変わらぬ柔和な笑顔を見せる。
「・・・また、会えると思ってたよ」

同じ男を求めるにしても、子供と大人とで扱い方は変わる。
何も知らない無垢なものを汚す悦びと、確立した人格を壊す快感。
口の中に粘つくように残る煙が、覚悟を決めようとする理性すらも奪い去る。
「本当に、君は・・・お母さんによく似ているね」
間近に迫った男の顔に、半開きの唇を差し出す。
久しぶりに感じる他人の感触に、耳の奥が痛くなるほど、意識を攫われる。


同性愛者では、無いのだと思う。
自分から女に好意を寄せることは殆ど無くても、一方的に寄せられる感情が不快な訳じゃない。
男の手でなされた狼藉だけが自分の身体を昂ぶらせるのだと思っているのも、怖かった。
センター試験を控えた冬の夜。
自習室に残っていた彼女が帰るのを見計らって、声をかけた。
女の好意は、本物だったはずだ。
俺の性欲も、彼女を捉えていただろう。
小さな資料室で声を押し殺す彼女の体温を感じながら、見よう見真似のセックス。
蕩けそうな、それでも急かすように締め付けてくる感触は、信じられない程気持ち良かった。
果てた後、彼女の小さな唇に軽くキスをする。
それでも、男として当たり前に感じられるはずの幸せが、心を塗り潰さない。
結局、隅に残った隙間の正体が分からないまま
遠方の大学に進学を決めた彼女とは、それっきり疎遠になった。


ネクタイを緩め、ワイシャツのボタンを2つほど外す。
革の首輪が一瞬喉を締め付け、僅かに緩んだ。
頬骨まで覆う大きなマスクが、視界を闇に変える。
「良い体つきになったね」
肩から腕に下がっていく掌の感触をシャツの上から追いかけた。
「楽しんで、来ると良い」
絶望の宴を告げる声が、耳元で囁かれる。

手を引かれ連れて行かれた部屋の床は、妙に冷たかった。
小さな金属音と、空調機のモーター音と、幾人かの息遣いが空間に満ちている。
息を吐く間もなく首元の鎖が思いっきり引っ張られ、身体が倒れるように傾いた。
「いーとこ、勤めてんだって?」
男の声が、耳のすぐ傍で鳴る。
短い髭の感触を伴いながら、その頬が俺の頬に擦り付けられた。
「普段、どんだけ他人を見下してるか、知らねぇけど」
緊張と恐怖で甲高い耳鳴りがする。
喉が震え、鼻で笑う声が聞こえる。
「今日は、てめぇが、オレらの犬だ」


過去に殴られたような記憶は殆ど無い。
身体にめり込んでくる拳や膝の感触が、髄まで響く。
男たちが笑いながら何かを言っているのは聞こえても、暴力の余波が頭を霞ませ理解は出来ない。
痛覚が鈍っていたのは、薬のせいだろうか。
初めの内は身体を起こそうと些細な抵抗を試みたけれど
口の中に広がる錆臭い味を飲み込む度に、徐々にその気力も失われていく。

「寝てんじゃねぇよ」
縮こまろうとする身体を、首に繋がれた鎖が引き伸ばす。
拍子に、生暖かい液体が鼻の辺りから首筋を流れていくのを感じた。
聞きなれない風切音が耳を掠め、焼ける様な痛みが背中を襲う。
「・・・あ、がっ」
床に座り込む格好だった身体は、上半身が引っ張られ、這うような形になる。
「四つん這いになんな」
腰の辺りに溜まった痛みが、体勢を変えることすら拒むようだった。
「さっさとしろっつってんだろ?」
「ぐ・・・っ」
再び振り下ろされる強烈な刺激に身体中が悲鳴を上げる。
二本の腕では支えきれなくなった上半身が床に臥したタイミングで
誰かの足が浮いた腰回りを撫で、股の間に差し込まれた。
「何だ?早く犯してほしいってか?」
その指が、スラックスの中で燻るモノを軽く突く。
求めていた、ほんの小さな愛撫にすら、身体は正直に反応した。
「腰揺らしやがって・・・躾がなってねぇなぁ」
脇腹が蹴り上げられ、闇の中に火花を散らしながら身体が床に転がる。
「結構デカチンじゃね?」
無防備に晒された股間を足で踏みつけ、男は笑った。
乱暴な快楽にさえ抵抗出来ない惨めな自分が、恨めしい。
「でも、あいにく」
悟られてはいけない官能を、溜め息に溶かす。
それでも、もう、何も隠し通せる訳も無かった。
「てめぇが突っ込む穴はねぇからな」

□ 70_幻想★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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