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幻想★(3/10)

俺のベッドに腰を下ろした彼は、銀色のケースから煙草を一本取りだした。
「僕のオリジナルのブレンドなんだよ」
警戒の眼差しを送る俺に、彼はそう言って目を細め、火を点ける。
細めの煙草は、明らかに店で売っているものとは違って見えた。
白い薄紙で包まれた葉が透けており、吸い口にフィルターは付いていない。
漂う煙は、一瞬の内に部屋中に仄かな甘い香りを纏わせる。
今までに感じたことの無い感覚が、少しずつ警戒心を解いていく様だった。

「興味、ある?」
煙草の先を見ていた俺に、彼は問いかける。
ゆっくりと吸い込み、しばらく煙を味わってから、またゆっくりと吹き出す。
彼の姿に大人への憧れを重ねてしまったのは、やはり幼かったからだろう。
「とは言え、子供に勧めるのは憚られるからね」
その言い方には、俺が求めればやぶさかでは無い、と言う意図が見えた。
「・・・ちょっと、吸わせて」

咥内に張り付くような粘つく味覚が顔をしかめさせる。
「香草なんかも混ぜてるから、初めは慣れないかも知れないけど」
ニコチンの苦い刺激と、濃い蜜のような甘ったるい味が混ざり合った煙が鼻から抜けていく。
「軽く深呼吸する感じでゆっくり吸うと、その内、沁みてくるよ」
葉がぎっしりと詰められた煙草は、吸い込む度にチリチリと音を立てた。
やがて、微かな赤い火がぶれ始める。
男の気配も忘れる程に、俺はその煙を追いかけ続けた。


首筋に触れた指の感覚に、有り得ないほど身体が震える。
「・・・な、に?」
その主を追いかけるよう、いつの間にか傍らに立っていた彼に視線を移した。
視点が定まらないと気が付いたのは、その時だった。
意識はある、けれど、脳が麻痺してしまったような、何かに掻き乱される様な感覚。
危険を知らせる本能が、身体中に寒気を走らせる。
「気に入って貰えたかな」
椅子に座った俺の背後に回った彼は、片方の手を首から顎へ、もう片方の手を肩に流す。
「何、すん、の」
抵抗しなきゃ、そう思うのに、身体が言うことを聞かない。
「どんな気分だい?」
「何、が」
「分かるだろ?何か、おかしいって」

自慰行為を覚えたのは、中学生になってからだったと思う。
ネットで目にした画像とか、駅で見かける同じ歳位の女の子とか
その姿から何となく妄想を広げ、時折湧いてくる衝動を発散させる。
自らの手で扱き、自らの手で果てる。
セックスとは違う、あくまで独善的な行為。
それでも、女と恋に落ちると言う経験が無かった俺には、それが性的行為の全てだった。

耳の後ろを這う舌の感触が、唇を震えさせる。
「こういう気分になるのは、初めてだろう?」
心なしか鼓動が早くなっているような気がした。
男の囁きが、やけに遠く聞こえる。
肩から回された手が静かに上半身を弄る度に、恐怖が、未経験の刺激に攫われていく。
「ガキのくせに、火遊びなんかする君が悪いんだよ」
少しトーンの高くなった声に、俺は、溜め息のような吐息でしか答えを返せなかった。


夏も過ぎ、短い秋の始まりの季節。
たくし上げられるTシャツの下の肌に、少し冷たい空気と、彼の手が触れる。
「効きが早いな」
父とは違う、白髪混じりの髪が視界をちらつく。
「やっぱり、若さかな。羨ましいね」
背もたれの後ろから抱えるような体勢を取ったまま、男は俺の身体に手を這わせる。
その気配を自らのベルトで縛られた手に感じながら、一所に集まろうとしている衝動に耐えた。

肩口まで寄せられた服で視線を遮られた場所に、指が伝う。
「・・・ん、っ」
その反応を嘲笑うような鼻息が耳を掠めた。
「どうした?」
痺れる様な初めての刺激に、首を振ることでしか抵抗できない。
男の指の予期せぬ動きが、頭の中を更に白くしていく。

首筋から這い上がる舌が、視線を呼ぶ。
振り向くように顎を動かすと、細くなった男の眼がぼんやりと見えた。
父ほどの歳の男の唇が、半開きのままの俺の唇に触れる。
気持ち悪い、そんな感情が彼の指によって揺らがされ
痛いほどに乾いた唇の感触が身体と心に突き刺さるようだった。


「舌、出して」
幾度か触れ合った唇から、静かな声が発せられる。
言われるがままに外に出した舌先に、ざらついた男の舌が絡みつく。
息苦しさから荒くなる呼吸が、徐々に鼓動を激しくする。
初めてもたらされる、他人の秘めた器官との交わり。
セックスよりも薄く、けれど、確実に自分の中の何かを変える行為。
僅かに煙草の味がする唾液が口の中に入り込み、小さな水音が耳の奥に沁みる。

唇に挟み込まれた舌が軽く引っ張られた瞬間。
「ん・・・ふっ、う」
二つの乳首が摘み上げられ、身体が仰け反る。
椅子が軋み、大きな音を立てた。
もやもやした頭の中が、その快感で一気に晴れていく。
「あんまり大きな声出すと・・・お母さんに聞こえるよ」
官能を弄ぶ指は、動きを止めない。
喘ぎを飲み込むほどに、自分の身体がおかしくなっていくのを感じていた。

□ 70_幻想★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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