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自由★(2/9)

時計の針は、もうじき12時を指そうとしている。
仲道は部下を先に帰し、一人で作業をしていた。
「まだ、かかりそうなのか?」
「ああ、上手く収まらない場所があってね」
「スケジュール押してるからって、あんまり無理するなよ?」
「分かってる、もう少ししたら帰るよ」
俺と奴とは同期で、もう随分長い付き合いになる。
今でこそ部署は違うけれど、入社当時は切磋琢磨し合う様な間柄だった。

「仲道さん、大分お疲れみたいですね」
「規模に対して、人が少な過ぎるんだろう」
「中堅クラスが、もう一人二人いれば、楽になるんでしょうけど」
「統括のプレッシャーも、半端無さそうだからな」
帰りの車の中、俺のその言葉で、三谷が意味ありげな笑みを見せる。
「・・・何だ?」
「城野さん、また土浦統括と揉めたそうですね」
「揉めたって程じゃないよ」
「すぐ分かるんですよ。僕らにも当たりがきつくなるから」
呆れたような笑い声を上げて、部下はそう言う。
大人気ない上司の行動で迷惑を掛けていることを後悔するのは、何回目だろう。
部下を持つ立場としての自覚が、まだ足りないんだろうか。


30分も走ると、俺の家が近くなる。
信号で停車した車の外をふと見ると、道を歩く2人の影が目に付いた。
その一人は妻だった。
夜の街を歩く彼女と見知らぬ男は、まるで本物の夫婦のようで
じゃあ、それを見ている俺は何なんだ、そんな思いが去来した。
「・・・三谷、現場に戻れ」
「何か忘れ物ですか?」
「いいから」
程なく、車は元来た道を引き返す。

妻とは社内恋愛の末の結婚だった。
会社の古い体質からか、夫婦で同じ会社に籍を置くことは許されず
妻は、退社することとなった。
設計畑で一線を走り、一級建築士の資格を持っていた彼女は他社からも引く手数多だったけれど
30半ばの転職だったからなのか、正社員として勤めることは、結局出来なかった。
今は、ウチの子会社で、契約社員として働いている。
キャリアを積んできた彼女にしてみれば、きっと不満もあるだろう。
そう思って、多少気を遣うところもあった。


現場事務所には、もう電気は点いていなかった。
仲道も帰ったようだ。
車の中で無言だった三谷が、怪訝な表情をして口を開く。
「どうしたんですか?」
家に帰るような気分ではなかった。
夜の街灯に照らされた妻の顔を思い出す。
あんな顔、もう随分見ていないような気がする。
薄々感じていた距離感を、改めて突きつけられた、そんな思いだった。

「お前、結婚しないの?」
窓を開け、煙草に火をつける。
部下の顔は、突然の質問で更に混迷の色を増していった。
「・・・いきなり、何ですか?」
「どうなんだよ」
「別に、今はそんなこと考えて無いですね。相手もいないし」
「女紹介してやったら、結婚する気ある訳?」
ふぅ、と言う小さな溜め息が聞こえる。
「奥さんと、何かあったんですか?」
俺がこう言った絡み方をする時は、決まって妻と上手く行っていない時。
こいつは、それを良く知っている。

「もう、ダメかも知れないな」
「・・・いつもそう言って、結局はちゃんと鞘に戻ってるじゃないですか」
些細な言い争いはしょっちゅうだから、きっと今日もそうだと考えているのだろう。
「帰らないと、奥さん心配しますよ?」
困った顔の三谷を見て、急に鬱憤が募る。
「心配なんかしてねぇよ」
「どうして?」
「他の男と、一緒だ」
語気を荒げた俺に、部下はかけるべき言葉を探している。
この思いを、何処にぶつけて良いのか。

「俺さ、もう随分セックスレスなんだ」
「・・・はぁ」
「お前、抜いてくれよ」
「えっ・・・」
言葉を失った三谷の、暗がりの中の顔は、明らかに怯んでいた。
言うことを聞かざるを得ない立場を分かっていながら、非道な要求をした自分が、心底嫌になる。
何も言わず、小さく震えて俯く部下の姿を見て、正気を取り戻した。
「・・・冗談だ。車、出せ」
そう声をかけると、ふと顔を上げ、こちらに視線を移す。
不意にシートベルトを外す音が聞こえ、三谷の震える手が、俺の頬に触れた。
「やります・・・」
常夜灯の薄い光を受けた目が徐々に近づいてきて、身体が固まる。
思わず、息を飲んだ。
寸前に見せていた物怖じした表情は、何か別のものに変わっていて
それが何なのか気がつけない内に、俺は部下に唇を奪われた。

□ 20_自由★ □   
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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