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自由★(8/9)

事後の処理をしている背後で、何かを待っている気配を感じる。
「・・・帰り、俺が運転するか?」
求めているであろうものとは、違う言葉を掛けた。
返答までの沈黙に耐え切れず、振り返る。
「いえ・・・僕が」
疲れた声でそう言い、何処か寂しげな顔をする。
「三谷」
「はい」
的確な言葉が、見つからなかった。
「お前の気持ちに応えたい、と思う」
「はい・・・」
「でも、もう少し、待ってくれ」
部下の視線が、俺の左手を捉える。
「きちんと、収拾をつけたいんだ」
結論を引き延ばしても、お互い磨耗するだけだ。


家に着くと、妻はまだ起きていた。
「ずいぶん遅かったのね」
彼女はリビングのソファに座って、ぼんやりと深夜番組を眺めている。
テーブルに置かれたティーサーバーから、独特の甘い香りが上がっていた。
よく眠れる、そう言って彼女が好んで飲んでいる、セント何とかとか言うハーブのお茶だ。
荷物を置き、上着を脱いでソファに腰掛ける。
迷っていると、どんどんタイミングを逸してしまいそうだった。
「今度、改めて話す時間を作れないか?」
カップに口をつけたまま、彼女は俺を見る。
「・・・楽しい話じゃ、無さそうね」
「そうだな」

テレビの向こうでは、アイドルと芸人が浮世離れしたような明るい笑顔を振りまいている。
あんな風に、何も考えずに笑っていた時期もあったはずなのに。
「でも、前向きな話だと、思う」
「そうね」
そう言って、彼女は不意に立ち上がる。
「明日、お休みでしょ?」
「ああ」
「焼酎貰ったんだけど、飲まない?」
「芋?」
「ううん、黒糖だって」

その甘い酒は、奄美のお土産なのだそうだ。
氷の浮かんだ茶褐色の液体が、疲れた身体に染みた。
「今でも良いわよ?」
氷を溶かすようにグラスを回しながら、妻が呟く。
互いに別の相手と夜の時間を過ごし、互いに背中を押されたのかも知れない。
「・・・別れよう」

その言葉が出てくることを、彼女は分かっていたんだろう。
目を伏せて、寂しげな笑みを浮かべる。
「覚悟してても、キツイ言葉ね」
俺は、グラスの焼酎を一口飲んで、溜め息をつく。
「これ以上、君を引き止めておく訳には、行かない」
「・・・勝手よね、人間って」
「え?」
「引き止めて欲しい、そんな気持ちが無い訳じゃ、無いのよ」
佐賀と歩く彼女の表情を思い浮かべた。
今の俺に、あんな顔をさせることは出来ない、そう思った。
「でも、一緒にいても、もう隙間は埋まらないのね。きっと」
諦めの混じった表情で、彼女は言った。

「新しいスタートを、切る時だと思う」
空になったグラスに、彼女が焼酎を注ぐ。
カラカラと小気味良い音が鳴った。
「あまり待たせるのも・・・悪いだろうし」
妻が、俺の顔を覗き込み、表情を窺う。
「貴方にも、いるのね」
三谷の顔が、脳裏を横切る。
妻と別れ、男の部下を選ぶ。
有り得ない、そう思いながら、俺は答えた。
「・・・ああ」


その夜、俺は久しぶりに妻と身体を重ねた。
何ヶ月ぶりだろう、もしかしたら、年単位かも知れない。
良く知っている身体のはずなのに、妙に新鮮だった。
唇、うなじ、肩、胸。
決して若くは無いけれど、繊細で敏感な肌に、手を、唇を這わせて行く。
反応が大きくなるにつれ、俺の中の嫉妬心も膨らんだ。
この身体は、もう、俺のものじゃない。

彼女の中に、ゆっくりと自分のモノを挿入して行く。
口とは違う感触に、背筋が寒くなるほどの快感を得た。
しかし、俺の下にある彼女の顔が歪む。
「・・・どうした?」
目を伏せたまま、彼女は呟いた。
「久しぶりだから・・・ちょっと、痛いの・・・」
そう言って、俺の肩を掴む。
「・・・ゆっくり、お願い」

妻が、他の男に想いを寄せているのは確かだった。
だから、身体の関係もあるはずだ、と勝手に思い込んでいた。
短絡的な思考に酷い嫌悪感を覚え、身体が固まる。
彼女の両手が、俺の顔を包んだ。
「・・・続けて?」
ヤツとは、そんな言葉が出かかった。
その気持ちを、彼女は汲んでくれたのだろうか。
軽くキスをして、俺の背中を両手で抱えて身体を密着させてくる。
硬くなったモノが、濡れた隙間の奥へ、徐々に入り込んで行くのを感じた。
「・・・ありがと」
痛みに、快楽に、顔を歪める妻は言った。

□ 20_自由★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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