自由★(6/9)
世の中には、知らない方が幸せなこともある。
妻の不倫と部下の恋慕。
一度知ってしまったら、もう知らないふりは出来ない。
車中の沈黙を、部下の声が破る。
「僕は・・・どうしたら良いですか」
思いつめた表情を見て、自らの不甲斐無さを思い知る。
妻との今後も、部下との関係も、全て俺が結論を導かなければならないことだ。
それなのに、この辛苦から逃れる為の術を、未だに求めている。
「あなたの部下でいる資格は、僕には、無い」
「何?」
「このまま、消えてしまいたい・・・」
何もかもが終わったような薄笑いを浮かべ、三谷が呟く。
うな垂れた部下の頭を、自分の胸に抱き寄せた。
腕の中で震える部下は、何も言わずに身を預けている。
彼女の人生、俺の人生。
何年も同じ道を歩んできたはずなのに、一体、何処で逸れてしまったんだろう。
頬に手を当て、上を向かせる。
怯えた様な目をした部下が、俺を見た。
「・・・僕の、せいですか?」
揺らぐ声で、彼は聞く。
「ああ、お前のせいだ」
頬から首元へ手を滑らせ、顎を突き出させる。
「こんな気持ちに、させやがって」
そのまま俺は、自分の意思で、部下と唇を重ねた。
運転席側のシートベルトを外し、シートを緩やかに倒す。
「・・・城野さんっ」
覆い被さるような体勢になった俺に向かって、三谷は脅えたように声を発した。
「違うんです・・・」
「俺のこと、そう言う目で見てるんだろ?」
部下は動揺した表情で、言葉を失ったまま唇を噛む。
その額に手を当て、前髪を掻き揚げる。
震える顔は、熱を帯びていた。
「キスだけじゃ、物足りないんだろ?」
「そんなこと・・・僕は・・・」
作業服のボタンを、上から外していく。
弱弱しい力で、三谷はその腕を掴んだ。
「僕は、城野さんの側にいられるだけで、良いんです」
手の力が、僅かに強くなる。
「人生にまで入り込もうなんて、思って、無かった」
その言葉で、決心がついた。
「もう、遅い」
部下の手を振り解き、作業服の中に手を入れた。
布越しに上半身をまさぐると、軽く体を捩る。
唾を飲み込む音が聞こえた。
ワイシャツのボタンに手をかけると、未だ緊張の解けない部下が口を開く。
「許されるんですか・・・こんなこと」
「誰かに許しを請う必要なんて、あるのか?」
妻と、佐賀の顔が浮かんだ。
そんな必要は無いと、自分に言い聞かせる。
ワイシャツの下のTシャツを捲くり、露わになった胸元に唇を這わせた。
頭上で、深い吐息を感じる。
痩せぎすの身体を、掌と唇で静かに愛撫する。
早くなる鼓動を、顔に触れる身体から覚った。
小さく反応する身体を擦り続けていると、三谷は目を伏せ、小さく首を振る仕草を見せる。
「嫌なのか?」
「・・・怖いんです」
「何が?」
「これ以上・・・」
目は、困惑を宿していた。
急に不安になる。
ためらわれることに、手を離されるような感覚を覚えた。
「三谷、キスしてくれよ」
俯いた顔に、手を触れる。
「・・・もっと奥まで、入り込んで来い」
しばらくの沈黙の後、彼の手が俺の頬を包む。
苦悩に喘ぐ視線が、刺さった。
ゆっくりと顔が近づいてきて、一瞬唇が触れ、離れていく。
「・・・はい」
部下はそう答え、再び唇を重ねる。
柔らかい感触が、心に沁みた。
しかし、目を閉じた顔から、真情を読み取ることは出来なかった。
□ 20_自由★ □
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妻の不倫と部下の恋慕。
一度知ってしまったら、もう知らないふりは出来ない。
車中の沈黙を、部下の声が破る。
「僕は・・・どうしたら良いですか」
思いつめた表情を見て、自らの不甲斐無さを思い知る。
妻との今後も、部下との関係も、全て俺が結論を導かなければならないことだ。
それなのに、この辛苦から逃れる為の術を、未だに求めている。
「あなたの部下でいる資格は、僕には、無い」
「何?」
「このまま、消えてしまいたい・・・」
何もかもが終わったような薄笑いを浮かべ、三谷が呟く。
うな垂れた部下の頭を、自分の胸に抱き寄せた。
腕の中で震える部下は、何も言わずに身を預けている。
彼女の人生、俺の人生。
何年も同じ道を歩んできたはずなのに、一体、何処で逸れてしまったんだろう。
頬に手を当て、上を向かせる。
怯えた様な目をした部下が、俺を見た。
「・・・僕の、せいですか?」
揺らぐ声で、彼は聞く。
「ああ、お前のせいだ」
頬から首元へ手を滑らせ、顎を突き出させる。
「こんな気持ちに、させやがって」
そのまま俺は、自分の意思で、部下と唇を重ねた。
運転席側のシートベルトを外し、シートを緩やかに倒す。
「・・・城野さんっ」
覆い被さるような体勢になった俺に向かって、三谷は脅えたように声を発した。
「違うんです・・・」
「俺のこと、そう言う目で見てるんだろ?」
部下は動揺した表情で、言葉を失ったまま唇を噛む。
その額に手を当て、前髪を掻き揚げる。
震える顔は、熱を帯びていた。
「キスだけじゃ、物足りないんだろ?」
「そんなこと・・・僕は・・・」
作業服のボタンを、上から外していく。
弱弱しい力で、三谷はその腕を掴んだ。
「僕は、城野さんの側にいられるだけで、良いんです」
手の力が、僅かに強くなる。
「人生にまで入り込もうなんて、思って、無かった」
その言葉で、決心がついた。
「もう、遅い」
部下の手を振り解き、作業服の中に手を入れた。
布越しに上半身をまさぐると、軽く体を捩る。
唾を飲み込む音が聞こえた。
ワイシャツのボタンに手をかけると、未だ緊張の解けない部下が口を開く。
「許されるんですか・・・こんなこと」
「誰かに許しを請う必要なんて、あるのか?」
妻と、佐賀の顔が浮かんだ。
そんな必要は無いと、自分に言い聞かせる。
ワイシャツの下のTシャツを捲くり、露わになった胸元に唇を這わせた。
頭上で、深い吐息を感じる。
痩せぎすの身体を、掌と唇で静かに愛撫する。
早くなる鼓動を、顔に触れる身体から覚った。
小さく反応する身体を擦り続けていると、三谷は目を伏せ、小さく首を振る仕草を見せる。
「嫌なのか?」
「・・・怖いんです」
「何が?」
「これ以上・・・」
目は、困惑を宿していた。
急に不安になる。
ためらわれることに、手を離されるような感覚を覚えた。
「三谷、キスしてくれよ」
俯いた顔に、手を触れる。
「・・・もっと奥まで、入り込んで来い」
しばらくの沈黙の後、彼の手が俺の頬を包む。
苦悩に喘ぐ視線が、刺さった。
ゆっくりと顔が近づいてきて、一瞬唇が触れ、離れていく。
「・・・はい」
部下はそう答え、再び唇を重ねる。
柔らかい感触が、心に沁みた。
しかし、目を閉じた顔から、真情を読み取ることは出来なかった。
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