偽名★(10/10)
我に返る感覚を忘れてしまったのだろうか。
鏡を汚した液体が垂れていくのを眺めながら、未だに何かが燻る身体がもどかしい。
腰の奥で蠢いていた玩具が抜き取られ、背筋が寒くなった。
「気持ち、良かった?」
呆然とする俺を抱きしめながら、彼は呟く。
言葉にしてしまうのが惜しくて、何回か小さく頷いた。
「じゃあ、今度は・・・僕を、気持ち良く、してくれる?」
彼の前に跪いた自分の姿が、精液の間に映る。
ジーンズから取り出した彼のモノは、僅かに先端から欲望の陰を見せていた。
見下ろす視線を受け止めながら、手を添えて、舌を伸ばす。
鼻腔を突く雄の匂い。
それが、官能さえも刺激する。
揺らぐ深い息が、二人の間を埋めるように漂っていた。
根元から舐りあげる度に、太い筋が立っていく。
彼の眉間の皺が深くなり、表情が歪んでいく。
快楽に堕ちるその姿を、もっともっと、見ていたかった。
体勢を変えた拍子に、膝に物体が当たる。
ついさっきまで俺を散々蹂躙していた、性欲を満たす為だけの道具。
手に取ったまま、彼に目を向ける。
一瞬怯んだような顔をした後、覚悟を決めたように、彼は眼を閉じた。
振動を繰り返す玩具を、彼のモノの先端に押し当てる。
「うっ・・・」
堪えきれない甘い喘ぎが、彼と俺の心を奮わせる様だった。
そのまま手で押さえつけ、裏筋を舌でなぞる。
初めて耳にする、男らしい彼の艶めかしい息遣い。
「気持ち、良い?」
「・・・ん、い、い」
撫で付けるように手を動かすと、彼の腰が徐々に引いていく。
逃がさない、そう思いながら、腰に腕を回した。
「ま、って」
彼の液体と俺の唾液が混ざり合う音の中に、微かな声が聞こえる。
切なげな笑みを浮かべながら、彼は俺の腕を掴む。
「どう、したの?」
名残を引き摺りながら立ち上がった俺の身体は、不意に鏡に押さえつけられた。
「何?」
ワンピースが腰の上まで捲られていく。
「幸徳・・・?」
「ここで、イかせて」
露わになった腰に押し付けられる、彼の興奮。
急に、怖くなった。
けれど、彼に抗う理由が見つからない。
「・・・ダメ?」
尻の割れ目に入り込んでくる、ぬるついたモノ。
躊躇いが、唇を震わせる。
「ごめん、我慢、出来ない」
猶予は、僅かしかなかった。
強張る俺の腰回りに手を当て、彼は尻にモノを挟んだままで腰を振る。
ぶつかり合う肉の弾ける様な音が、全身を包む。
今にも入り込んできそうな気配に怯える気持ちが、漏れ聞こえる声に浮かされた。
彼の動きが激しさを増す。
「イ、く・・・よ」
息絶え絶えの声のすぐ後で、股間に生暖かい液体が流れ込む。
脚を流れていく精液の感触が、身体を震わせた。
力の抜けた彼の身体が背中に圧し掛かる。
それは、信じられないほど、幸せな感覚だった。
「怖い、思い・・・させた?」
荒い息を吐きながら、彼はそう言って耳に唇を寄せる。
「ううん、大丈夫」
振り向き、唇を重ね合わせる。
紅潮した表情に、愛おしさが募った。
「次は・・・平気だから」
「幸せそうなジュンちゃん見てると、こっちまで幸せになって来るわ」
木製のソールが特徴的な白いサンダル差し出しながら、ママはそう笑った。
「ありがと」
「ちょっと、大きくない?大丈夫?」
「うん、ちょうどいい感じ」
足首の上までリボンを編み上げ、少しきつめに結ぶ。
膝が僅かに出るくらいのフレアスカートは、妙にスカスカしていて心もとない。
それでも、鏡に映った自分の姿は、今までとは何かが違って見えた。
「その、羨ましい彼氏は?」
「ん・・・外で、待ってる」
「あら、じゃあ早く行かなきゃ」
背後から覗きこむ彼が、力任せに背中を押す。
「楽しんで来て。あなたには、その権利があるんだから」
湿気を帯びた風がスカートにはらむ。
思わず手で押さえた先に、彼が興味深げな表情で立っていた。
「どう・・・かな」
「夏っぽくて、良い感じだね」
「それだけ?」
高いヒールによろめく俺の手を取った彼は、そのまま身体を引き寄せる。
「綺麗だよ」
耳を滑る囁きが、顔を綻ばせた。
「・・・うん」
「行こうか」
偽りの名前を騙る自分に嫉妬することは、もう止めた。
自らを曝け出す為に演じる必要は無いと、やっと気が付いた。
夏の夜の空気を纏わせながら、互いの指を絡め合う。
寄りかかるように腕に顔を寄せると、二人の距離は更に狭くなる。
すぐ隣に感じる男の存在が、この夜を、また幸せなものにしてくれるのだろう。
悪戯な風に翻弄されるスカートの裾を気にしながら、歩みを進めた。
□ 64_偽名★ □
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鏡を汚した液体が垂れていくのを眺めながら、未だに何かが燻る身体がもどかしい。
腰の奥で蠢いていた玩具が抜き取られ、背筋が寒くなった。
「気持ち、良かった?」
呆然とする俺を抱きしめながら、彼は呟く。
言葉にしてしまうのが惜しくて、何回か小さく頷いた。
「じゃあ、今度は・・・僕を、気持ち良く、してくれる?」
彼の前に跪いた自分の姿が、精液の間に映る。
ジーンズから取り出した彼のモノは、僅かに先端から欲望の陰を見せていた。
見下ろす視線を受け止めながら、手を添えて、舌を伸ばす。
鼻腔を突く雄の匂い。
それが、官能さえも刺激する。
揺らぐ深い息が、二人の間を埋めるように漂っていた。
根元から舐りあげる度に、太い筋が立っていく。
彼の眉間の皺が深くなり、表情が歪んでいく。
快楽に堕ちるその姿を、もっともっと、見ていたかった。
体勢を変えた拍子に、膝に物体が当たる。
ついさっきまで俺を散々蹂躙していた、性欲を満たす為だけの道具。
手に取ったまま、彼に目を向ける。
一瞬怯んだような顔をした後、覚悟を決めたように、彼は眼を閉じた。
振動を繰り返す玩具を、彼のモノの先端に押し当てる。
「うっ・・・」
堪えきれない甘い喘ぎが、彼と俺の心を奮わせる様だった。
そのまま手で押さえつけ、裏筋を舌でなぞる。
初めて耳にする、男らしい彼の艶めかしい息遣い。
「気持ち、良い?」
「・・・ん、い、い」
撫で付けるように手を動かすと、彼の腰が徐々に引いていく。
逃がさない、そう思いながら、腰に腕を回した。
「ま、って」
彼の液体と俺の唾液が混ざり合う音の中に、微かな声が聞こえる。
切なげな笑みを浮かべながら、彼は俺の腕を掴む。
「どう、したの?」
名残を引き摺りながら立ち上がった俺の身体は、不意に鏡に押さえつけられた。
「何?」
ワンピースが腰の上まで捲られていく。
「幸徳・・・?」
「ここで、イかせて」
露わになった腰に押し付けられる、彼の興奮。
急に、怖くなった。
けれど、彼に抗う理由が見つからない。
「・・・ダメ?」
尻の割れ目に入り込んでくる、ぬるついたモノ。
躊躇いが、唇を震わせる。
「ごめん、我慢、出来ない」
猶予は、僅かしかなかった。
強張る俺の腰回りに手を当て、彼は尻にモノを挟んだままで腰を振る。
ぶつかり合う肉の弾ける様な音が、全身を包む。
今にも入り込んできそうな気配に怯える気持ちが、漏れ聞こえる声に浮かされた。
彼の動きが激しさを増す。
「イ、く・・・よ」
息絶え絶えの声のすぐ後で、股間に生暖かい液体が流れ込む。
脚を流れていく精液の感触が、身体を震わせた。
力の抜けた彼の身体が背中に圧し掛かる。
それは、信じられないほど、幸せな感覚だった。
「怖い、思い・・・させた?」
荒い息を吐きながら、彼はそう言って耳に唇を寄せる。
「ううん、大丈夫」
振り向き、唇を重ね合わせる。
紅潮した表情に、愛おしさが募った。
「次は・・・平気だから」
「幸せそうなジュンちゃん見てると、こっちまで幸せになって来るわ」
木製のソールが特徴的な白いサンダル差し出しながら、ママはそう笑った。
「ありがと」
「ちょっと、大きくない?大丈夫?」
「うん、ちょうどいい感じ」
足首の上までリボンを編み上げ、少しきつめに結ぶ。
膝が僅かに出るくらいのフレアスカートは、妙にスカスカしていて心もとない。
それでも、鏡に映った自分の姿は、今までとは何かが違って見えた。
「その、羨ましい彼氏は?」
「ん・・・外で、待ってる」
「あら、じゃあ早く行かなきゃ」
背後から覗きこむ彼が、力任せに背中を押す。
「楽しんで来て。あなたには、その権利があるんだから」
湿気を帯びた風がスカートにはらむ。
思わず手で押さえた先に、彼が興味深げな表情で立っていた。
「どう・・・かな」
「夏っぽくて、良い感じだね」
「それだけ?」
高いヒールによろめく俺の手を取った彼は、そのまま身体を引き寄せる。
「綺麗だよ」
耳を滑る囁きが、顔を綻ばせた。
「・・・うん」
「行こうか」
偽りの名前を騙る自分に嫉妬することは、もう止めた。
自らを曝け出す為に演じる必要は無いと、やっと気が付いた。
夏の夜の空気を纏わせながら、互いの指を絡め合う。
寄りかかるように腕に顔を寄せると、二人の距離は更に狭くなる。
すぐ隣に感じる男の存在が、この夜を、また幸せなものにしてくれるのだろう。
悪戯な風に翻弄されるスカートの裾を気にしながら、歩みを進めた。
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