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偽名★(2/10)

「へぇ、準も、ちゃんと男なんだね」
幼い頃から仲良くしていた少女は、そう言って俺の下半身をぎこちなく弄る。
「都、何、するん・・・」
狼狽える身体を押さえつけるように、彼女の身体が折り重さなり、小さなベッドに沈む。
近づいてくる顔を避けることも出来ず、程なく唇が重なった。
けれど、初めての感触の余韻を味わうことを、彼女の手が許さない。
「おっきくなってきたよ?」
楽しげに囁く声が、益々身体を強張らせる。
「ちょっと、都・・・やめろって」
「いいじゃん。準だって、一人でシたり、するんでしょ?」
制服のボタンを一つずつ外していく指は、確かに、震えていた。
発情した雌の空気を漂わせて潤む瞳に、融かされるような錯覚を見せられる。
「エッチしよ?一緒に、気持ち良くなろうよ」

子供じみた交わりは、その後も何回か続いた。
先走った彼女の衝動に引き摺られただけの初体験が、性的欲求を歪めたのかも知れない。
常に優先権を奪われることに、自尊心が傷つけられたのだろうか。
積み重なる嫌悪感は、やがて男としての生理現象すらも奪い去っていく。
「・・・あたしのこと、嫌いなの?」
指と舌の愛撫だけで顔を上気させた少女は、俺の身体にしなだれかかり、そう言った。


自分より弱そうに見えれば、無意識の内に優越感が芽生える。
自分には敵わないと認識すれば、どうやってその場をやり過ごすかを考える。
浅はかな深層心理は、きっと誰にでもあるんだと思う。

「何だよ、樋口。こっちは男子便所だぞ。お前はあっちだろ?」
「お前、本当に付いてんの?見せてみろよ」
「気持ち悪ぃんだよ。ホモはどっか行ってろ」
疎遠になった彼女が他の男と校内でも有名なカップルとして噂になる頃
今まで陰で囁かれていたであろう言葉が、表だってぶつけられるようになった。
まともにセックスも出来ない女々しい男、そんな好奇の眼差しが刺さる。
私物が無くなる、トイレで水をかけられる。
やり返すことも、言い返すことも出来ず、下を向くだけの日々。
中学を卒業するまで後何日あるのか、それを数える事だけが、心を落ち着かせる唯一の手段だった。


ケニーママに頼まれた煙草をコンビニで買い、店に戻る。
想像していた以上に、周りの視線が気にならない。
異質な雰囲気に飲まれてしまっているからなのだろうか。
目深に被っていた帽子のつばを、少しだけ上向かせる。
飛び込んできた街の風景は、"男" として歩いている時とは違って見えた。

「よお、ねぇちゃん」
路地から発せられた言葉に、つい、視線を向けた。
ヤバい、男の顔を見て直感が走る。
身体が緊張するのを感じながら、その場を去ることだけを考えた。
「ちょっと待てよ」
暗がりから伸びて来た手が俺の腕を捕える。
「何すんだよっ」
背の低い太った男は、その声を聞いて下品な笑みを浮かべた。
「へぇ、随分出来の良いカマだな。整形でもしてんのか?」
力の差は、歴然だった。
手にしていた小さなバッグでは、奴の身体を怯ませることも出来なかった。
「離せっつってんだろ?!」
スカートを捲り上げ、左足のヒールで足を突く。
呻き声を上げ、身体を屈ませた男は、まるで鼠に噛まれた猫のように一瞬呆気に取られた後
鋭い目を真っ直ぐに向けた。
「オカマが、調子に乗ってんじゃ、ねぇぞ?」

走ることを前提とした靴じゃない。
逃げようとする俺の身体に、奴は自身の全体重を乗せてタックルしてきた。
打ち付けられた地面の堅い感触と、酷い圧迫感が呼吸の仕方すら忘れさせるようだった。
「ぐ・・・」
「ここがどんな街か、分かってるよな?」
その手が俺の両腕の自由を奪い、身体が仰向けにされる。
荒い鼻息を吹き出す顔が迫る。
「犯されたくて、うろついてんだろ?愉しませてやるよ」
熱を帯びた唇が、俺の口を塞ぐ。
舌が顔の上を這うごとに、全身に鳥肌が立った。
幾ら抵抗しても、抵抗しきれない。
恨めしい、こんな身体が。


捩る身体がアスファルトに擦れて、痛み始めてくる頃。
視界に、影が差した。
瞬間、鈍い音と共に男の身体が仰け反り、遠ざかって行く。
「こんなところでサカってんなよ。邪魔だから」
俺の頭の先に立っているであろう男は、起き上がろうとする肥満体の男に言い放つ。
その眼には、僅かに恐怖の気配が浮かんでいた。
「勃たなくしてやっても、良いんだぞ?」
俄かに殺気立った声に、敵わない、そう思ったのか。
舌打ちを残し、奴は路地の奥へ逃げて行った。

「大丈夫ですか?」
俺の傍にしゃがみ込み、彼は顔を覗き込んでくる。
「すみません・・・ありがとう・・・」
身体を起こしながら言いかけた言葉が、その顔に阻まれた。
向こうは気が付いてない、そう自分に言い聞かせて
落ちていた帽子を目深に被り、差し出された男の手を取って立ち上がる。
身体を擦るように乱れた服装を直してくれる彼の顔を、まともに見ることは出来なかった。
「気を付けた方が良いですよ。この辺は、飢えてる奴も、多いから」
「・・・はい」
大きな身体で出来た大きな影が、徐々に離れて行く。
思いも寄らなかった出会いが、俺の心に、深い影を落とした。

□ 64_偽名★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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