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偽名★(6/10)

女を演じ、いつもとは違う自分の一面を曝け出す。
若干道を外れた衝動は、そういう欲求から来ているのだと思っていた。
けれど、演じている内に、言いようのない違和感が湧いていたのも確かで
彼の言葉に、もしかしたら、これが本当の自分なのかも知れないとすら思い始めてくる。

誰かに心から想われることに渇望していた心が、幻想を見せているだけ。
こんな自分を認めてくれる存在に、浮かされているだけ。
それでも、良い。
答を待つ彼に身を寄せ、その顔を見上げた。
「私、も・・・」

前髪に触れた唇が、顔を更に上向かせる。
すぐそこに迫っていた唇に、自ら、唇を重ねた。
儚い感覚と薄いコーヒーの香りが身体を駆ける。
一瞬離れ、また吸い込まれるように重なり合う。
その度に滑るグロスの感触が、これが現実であることを教えてくれた。

背中に回された手が俺の身体を引き寄せる。
青いシャツ越しに感じられる体温に、思わず息を飲む。
「少し休んだら、今度は、本当に・・・送ります」
その言葉を、素直に受け止められない。
浅はかな欲望に囚われてしまったことを誤魔化すように、再び口づけを求める。
唇に軽く舌を這わせ、小さく開いた口の中に滑り込ませた。
不意に漏れた吐息が、首筋をなぞっていく。
僅かに戸惑いを浮かべる彼に、懇願するよう囁いた。
「・・・脱がせて、くれますか」


先に立ち上がった彼に手を引かれ、腰を上げる。
羽織っていたカーディガンが肩から抜け、腕が露わになっていく。
男同士なのに恥ずかしさが込み上げるのは、互いを性的対象として捉え始めているからなのか。
ソファに置かれた上着から視線を外し、彼に背を向ける。
首の後ろで結ばれた布だけが、身体を包む衣服を支えていた。

大きく開いた背中に指が触れた拍子にびくついた身体が、背後から抱きしめられる。
俺の首筋に顔を埋め、その手がワンピースを少しずつたくし上げていく。
「・・・何て呼んだら、良い?」
うなじに唇を寄せながら、服の下に潜り込んだ手が太腿を擦る。
頬の震えを抑えきれないまま、瞬間思考が巡った。
嘘は、吐きたくない。
ありのままの自分で、彼を感じたい。
「ジュン、って、呼んで・・・」
首に絡みついていた物が、彼の唇によって解ける気配に、言葉が遮られる。
「・・・下さい」

天谷という苗字は、毎日顔を合わせる中、ネームプレートから教えて貰っていた。
躊躇いながらも大胆になっていく手の動きに、その名を尋ねることも出来ないままで昂ぶりに酔わされる。
上半身を弄る手に辛うじて引っかかっている服が、腰回りに纏わりつく。
脚を撫でていた手は一度腰まで上がってきた後で、股間へと伸びていく。
俄かに起こり始めていた身体の変化を悟られたくなくて、少し腰を引くと、彼の感触が当たった。
自己満足じゃない、互いに望み、求めた結果。
そう思うと、背徳感が消えていく気がした。


化粧を落とした自分の顔を見ると、何となく気分が落ち着く。
ある種の達成感みたいなものなのかも知れない。
それが今日は、まるで感じられなかった。
未知の世界への扉は開いたばかりで、仮面を着けることなく、俺はその前に立っている。
眼を閉じ、一つ息を吐く。
水音が漏れるシャワーブースのドアを、ゆっくりと押し開けた。

大きな背中が湯気の向こうに見える。
振り向いた彼の手が、俺の顔を包んだ。
素の自分に戻った居心地の悪さを、はにかむ顔が消し去っていく。
傾げた顔が近づき、熱を帯びた唇が額に優しく触れる。
背中に回された腕に促されるまま、彼の身体に身を寄せた。
「こんな、俺、でも・・・」
「片方だけを好きになった訳じゃ無い。僕は・・・ジュンの、全部が好きだから」

濡れた唇の感触は溶けるほどに柔らかで、背筋に寒気すら走らせる。
隙間から割って入る舌に、官能が翻弄されていくのが分かる。
目を閉じた俺に、瞬間離れた彼は、そっと囁いた。
「目、開けて。僕を、見て」
薄い視界の中には、愛おしさに溢れた表情。
余りに純粋な感情に覚えた恐怖も、再び襲う感触に奪い去られていった。


少しのぼせたのか、空調が適度に聞いた室内は幾分涼しく感じる。
裸のままでベッドに重なる体温が心地良かった。
軽くキスをした彼の顔が、ゆっくりと首筋へ下りていく。
その舌は的確に俺の身体を昂ぶらせ、息を荒くさせる。
やがて胸元に辿り着いた唇が、小さな突起を挟み込む。
「・・・ん」
恐らく初めてであろう感覚に、思わず喉が鳴った。
ふと顔を上げた彼は、行為を見せつけるよう、視線をそのままに舌を揺らす。
恥ずかしさと僅かな快感が、身体を痺れさせた。

乳首への愛撫で刺激された部分に、手が伸びていく。
自分でも信じがたいほどに張りつめたモノは、浅ましく男の手を待っていた。
俺の身体の脇に身を横たえた彼が、首筋に唇を這わせる。
すぐそこに感じられる指の気配がもどかしい。
焦燥感が吐息となって空気を揺らす。
耳たぶを纏う、その唇から発せられた声が、鼓膜に響いた。
「触って、欲しい?」

□ 64_偽名★ □
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ギャップ萌え

いわゆる濡れ場なんですが、何処となく品があります。
慎ましやかな準が可愛いくってしょうがないでしょうね、天谷は!
可憐な人がベッドでは大胆になったりするギャップが、いっそう相手を惹き付けますよ。
バリバリと働く何処から見ても大人な男性が、トイプードルみたいな甘えた目で見てきたら、大抵の女は陥落します。
それが手練れ師の手口と分かっていても…。
男性の瞳をじっと覗き込んだ時、相手の瞳が濡れたように揺らいで、唇も赤く充血してちょっと膨らんでいたら、欲情しているって証拠かしら?

艶色表現。

今回の話には、意識して容姿や服装の描写を多く入れています。
書き上げるまで、何回洋服の画像検索をしたか分からないほどです。
こういった描写については、いつもワンパターンであることを自覚していますが
画を思い浮かばせることで、文言に少し艶めかしげな色が付いたのかも知れません。
Information

まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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