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黒白-陰-★(4/5)

男の精液を喉に詰まらせたのか、咽るアキの姿を見下ろしながら、奴は部屋を出て行った。
ベッドを降りて、その背中を擦る。
震える背中は酷く痩せていて、触る度に骨の感触が掌に残った。
落ち着いてきた彼がまず発したのは、俺への警告だった。
「アニキ、あんなこと、言っちゃ、ダメだよ」
振り向いた顔には、寂しげな笑みが浮かんでいた。
「こんなの、オレ、だけで、良いんだ」
「・・・良い訳、ねぇだろ?」
「良いんだ。オレ、男とやるの、嫌いじゃない、から」
そう言って、彼は立ち上がる。
「顔、洗って来る。そろそろ、時間、だよね?」


しばらくアキと顔を合わせないシフトになったことに、俺は少し安堵の気持ちを持っていた。
もう、見て見ぬ振りをすることは、出来なくなっていた。
彼のことを、弟のような感覚で捕らえ始めていたのかも知れない。

誰もいない部屋で、一枚の写真を眺める。
満開の桜の木の下にいる兄弟は、何処か緊張したような笑みを浮かべている。
小学生の頃、俺たちは養護施設に預けられた。
兄貴は俺とは違い、頭の出来が良かったこともあり、大学進学と共に施設を出て行った。
写真を撮ったのは兄貴が出て行く直前だったと思う。
施設の長の趣味で、写真は何故か白黒。
ずっと財布の中に入れていたこともあり、まるで時代を遡ったような見た目になっている。

あれから、兄貴と連絡を取ることは無かった。
今は弁護士になったとの噂も聞いたが、それだけだ。
きっと向こうは、自分の弟がどんな状態になっているかなんて、興味も無いだろう。
それでも俺は、この写真を眺める度に、何処か心が落ち着く気がした。


昼番シフトだった、冬の初め。
その日は、親会社の社員が視察に来るとのお達しが出ていて
私語厳禁、服装の乱れも無いようにとの上辺だけの対策を講じつつ、作業に励んでいた。
作業をするラインの向こうで、その集団が立ち止まる。
「那須くん、ちょっと!」
機械音が響く中、大声で遠くからそう呼んでいるのは、工場の責任者。
隣には、スーツを来た場違いな男が2人立っている。
まさか、解雇?
作業の手を止め、不安を胸に、彼らの元へ駆け寄った。

「君、前職はプログラマーだったんだって?」
社員の一人が、何かの書類を手にしながら問いかけた。
「ええ、そうですが」
「何か、資格は?」
「一応、応用情報技術者を・・・」
「ああ、良いね」
「あの・・・どう言う事でしょう?」
元請けの顔を窺うように、工場の責任者が口を開く。
「会社の方で、コンピュータ系の技術者に欠員が出たって言うんだよ」
「正社員を雇うのも、このご時世だからね。経験者で使えそうな人材がいればって思って」

腕利きのプログラマーだった訳じゃ無い。
それでもこれは、地獄から抜け出す為の、ラストチャンスかも知れない。
少し、饒舌になっていたような気がする。
「何系の、構築になるんですか?」
「出来れば、ネットワーク系に強いと良いんだけど、どう?」
「多少経験もありますし、一応参考書も読んでます」
感触は、悪く無さそうだった。
怪訝な顔をした責任者に、社員が問いかける。
「どうかな、彼。こっちで引き受けて大丈夫?」
「え、ええ。もちろん」
「じゃ、早速来月から、本社の方に出社してくれるかな。派遣会社の方には、話通しておくから」
突然差し伸べられた、救いの手。
信じられないほどの嬉しさに、鳥肌が立つ思いだった。


職場が変わっても、身分は派遣会社の派遣社員。
月給が上がる代わりに、ピンハネ分も多くなる。
自ら労せず金が入ってくるチャンスを、会社側も逃す訳は無かった。
住居も単身の寮を用意すると言い、身支度用の特別手当まで出してくれるという待遇っぷり。
そこまでの期待に応えられるのかどうかの不安もあったけれど
この異常な日常から抜け出せることは、何物にも代え難かった。


「アニキ、今日で、最後・・・だよね」
久しぶりにアキと同じ昼番のシフトになった、工場勤務最後の日。
彼は、向かいのベッドの上で寂しげな視線を俺に向けた。
一つの気がかり。
それが、彼を残してここを去ることだった。
「寂しいな」
「一緒に・・・来るか?」
俺の言葉に一瞬明るい笑顔を見せた後、彼は目を伏せた。
「行けない。オレを、必要と、してくれる人たちが、いるから」
「必要って・・・性欲満たしに来るだけだろ?」
「それでも、求められることが、嬉しいから」
伏せられていた目が、俺の方に向き返る。
「アニキは、オレを、必要と、してくれないでしょ?」

□ 34_黒白-陰-★ □   
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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