Blog TOP


黒白-陰-★(1/5)

財布の中に無造作に突っ込まれた、一枚の白黒写真。
俺の唯一の絆。
桜の木の下で交わした約束は、果たされることが無かった。
それでも、これが、唯一の心の拠り所。


夏の暑い夜。
会社を出て家路についたのは、もう12時を回ろうという時間だった。
電車を乗り継ぎ、やっと自宅の安アパートが見えて来る。
その前に、見慣れない黒塗りの車。
街灯に照らされて不気味に光る物体に、得体の知れない不安を覚えた。

階段を登る途中、その予感が当たっていたことを悟る。
自室から出てくる、一人の男。
奴は俺の顔を見るなり、卑しい笑みを見せて言う。
「お帰りなさい、啓次くん、ってか?」

男に引きずり込まれるよう、部屋の中へ入る。
壁に押し付けられた俺の顔に、人相の悪い顔が近づいてきた。
「金も返さず、女としけ込んでんのか?あ?」
「来週までには・・・必ず」
「何度目だよ?その台詞。聞き飽きたんだよ」
「今度は・・・」
目を背ける様に視線を床へ落とした時、気が付いた。
玄関に投げ出された複数の靴。
思わず、部屋の奥へ顔を向ける。
眼前の男は相変わらず吐き気のするような顔をしながら、鼻で笑った。
「良い女だよなぁ。お前みたいなクズには、もったいないんだよ」
「彼女に・・・何を」
「今頃、こんな男と付き合ってるとロクなことが無いって、思い知らされてるんじゃねぇか?」


首根っこを掴まれたままで入った部屋の中の光景は、壮絶だった。
ガムテープで目を塞がれ、手を縛られた彼女が、ベッドの上で男に乗られて身を捩っていた。
もう一人の男は、その頭を掴んだまま、腰を振っている。
「ちょ、何すんだよ?!」
一気に上った感情を鎮めたのは、背後の男の腕だった。
首を周るように巻きついた腕が、首元を締め付ける。
「想像もしなかったのか?こんな日が来るって」
しなかった訳じゃ無い。
ただ、タカを括っていたのは確かだった。
自分の身勝手な行為で、大切な人が傷つけられていく。
悔しさと憤りで、おかしくなりそうだった。

「風呂に持って行けそうか?」
苦しさで声の出ない俺を尻目に、奴らは愉快そうに話し始める。
「ああ、良いんじゃね?まだ、若いしな」
自らの欲求を、彼女の口の中で満たそうとしている男が笑う。
「これ・・・中に出しても、良いのか?」
「孕んだら面倒だろ。今日はやめとけ」
「でも、ボテ腹もマニアには人気あるぞ?」
「それは金稼がせてからでも、遅くねぇだろ」
最悪な光景から目を閉じて逃げようとする俺に、男が囁く。
「自分の女がよがってる姿見んのは、これで最後なんだから。しっかり見とけよ」

彼女の身体が、男たちの精液で汚されていく。
生気を失ったかのようなか細い身体が、波打つように痙攣していた。
白い液体を垂れ流す口から、何か言葉が発せられることは、無かった。
男の腕から解放された俺の身体は、瞬間床に倒され、そのまま強烈な蹴りを喰らう。
俺を見下ろす男は、胸を踏みつけたまま最終宣告を下す。
「早速明日から、新しい職場だぞ。タコ部屋で、精々男どもに可愛がって貰えよ」
霞む視界から、彼女を抱えた男たちの姿が消えていく。
別れの挨拶も無いまま、彼女の声を聞くことは、もう出来なかった。


つまらない地元の街を出て、東京で就職したのは19の時。
高齢者相手に架空の投資話を持ちかけ、そこから更に会員を紹介させると言う
典型的な詐欺行為を生業としている会社だと知ったのは、入ってすぐだった。
ただ、提示される破格の月給と、世間知らずだった俺には、その善悪の判断が出来なかった。
身の丈に合わない現金を手にすると、人間はおかしくなるのだろう。
孫のようだと言ってくれる顧客をじわじわ苦しめている間、俺は金で欲求を満たし続けた。

そんな時間も、当然のように終わりが来る。
就職して2年半ほど経った時、会社が詐欺罪で摘発された。
証拠隠滅の代わりなのか、その直前、営業部隊の殆どが解雇され、俺も放り出された。
唸るほどあった金は、使い尽くし、手元には殆ど残っていない。
何とか滑り込んだ今の会社では、前の会社の1/8程度の月給。
下っ端プログラマーとして、何とか仕事ができるまでにはなってきたけれど、早々昇給は望めない。
無い袖は振れないと頭では分かってても、我慢できなかった。
サラ金から闇金へ手を出してさえも、浪費癖は直らなかった。

一種の病気なのかも知れない。
そんな甘いことを考えていた俺を、立ち直らせてくれようとしたのが彼女だった。
同じ会社の事務の女の子。
だから、俺の収入くらいは把握できていたのだろう。
異常な金遣いを見て、事あるごとに諭してくれた。
自転車操業だった借金返済の計画も立て、二人で頑張ろうと、言ってくれた。
しかし、積み重なった借金は500万を超え、利子だけでも精一杯な状態。
せめて任意整理を、と考えていた矢先だった。

全て、自分が撒いた種。
分かっていても尚、再び全てを失った自分を受け入れることが、出来なかった。

□ 34_黒白-陰-★ □   
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■   ■ 5 ■
□ 35_黒白-陽- □   
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■   
>>> 小説一覧 <<<

コメント

非公開コメント

Information

まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

*** Link Free ***



>> 避難所@livedoor
Novels List
※★が付く小説はR18となります。

>>更新履歴・小説一覧<<

New Entries
Ranking / Link
FC2 Blog Ranking

にほんブログ村[BL・GL・TL]

駄文同盟

Open Sesame![R18]

B-LOVERs★LINK

SindBad Bookmarks[R18]

GAY ART NAVIGATION[R18]

[Special Thanks]

使える写真ギャラリーSothei

仙臺写眞館

Comments
Search
QR Code
QR