Blog TOP


黒白-陰-★(2/5)

大き目のバッグ一つで放り込まれたのは、二段ベッドが両側に一つずつある狭い部屋だった。
換気などは全くされておらず、壁紙はおぞましいほどに黄色く変色していた。
既に先客が2人いるようで、右側のベッドは上下段とも人が使っている形跡がある。
左側の上段に荷物を置くと、背後の男は言った。
「ま、あんたの残額なら7、8年ってとこか?まだまだ、人生やり直せるんじゃね?」
借金取りの男から俺の身柄を引き受けた派遣会社の社員は、口角を上げて蔑視を向ける。
「それまでに、身体壊すなよ?働き扶持が無きゃ、オレらも困るからさ」
薄汚れた絨毯の上に立ち尽くしたまま、俺は男が出て行くのを見ていた。

朽ちかけた天井を、硬いベッドの上で眺める。
部屋の中が闇に包まれるまで、そんな時間を過ごしていた。
ゴツゴツと廊下を歩く足音が聞こえ、不意にドアが開く。
電気を点けて俺の存在を認めた部屋の主は、一瞥しただけで、何も言わずに向かいのベッドに身を沈める。
続いて入ってきたもう一人は、俺をしばらく凝視した後、人懐っこい顔を見せた。
「今日からの、人?」
「ああ・・・宜しく」
「オレ、アキ。アニキは?」
「俺は、那須」
「ナス?」
「そいつ、頭イカれてっから、喋るだけ無駄だ」
先に入ってきた男が、ベッドの上で体勢を変え、俺に視線を送る。
「結構若いじゃん。こいつがダメになったら、ケツ貸せよ?」

気だるい喘ぎ声と、身体がぶつかる音。
床の上で行われている行為を、耳から強制的に知らされる。
特に会話も無いことだけが、唯一の救いだろうか。
イカれた男の声が徐々に大きくなり、腰を振っているであろう男の太い呻きが聞こえ始める。
3分もしないうちに、一方の男は絶頂に達したようだった。
「あんたもやるか?中出しし放題だぜ?」
昂りを隠さない声を俺に浴びせ、彼は再び床に付く。
ベッドの下に視線を向けると、下半身を露わにした若い男が、半ば放心状態で自分のモノを弄っていた。
異常な日常。
それが続くくらいなら、いっそ、死んだ方がマシなのかも知れない。


地方にある自動車部品の工場。
自動車のボディやトランスミッターに使う何種類かの部品を製造している。
担当するラインはひと月ごと、24時間3交代の勤務シフトは2週間ごとに入れ替わる。
まるでサウナのような工場内では、そこかしこに置かれた塩と、腰から下げた水筒だけが命綱。
吹き出る汗を拭う暇も無く、次々と流れてくる部品に向かう。
機械同然。
そこには、人間としての尊厳は、殆ど存在しなかった。

幸か不幸か、同居人とのシフトはしばらく噛み合わず、顔を合わせることもあまり無かった。
朝番から戻って来た夕方。
疲れてベッドに横になると、すぐに睡魔が襲ってきた。
そのまどろみを打ち破る、激しいノック音。
俺の返答を待たず、ドアが開く。
入ってきたのは、同じラインで働いている男だった。
「アキ、いねぇの?」
「今週は夜番」
「何だよ、たまにはケツで抜こうと思ったのに」
「あんたも、あいつとやってんの?」
嫌悪感を丸出しにし、顔をしかめた俺を、彼は何故か不思議そうな顔で見た。
「穴なんて、男も女も変わんねぇよ。シコって、抜けりゃ良いだけなんだから」
「でも、男同士だろ?」
「あんたはまだ入って日が浅いからな。・・・3ヶ月も経ちゃ、そんな考え意味無いって分かるさ」

ここに来て変わったことと言えば、止めていたタバコを吸い出したことと、髭を生やし始めたこと。
さっきの男や、同室の男が特別じゃないことは、シフトに入るようになってすぐ悟った。
保身の為にまず何が出来るか、短絡的な思考で辿り着いた答だった。
どんな奴がターゲットになるか、顔やスタイルは全く関係無い。
もっとも求められているものは、若さ。
その点で考えると、俺はかなり不利な立場にいた。
身を持ち崩すには、まだ若い年齢だったからだ。
弱点を見せないよう気を張る毎日。
肉体的にも、精神的にも、地獄のようだった。


男の喘ぎ声に、浅い眠りを覚まされることにも慣れてきた。
同室の男の名前が南であるという事を知ったのは、1ヶ月も過ぎてからだった。
その頃には、周りのことに興味を持つことも無く、自分が抱える借金のことを考えることも無く
ただ、やってくる明日を待つ、それだけの毎日になっていた。

勤務シフトがアキと同じ深夜番になった週。
部屋の前まで来ると、中から騒がしい音と声が聞こえてきた。
南は朝番だから、もういないはずだった。
ドアを開けると、狭い部屋に数人の男がひしめいている。
その中央で、前後から挟まれるように四つん這いになっている若い男。
「ああ、邪魔してるよ」
その中の一人が俺の存在に気が付いたのか、そう声をかけてくる。
どうでも良い、そんな軽い視線を返し、俺は自分の寝床に戻った。

奴らの性欲発散の行為は、南とは随分と違った。
「ほら、もっと喉絞めろよ」
「締まり悪ぃなぁ。掘られ過ぎてガバガバになっちまってるんじゃねぇのか?」
「もっとよがれよ。雰囲気出ねぇだろ」
まるで女を犯すかのような辱めの言葉を並べ、男を輪姦していく。
受け入れる彼は、あくまで従順に、その命令に従っているようだった。

□ 34_黒白-陰-★ □   
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■   ■ 5 ■
□ 35_黒白-陽- □   
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■   
>>> 小説一覧 <<<

コメント

非公開コメント

Information

まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

*** Link Free ***



>> 避難所@livedoor
Novels List
※★が付く小説はR18となります。

>>更新履歴・小説一覧<<

New Entries
Ranking / Link
FC2 Blog Ranking

にほんブログ村[BL・GL・TL]

駄文同盟

Open Sesame![R18]

B-LOVERs★LINK

SindBad Bookmarks[R18]

GAY ART NAVIGATION[R18]

[Special Thanks]

使える写真ギャラリーSothei

仙臺写眞館

Comments
Search
QR Code
QR