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羨慕★(1/8)

「まだ、眠い?」
「ん・・・そんなこと、無いけど」
洗いざらしの髪が、頬を冷やす。
紅を落とした唇が、瞼の上を撫でていく。
「ごめんね、いつも、こんな時間しか会えなくて」
日曜日の朝7時。
会える時間は、毎週、そこからの24時間だけ。
待ち侘びた機会にしがみつくよう、ベッドに横たわる身体を抱き締めた。


小さなバーを切り盛りする彼と出会ったのは、客として訪れた半年前。
薄い化粧に黒いドレスをまとった彼は、カウンターの向こうで俺を出迎えてくれた。
「あら、初めてのお客さん?ゆっくりしていってね」
バーテンダーも、店を彩るホステスたちも、全て男。
ゲイバーとも、ニューハーフバーとも言えない形態のその店は、何処と無く居心地が良くて
足繁く通う内に、段々彼に心惹かれて行く様になっていった。
俺よりも10歳くらい年上の彼は、化粧はしているものの、身体は男のまま。
華奢で中性的な顔つきからか、目元を少し整形したくらいでも十分綺麗に見える。

自分の性指向が、よく分からない。
子供の頃は、確かに女の子が好きだった。
おかしいと思い始めたのは、高校生の頃。
よく遊んでいた友人のスキンシップを、素直に受け入れられなくなった時だ。
後ろから抱き付かれただけの行為が、何故か下半身の昂りを呼んで、冷や汗が出たのを覚えている。
何か特別な感情があった訳じゃ、無かったと思う。
俺自身の身体が求めているのは、あくまでも女。
それなのに、あれ以来、男との関係を求める気持ちが心の奥底で燻り続けている。
結局今まで、俺は誰とも恋愛関係に陥ることの無いまま、時間を過ごして来た。
立ち位置が不確かな、節操の無い感情。
嫌で嫌で、仕方が無い。
この店に足を運んだのも、何か助けが欲しかったから、かも知れない。

「バイセクシュアルであることは、何も悪いことじゃないでしょ?」
カウンターの向こうから、薄めの水割りを差し出しながら、彼は優しくそう言った。
「相手が男でも、女でも、好きって感情を、素直に受け入れれば良いじゃない」
「でも、何か、誰も好きになっちゃいけない、みたいな強迫観念があって」
「どうして?」
「相手に悪いような、気がするから。傷つけるんじゃないかって」
「傷つかない恋なんて、無いのよ。どんなに幸せだって、細かな傷は付いていくの」
幸せな恋愛、そんなものに憧れるような時期はとっくに過ぎてしまったのに
満たされることの無かった感情が、今になって飢えに苦しんでいる。

「よく、玉砕覚悟、って言うじゃない?あの言葉、素敵だと思わない?」
「え?」
「貴方が怖いのは、自分が傷つくことなんじゃないかしら?」
縋る手を振り解くような一言。
それが、何故か、嬉しかった。
「恵さん」
「何?」
「俺と、付き合って」
一瞬驚いたような顔をした彼は、首を傾げて目を細める。
「私が傷ついても、良いの?」
「その時は、俺も一緒に、傷つくから」

こう言った商売のことはよく分からないけれど、当然、いろんな客に巡り合わせるはずだ。
しつこく口説かれることだって、あるんだろう。
それでも、彼は俺の手を取ってくれた。
咄嗟に言葉が口から出た時は、正直、おぼろげな感情だったけれど
短い逢瀬を繰り返す内に、それは、しっかりと形になって浮かんでくるようになってきた。


髭の面影も無い細い顎に、指を滑らせる。
「化粧取ったら、ただのおじさんでしょ?」
「恵さんは、女に、なりたいの?」
「どうかしら。そう言う訳でも無いけど、男にも戻りたくない、そんなところね」
「俺と一緒にいる時は、どっち?」
俺を見つめる目が細くなり、その唇が耳元へ沈む。
「匠くんは、どっちが良いの?」
「・・・そのままの、恵さんが良いな」

彼の手が、俺の首筋から頬へと上がっていく。
吸い込まれるように、唇が触れ合った。
柔和な彼の表情が、視界を覆う。
薄く開いた隙間を舌でなぞると、舌先に柔らかな感触が纏わり付いて来る。
静かな吐息と、喉を通ってくる小さな声で、俄かに身体が滾って行った。

頭を抱えるように回った腕が、そのまま顎を持ち上げる。
喉仏をじっくりと舐る舌の感触が、肩を震わせた。
逆の手を俺の胸元に添えたまま、彼は俺の顔に舌を這わせていく。
頬骨を唇が包み込み、瞼の窪みが温かい感触に濡らされる。
耳の後ろから耳たぶの方へ回り込むように顔が動くと共に、胸元の指がゆっくりと乳首を弄る。
些細な刺激が、耳にかかる吐息で増長されるようだった。
「・・・可愛い」
目を閉じて快感を受け入れる俺に、彼はそう囁く。
「俺、そんな、歳じゃ、ないよ?」
「愛しいものは、皆、そう見えるの」
薄い視界の中の唇が、自分の唇に近づいてくる。
柔らかい感触に蓋をされるように口を塞がれたまま、不意に強くなる刺激に耐えた。
「ん・・・っ」
顎に回されていた手も加わり、両方の乳首が彼の指に翻弄されていく。
口の中に入り込んで来た舌が、奥から漏れる声を掻き出す。
愛しい人から施される快感に、身も心も溶かされる思いだった。

□ 48_羨慕★ □
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祝1周年!

blog開設1周年、おめでとうございます。
まべちがわさんは真面目そうな方だから、関西風冗談が通じないで気を悪くされたら困ると思いますので、真面目にコメントしているつもりです。
『座右の銘メーカー』をしてみたので、私の家族を紹介いたします。←今頃(笑)。あらためて、宜しくお願いいたします。
夫:自分から挨拶…これで、皆は良い人と思って騙される。
息子:いつか誰かと朝帰り…とっくの昔に済んでいる。
娘:最後に愛は勝つ…計算高い耳年増に言われても、困る。
私:愛は幸せのかけ算…意味不明(笑)。

これからも宜しくお願い致します。

いつもコメント頂きまして、本当にありがとうございます。
気が付けば、一年。
時の長さはそれほど感じないのですが、増えて行く小説のタイトルを見るにつけ
それだけの時間が経ったと言うことを実感します。

折角なので、私も座右の銘を、と思ったのですが
同じだと芸が無い感じなので、だものメーカーにしてみました。

末は 博士か大臣か サラリーマンだもの   まべちがわ

とりあえず、どっちも大変そうなので、一生リーマンで良いです。

これからもご贔屓の程、何卒宜しくお願い致します。
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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