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鶴望★(1/7)

もうじき右手に広瀬川が見えてくる。
久しぶりの帰省。
祖父の十三回忌だから、今年ぐらいは帰って来いと催促が無ければ
多分、今年の夏も帰らなかったと思う。
東京で就職してから10年以上経つのに、帰ってきたのは数えるほどだ。

街が嫌いな訳じゃない。
大学4年の秋、大きな失恋をした。
自暴自棄になり、進学を決めていた大学院を蹴って、むりやり就職を決め
逃げるように上京してしまった。
家族にも、大学の恩師にも、支えてくれた友達にも申し訳なくて
それ以来、何となく寄り付き辛い場所になってしまっている。

新幹線を降りると、メールが届いた。
『今日の時間、ちょっと変更。7時で宜しく』
送ってきたのは、高校の時の友達である岩崎だった。
帰省前、久しぶりに会おうと連絡をしたところ、何人か集めてくれたらしく
今晩、駅前で飲む約束をしている。
高校の時に良くつるんでいたのは、岩崎とオレを含めて5人。
内3人は既婚者で、各々子供もいる。
同じように過ごしてきた友達が、皆所帯を持っていることに焦りを感じない訳では無いけれど
こればっかりは仕方が無い、と毎年、年賀状を見る度に思う。


仙台駅のステンドグラスの前は、人でごった返していた。
いつの間にか政宗像が無くなっていて、少し寂しく思いながら、知った顔を捜す。
自分の視力の低下を改めて感じ、そろそろ眼鏡を買い替えるかと思った時、突然肩を掴まれた。
「おう、こっちだよ」
岩崎だった。
「お前、こっち見てんのに素通りしていくから」
「悪い、よく見えなくてね」
「武藤は今日仕事で、遅れてくるってさ。先に行っててくれって」
そうか、と答えつつ、歩き始めた集団についていく。

「仙台、何年ぶりだ?」
「お前の結婚式以来だから・・・3、4年か」
「じゃあ、相当変わってるだろう?」
「新幹線から見る景色に、驚きっぱなしだったよ」
元々、人も建物も少なくは無い街だった。
数年前の短い不動産バブルの際に、多くのビルが建ったそうだ。
地下鉄工事や再開発も行われていて、活況のようにも見えるが
空き室の目立つテナントビルも、やたら目に付く。
「相変わらず、不況なんだよ。東京とは、違うだろ」
東京だって、決して好況じゃない。
けれど、こっちに比べれば、まだまともな状況に戻って来てはいる。
「東京だって、似たようなもんだよ」
そんな答えしか、出来なかった。

店は、アーケードを入って中ほどにあるビルにあった。
「今日は、魚三昧だから」
「牛タンじゃねぇの?」
「そんなの、何処ででも食えるだろ」
「まぁな」
確か、前に帰ってきた時も同じようなやり取りをした気がする。
歳をとると、肉から魚に好みがシフトしてくるのは、万人に共通なんだろうか。

宴席が始まってもうすぐ1時間、と言うところで、岩崎の携帯に着信が入る。
「武藤だ」
どうやらヤツは車らしく、駐車場から店の道筋を聞いているらしい。
「あいつの会社、盆休みって無いの?」
「みたいだよ。シーズンを外した時期に、めいめいで休みを取るんだってさ」
そうこう話していると、待ち人がやって来る。
「遅れて悪い。道が混んでてね」
武藤とも4、5年ぶりの再会だったはずだが、その変わり様に驚かされた。
髪を明るめに染め、若い奴らが着ているようなスリムなスーツを着ている。
何か、R25に傾倒した、どっかのデキるサラリーマンのようだ。
「その髪、どうした?」
当然のように、突込みが入る。
「ああ、これ白髪染めだよ。転職してから増えちゃって」
「にしても、よくどやされないな、それ・・・」
俺が身を置く建築業界でここまでしているのは、職人くらいだな、そんな風に思う。
「転職したのか?」
「そう、外資の保険屋」
「ああ」
その場が一斉に、何となく納得した雰囲気になる。
「まずは見た目を何とかしろってさ。客に舐められるな、ってね」
そう言って、武藤はウーロン茶を飲み干した。

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鶴望★(2/7)

店を出ると、アーケードの人通りは閑散としていた。
そんなに遅い時間じゃないが、皆国分町の方にでも行ってるんだろうか。
「お前、冬も帰って来いよ。2時間くらいだろ?新幹線で」
「そうだけどね」
「まだ、引きずってんの?」
大学時代にもちょくちょく付き合いがあった岩崎は、あの顛末をほぼ知っている。
「もう、忘れろ」
「そうしたいのは山々だよ」
「嫌でも時間が解決してくれるんだから、それに乗っかっとけ」
忘れかけていることを、オレは、この時期になると自ら引っ張り出しているのかも知れない。
故郷に帰りたい、その感情の裏返しなんだろうか。
「年末近くなったら、連絡するからな」
岩崎はそう言って、俺の肩を叩いた。

「緒方って、家どの辺だっけ?」
歩きながらそう聞いてきたのは、武藤だった。
「西多賀だよ」
「ウチと結構近いな。じゃあ送ってやるよ」
「何処住んでんの?」
「長町」
「前からそうだっけ?」
高校の時、そんな近かった印象は無かった気がした。
「実家は塩釜だよ」
「一人暮らしか」
「ああ、ま、そんなところ」

駅に程近い駐車場に、武藤の車は止まっていた。
仙台ナンバーのBMW。
「ずいぶん羽振り良さそうだな」
「そうでもないさ。東京と比べりゃ、給料も安いしな」
またか。
どうして東京で働いたことも無いのに、そんなことが言えるんだ。
東京への幻想に若干げんなりしながら、オレは車に乗る。


「お前、まだ結婚しないの?」
雑談の流れから、そんな話を振られる。
「予定も、予兆も、予感も無いね」
「寂しいねぇ」
「お前だって独身だろ?」
5人の中では、オレと武藤だけが独身だ。
「俺は、一生予定は無いよ」
余裕の顔つきで、武藤はそう言った。
「何それ?言い切っちゃう訳?」
「そう」
自分よりも相当年下に見えるような若作りのサラリーマンを見て、オレは奇妙な感覚になる。
まだ結婚を諦めるような歳でも無いし、収入も申し分無さそうなのに、何故。
「ちょっと寄っていく所があるんだけど、良いかな」
武藤の一言で、考えが中断される。
「ああ、良いよ」
窓の外を見ると、左側に暗く広瀬川が流れている。
昔は日常だったのに、今は思い出の中にしかない風景だ。

車は長町駅の前に停まる。
武藤は車を降りて、トランクから何かの紙袋を取り出し、一人の男に手渡した。
少し暗くて、よく見えなかったが、知り合いだろうか。
男がこちらを見る。
街頭に照らされた男の顔を見て、ハッとした。
嫌な記憶が、瞬時に蘇る。


男は、オレの大学の後輩だった泉。
オレが4年の時、ヤツは新入生として入ってきた。
同じサークルの先輩・後輩の仲で、学科も同じだったから、何かと目を掛けてやっていた。
当時付き合っていた彼女も、やっぱり同じサークル仲間の同級生。
1年生の頃から付き合っていて、何となく将来のことも考えていた程だった。

彼女と何となく疎遠になり始めたのは、4年の夏の初め。
早々に就職を決めた彼女と、9月に控えた大学院の院試に向けて勉強中だったオレ。
そのまま夏休みに入り、学生生活最後だからと声をかけてくる彼女に
オレは構ってあげられなかった。
少しくらい息抜きを、と気遣ってくれていたのに、つまらない口喧嘩になることもあった。

何も気が付くこと無く、夏休みは終盤になり、院試も迫ったある日。
久しぶりに彼女に連絡を取った。
けれど、電話に出なかった。
少しの不安を胸に、彼女の家へ行く。
彼女は一人暮らしだったから合鍵も持っていたが、念の為、チャイムを鳴らす。
時間を置いて出てきたのは、泉だった。
何をしていたのか、明らかに分かる格好をしていた。
「電話に出ないって事は、こう言うことですよ。緒方先輩」
部屋の奥で、彼女は俯いていた。
オレは何も言えず、何も出来ず、黙ってその場を立ち去った。

原付で大学へ戻る時、多分、正気じゃなかった。
よく事故らなかったな、そう思う。
全部、自分が蒔いた種だった。
彼女は、何も悪くない。
ただ、勝ち誇ったようなヤツの顔を思い出すと、吐き気がした。

結局、オレは院試に合格したものの、それを辞退した。
もう1秒も大学に居たくない、そんな思いで一杯だった。
サークルにも顔を出さず、黙々と卒研をこなして、卒業まで耐えた。
彼女とも、泉とも、学校ですれ違うことはあったが、挨拶すら交わすことは無かった。
そして、オレは、東京へ逃げた。

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鶴望★(3/7)

ヤツも、車の中のオレに気が付いたらしく、驚いた表情を見せる。
武藤と一言二言交わすと、軽く会釈をしてくる。
オレは、それを返す気分にはなれなかった。
程なくして、武藤が戻って来る。
「あいつと知り合いなんだって?」
「大学の後輩だよ」
「そうか」
「お前は、どういった知り合いなんだ?」
武藤はオレの質問に答えず、車を発進させる。
「ちょっと、ドライブでも行かないか」
「はぁ?」
唐突な誘いに驚いたが、どうせ帰ったところでやることもない。
「明日も仕事だろ?」
「別に、平気だ」
「なら、良いけど」
何処を目指しているのかは分からなかったが、オレの家から遠くなっていることだけは確かだった。

窓の外の風景は、何となく見覚えのあるものだったが、地名までは分からなかった。
店を出たのが9時半過ぎ、今が11時前だから、随分走っているんだろう。
「俺、あいつと付き合ってんの」
武藤が発した一言を、瞬時に理解することが出来なかった。
「もう、3年くらいになる」
「お前・・・え?」
「俺ね、男しか好きになれないんだ」

高校の頃から知っているはずなのに、衝撃的な告白をする武藤が、まるで他人に見えた。
想像もしていなかった展開に、顔がこわばる。
「・・・昔から?」
「そう」
「高校の時も?」
子供じみた質問をするオレを、武藤は横目で見て笑う。
「そうだよ、あの頃も」
倍速で高校時代のことを振り返っても、そんな素振りは全く心当たりが無かった。
「それ・・・誰か知ってんの?」
「誰にも言って無い」
「何で、ここで、オレに、それを言う訳?」
少し、震えていたのかも知れない。
口が上手く回らなかった。
「別に。言っておこうと思って」
武藤は、遠く前を見ながら、事も無げにそう言った。

「あいつ、大学の頃はどんなヤツだった?」
泉のことか、とは分かったが、あまり話したく無い気分だった。
それよりも、どうしてあいつが男と付き合っているのかが、腑に落ちない。
オレの彼女を寝取ったヤツが、何故。
男とも女とも、と言う人間が居ることは知っているが、あいつもそうなのか。
武藤は、そのことを知っているんだろうか。
「1年しか付き合いが無かったからな、良くは知らないけど」
一先ず、そんな風に答えておいた。


時計は、12時を回っていた。
車は286号線を走り、もうじき自宅だというところで、路地に入り、停まる。
「どうした?」
思いつめたような顔をしてハンドルにもたれる武藤に、声をかける。
不意に、影が覆った。
目の前に、武藤の顔があった。
「ちょっ・・・と、待て」
息が苦しく、背筋が寒くなる。
眼鏡を外され、顎に手がかかった。
「おい・・・武藤」
肩に手をかけ、渾身の力を込めて身体を引き離そうとする。
「ずっと、好きだった」
頭に血が上り、のぼせる感覚があった。
「お、お前・・・には、泉がいるじゃないか」
心配する価値も無い奴の名前を出してでも、落ち着かせようと思った。
効果はあった様で、武藤は少し身を引く。

「気持ちは嬉しい・・・けど、それに応えられないことは、お前も分かるだろ」
武藤は、黙って頷き、顔を伏せる。
「オレは、お前とは友達でいたいんだ」
肩にかけた手に力を入れて、説得するように続けた。
「こんなことされたら、お前とは、もう友達としては会えなくなる」
顔を上げさせて、目を見つめる。
「お前を、失いたくないんだよ。・・・分かってくれ」
大きくため息をついて、武藤は運転席のシートにもたれる。
「悪かった・・・ありがとう」
オレは武藤の手から眼鏡を取り、かけ直す。
やりきれない表情を、側の街灯が静かに照らしていた。

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鶴望★(4/7)

実家に帰ると家族は殆ど寝ており、親父だけが一人TVを観ていた。
「待ってたの?」
「そう言う訳じゃない」
そう、と簡単に答えを返し、冷蔵庫からビールを出す。
「飲む?」
「ああ」
こうやって、親父とサシで話すのは、何年振りだろう。
たわいも無い話だけれど、何故だか気分が落ち着いた。
後何回、親父と顔を合わせる機会があるのか。
やっぱり、年に1、2回くらいは帰省するべきかな、そんな風に考える。

次の日の法事は天気にも恵まれ、つつがなく終わった。
礼服は持っていないから、黒いスーツに黒いネクタイで済ませてしまったが
特に何も言われることも無かった。
この歳になれば、法事も増える。
そろそろ礼服ぐらい買っておけ、と久しぶりに会う兄貴にも諭された。
「お前、このまま帰るんだって?」
「休みが明日までだからね。明日は一日ゆっくりしたいんだよ」
「家でゆっくりして行きゃいいのに」
「また、冬に帰って来るさ」
自然と、そんな言葉が出た。


法事があった寺から、仙台駅まではそれほど遠くない。
新幹線の時間まで余裕があったので、歩くことにした。
通りを歩いていると、前方に車が停まっているのが見えた。
仙台ナンバーのBMW。
嫌な感じを抱えつつ歩いていくと、人が降りてくる。
泉だった。
「お久しぶりですね、緒方先輩」

どうしてここに居る?
きっとそんな表情をしていたんだろう。
「さっき、見かけたもんで」
見かける?何処で?
そう微笑む後輩の顔に、得体の知れない気味の悪さを感じた。
「崇史と、友達なんだそうですね」
タカフミ?ああ、武藤のことか。
昨日のことを思い出し、少しバツが悪くなる。

怪訝な顔をするオレに、奴は畳み掛けてくる。
「恵理子のこと、まだ怒ってます?」
大学の時の彼女のことだ。
その名前を聞いて、急にイライラが募った。
「何が言いたいんだ、泉」
「積もる話でも、したいなぁと思って」
「悪いけど、新幹線の時間があるから」
例え時間があっても、こいつと話をする気にはなれなかった。
オレが通り過ぎようとした時、いきなり腕を掴まれる。
振り返った瞬間、腹に蹴りを喰らった。
その衝撃は、オレが気を失うのには十分だった。


「新幹線の時間は、良いんですか?緒方先輩」
そう言う声と、顔にかけられた水の冷たさで、目を覚ます。
ベッドに寝かされた状態で、腰の辺りに泉が馬乗りになっている。
手は黒いネクタイでベッドのヘッドボードに縛られていた。
眼鏡は外されてしまったようで、視界がぼんやりとしていた。
部屋を見回すと、寂れたラブホテルのようで、悪趣味なことに天井は鏡張りになっている。

「何の・・・つもりだ」
「あんたは、俺の欲しいもの、全部持って行っちゃうんですよね」
「知らねぇよ、そんなこと」
冷ややかな目でオレを見下ろしながら、泉は続ける。
「恵理子とは、結局すぐ別れたんですよ。あんたに申し訳ないって」
それを聞いて、少し清々した気分になる。
「俺とのセックスで、あんなに良いって言ってたのにね」
さっきの気分が吹き飛ぶ。
「そんなこと、オレに言ってどうする」
「崇史もそうだ」
泉の顔が近づいてくる。
「前から、心に引っかかってる奴が居るって言うのは聞いてたけど」
探られている口調に、気分が悪くなる。
「昨日、帰ってきた後、様子がおかしくてね」
「送って貰っただけだ」
「あんなに長い時間?」
「久しぶりに会ったんだ、いろいろ話もあるだろう」
「・・・男の勘も、案外バカにしたもんじゃないんですよ」
その冷たい表情に、心底恐怖を感じた。

ワイシャツのボタンが、上から外される。
「おい」
「緒方先輩、男とやったこと無いでしょう?」
「当たり前だろ」
「じゃ、どんなもんか味合わせてあげますよ」
血の気が引く思いだった。
冷や汗が吹き出る。
「そんなことして、何に、なる」
「動揺してるんですね・・・当然か」
泉は、オレの態度を見て楽しんでいる。
身体を捻って抵抗した時、ご丁寧に足首まで縛られていることに気が付いた。
このまま、コイツに犯されるのか?
震えが止まらなかった。

泉は、ベッドサイドに置いてあった眼鏡を、オレにかける。
「天井に映る自分の姿を、存分に見て下さいね」
最悪な趣味だ。
程なく上半身が露にされる。
決して滑らかとはいえない手の感触が、胸から腹、わき腹と、広い範囲を回っていく。
不快感が脳に伝わり、鳥肌が立つ。
やがて、泉は俺の脚の方へ移動し、ズボンのベルトを外す。
ある程度自由になった上半身を動かすが、ネクタイが手首に食い込むだけで、さほど効果は無かった。
「案外、大きいんですね」
オレのモノは、泉の手によって、空気に触れた。

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鶴望★(5/7)

ベッドの上には、何が入っているのか分からないバッグが置いてあった。
泉はその中に手を入れ、適当に探ると、何かのチューブを取り出し
容器からジェル状のものを手に取ると、モノに擦り付けてくる。
冷たく、初めての感覚に、思わず腰が浮く。
「こういう感触、好きなんですか?」
「そんな訳、無いだろう」
「そうですか」
チューブから直接上半身にジェルを垂らされる。
それを塗り広げるように、両手が動く。
気持ちの悪さを、歯を食いしばって耐える。
口の端から、荒い息が漏れた。

ジェルを塗りこめられたモノが、ゆっくりと扱かれる。
付け根から先端に至るまで、満遍なく弄ってくる。
刺激に耐える度、手首のネクタイが締め付けてきて、痛みが走る。
「気に入って、頂けたみたいで」
そう言って、片方の手を腰の後ろへ回して来る。
腰が浮く格好にされ、徐々に勃って来た自分のモノを見せ付けられた。
尻の割れ目をなぞり、指は穴の前後を動く。
「ここは、どうですかね?」
唇をかみ締め、首を振って抵抗する。
「入れてみれば、案外、ハマルかも知れませんよ?」
「やめろ・・・」
「まずは、細いもので慣らしましょうね」
緊張で悪寒がする中、モノへの刺激が意識を拡散させていく。

泉の手に取られた蛍光ピンクのグロテスクな物体は
ジェルを塗り付けられ、不気味に光っていた。
全く、細くは見えなかった。
「力抜かないと、痛いだけですよ?」
尻の割れ目に沿って上下に動かされた後、その先端が入ってくる。
経験の無い感覚に戸惑いを覚える暇も無く、スイッチを入れられ、振動が腰から響いてきた。
思わず上ずった声が出る。
片方の手でバイブを押さえ、一方の手でモノを扱いてくる。
オレは、歯を食いしばり、必死に抵抗した。
そうすることで、無理矢理イカされる瞬間を、出来るだけ遠のけたかった。
「我慢しても、意味無いですよ」
俺の顔を覗き込んで、泉は笑った。
「あんたがおかしくなるまで、止めませんから」
ゾッとした。
言葉が出なかった。
オレは、どうなる?
いっそのこと、快感に全てを溶かしてしまえたら、楽なのかも知れない。

バイブが徐々に奥へ入ってくるのを感じる。
背筋が寒くなるのに、背中から肩にかけて刺激が走る中で、それが快感に変わっていく。
絶頂寸前だった。
「もう・・・イく」
「どうぞ?」
悔しかった。
それでも、抑えられなかった。
声を殺して、オレはイった。
腹に自分の精液が広がる。
それを搾り出すように、泉は柔らかくなったモノを再び扱き始める。
「後輩にイかされる気分はどうですか?」
「最悪、だ」
「でも、気持ち良さそうな顔、してましたよ」
年下の男に、自由を奪われ、快楽に墜とされ、見下される。
屈辱以外の、何ものでもなかった。

バッグの中には、一体どれだけの物が入っているのか。
イったばかりの高潮した体は、更に玩具で責められる。
ジェルで少し濡れた乳首を執拗に舐め回し、少し立って来たところに、クリップを着けられた。
痛みで歪んだ顔を、泉は愉快そうに眺める。
「その顔が、どう変わるか楽しみだな」
クリップに付いたローターが、同時に振動を始める。
乳首が千切れるんじゃないかと錯覚する程の痛みだった。
喉の奥から、呻き声が漏れた。
「こっちもオモチャ任せにしますね」
取り出されたのは、ごつい形をしたオナホールだった。
モノが詰め込まれ、スイッチが入る。
挟み込まれ、扱かれる動きと振動が同時に襲って来た。
乳首の痛みも忘れるくらいの刺激で、体が跳ねる。
「もう、やめ・・・ろ」
どうしたら、ここから逃げられるのか、答えの無い問いを繰り返す。

「舌、出してください」
虚ろな表情のオレに、そう言ってくる。
素直に舌を出すと、一緒に声が出る。
喉を絞めて堪えるが、そうさせまいとしているのか、泉はその舌を舐ってきた。
卑猥な水音が、オレの声に混じって、響く。
「やらしい顔ですね。こんな表情、崇史にも見せるんですか?」
武藤の顔が浮かぶ。
「そんな、訳・・・ない、だろう」
こんなところ、あいつにだけは見られたくない。

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鶴望★(6/7)

大きな衝撃の中に、不意に小さな振動を感じる。
泉の携帯に、着信があったようだった。
相手の名前を確認し、何か企むような笑みを浮かべて、話し始める。
「今、緒方先輩と一緒なんだ。崇史も来いよ」
そう言いながら、オレの顔を撫で、強引に指を口の中に捻じ込んで来る。
低い呻き声が、喉を通っていく。
「すげぇ、気持ち良いってさ」
激しい口調の声が、電話から漏れ聞こえてきた。
普段の武藤からは、想像がつかないトーンだった。
「お前もやりたいんだろ?こいつと」
電話の向こうの恋人を煽るよう、泉は挑発的な口調で話す。
口の中の指が舌を捕らえ、引っ張るように摘み上げる。
強制的に吐かされた喘ぎが、狭い空間に充満し、滲みていく。
「大切な奴が壊れる前に、早く来いよ」
冷徹な笑みを浮かべてオレを見下ろしながら、乱暴に携帯を閉じる。
「どんな顔するのか、楽しみだな」
いろんな意味で、全てが、終わる。

目の前に、大きくなったモノが露になる。
「俺も気持ち良くなりたいんですけどね」
わずかな理性で、泉を睨み付けた。
「歯、立てられたんじゃ、たまったもんじゃないんで」
モノでオレの頬を軽く叩き、自らの手で扱き出した。
笑ってオナニーをする男は、初めて見た気がする。
強制的に口を開かされたまま、あの吐き気のするような笑みを浮かべて、泉は絶頂を迎える。
視界を白い液体が覆い、口や鼻を、酷く不快な感覚が襲う。
思わず、むせる。
少しでも良いから、吐き出したかった。
「俺の味は、どうでした?」
オレの眼鏡を外し、泉は嘲笑を浮かべて言った。
もう、何も言い返す気にはならなかった。

理性は思ったよりもしつこくて、諦めかけた瞬間に起き上がってくる。
アナルバイブは半分ほど挿入され、相変わらず骨に響く。
オナホールの刺激は、快感から痛みに変わってきている。
逆に、乳首に着けられたクリップが、堪えられない快感を呼ぶ。
それなのに、快感に身を預けることは出来なかった。
壊れても良い、おかしくなりたい、そう思うようになって行く。


突然、部屋のドアが激しく叩かれる。
その音で、我に返る。
「来たか」
泉はそう言って、ドアの方へ向かう。
見られたくない、そんな感情が湧き上がる一方で
理性を捻じ伏せようとする刺激に抵抗できない。
何とかして欲しい、縋る思いで、ドアの向こうに立つスーツ姿の男に視線を送る。

「どう言う、つもりなんだ」
スーツの男はこちらを一瞥し、すぐに目の前の男に視線を移した。
声は、冷静さを欠いていた。
「別に。お膳立てしてやっただけだよ」
悪びれた様子も無い泉の胸倉を掴み、一呼吸置いて、言った。
「今すぐ、ここから、出て行け」
背中を向けている泉の表情は分からなかった。
「・・・お前が悪いんだよ。いつまでも、こいつを忘れない、お前が」
そう残して、泉は部屋を出て行く。
しばらくして、階下から、車が走り出す音が聞こえた。

武藤は何も言わず、オレを束縛していた全ての物を外してくれた。
お互い、口を開くことは無かった。
体に自由が戻ってきても、起き上がる気力すら出てこない。
軽く痙攣している体には、疼きが残る。
自分で処理しようと手を伸ばしたが、散々器具で弄られたせいか、酷く痛んだ。
「武藤」
驚くくらいの、しゃがれた声だった。
何も言わずに、武藤はオレを見る。
「抜いてくれないか」
目は、合わせられなかった。
「触ると痛いんだ・・・でも、疼いて堪らない」
昨日、キスすら拒んだのに。
最低だ、そう思っても、我慢できなかった。
武藤の手が、額に触れる。
「何も言わずに、イって良いから」
そう言うと、その手でオレの口を塞ぎ、武藤はモノを口に含んだ。

当然のことながら、女の口よりも男の口の方が大きい訳で
だからなのか、その感覚は、今まで経験してきたものとは随分違った。
痛む、と言ったからか、優しく、柔らかい舌使いで包み込んでくる。
武藤の掌に喘ぐ声がぶつかって、自分の顔に響いてきた。
時間はかからなかった。
震える手で、武藤の肩を掴む。
同時に、オレは果てた。
精液は殆ど出なかったが、武藤は口で全て受け止めた。
罪悪感で、視界が滲んだ。

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鶴望★(7/7)

「シャワー、浴びれそうか?」
小さく、首を横に振る。
武藤はユニットバスへ向かい、うがいをしているようだった。
戻って来た時には、濡らしたタオルを手にしていた。
酷いことになっているスーツを脱がし、体を丁寧に拭いてくれる。
悪夢の跡が、少しずつ消されていった。
一通り拭き終わると、再び風呂へ戻り、水の入ったコップと洗面器を持ってくる。
「ちょっと、頭上げて」
オレの首に手を添え、頭を浮かせる。
口をゆすぐ様に言われ、中の気持ちの悪いものを流し出す。
下半身にバスタオルをかけられると、何となく気分が落ち着いてきた。

ベッドに腰掛けた武藤は、言葉を選んでいるようだった。
「何て言って良いか・・・本当に、申し訳ない」
「お前のせいじゃない、だろ」
うなだれた茶色い髪に手を伸ばす。
耳から頬と移動させて、唇をなぞるように指を滑らせた。
武藤の目は、戸惑いに満ちていた。
「・・・キスしてくれよ」
「ダメだ」
恐怖と屈辱に塗れた心を、誰かに癒して欲しい。
オレは、目の前の男に、それを求めていた。
残酷な言葉を投げかけた昨日が、やたらと遠く感じた。
上半身を起こして、腕を首に回す。
そのまま、軽く唇に触れた。
拍子にバランスを崩し、ベッドに倒れ込む。
弾みで顔が離れたが、今度は向こうから唇を重ねてきた。
その感触が、闇を、を少しずつ消し去って行く。


「今日、帰れるか?」
「新幹線に乗るような気分じゃ、無いな」
かと言って、こんなところで一晩過ごす気にもなれない。
今更、実家にも帰れない。
「ビジネスにでも泊まって、明日帰るよ」
「何時くらいに出る?」
「朝の内に出ようかな」
「見送りに行くから。時間分かったら、メールくれ」
武藤の優しい笑顔に、やっと救われた気持ちになった。

昨日着てきた服に着替えるにも、バッグの中にはあいにく半袖しかなかった。
手首についた、無残な跡を眺める。
「俺の、着れるだろ?」
そう言って、武藤は自分のスーツを脱ぎ出す。
「明日、返してくれれば良いから」
背丈はそれほど変わらないにせよ、奴の細身のスーツは、オレには随分きつく感じる。
「よく、こんなの着て仕事できるな」
「慣れれば悪くないんだけどね」
「ケツの辺りが破けそうだよ・・・」
「ホテルまで、耐えてくれ」

ふと、右の手首を掴まれた。
武藤は傷を癒すよう、赤く腫れた拘束の跡に唇を滑らせる。
「本当に、すまない」
震える声で謝罪を繰り返す、俯いた顔に手を伸ばした。
「お前が悪いんじゃない」
潤んだ目が、オレを見つめている。
一瞬、吸い込まれるような気がして、怖くなった。
そんな気持ちも、優しいキスに流されていく。

金は払っておくと言う武藤の言葉に甘えて、先に部屋を出る。
あいつはこの後どうするのか。
泉の顔を思い浮かべ、恐怖と不安に駆られた。
けれど、オレが出て行ったところで、どうにもならないだろう。
痛む身体と心を引きずるように、駅前のホテルにチェックインする。
街はすっかり、夜の風景になっていた。


次の日の朝、仙台駅の新幹線ホームに立つ。
まだ6時過ぎだったが、案外待ち人が居る。
昨日買った服、しかも夏だというのに長袖の服を着ているオレは、若干周りから浮いていた。
私服姿の武藤が現れたのは、オレが着いて5分ほど経ってからだった。
「スーツは無事だろうな」
「ああ、多分ね」
そう言って、互いに借り物の服を渡し合う。

「体調はどう?」
「まずまずだな」
「気をつけて帰れよ」
若干疲れを残した武藤の顔を見やる。
「・・・あの後、どうした?」
「ああ、ケリつけて来た」
「ケリ?」
「車くれてやって、終わりにした」
何でも無いことのように、苦笑しながらそう話す。

「冬、帰って来るのか?」
「・・・どうかな」
武藤はオレの手を握り、指を絡めてくる。
それに応える様、手に力を込める。
「待ってる」
軽く引き寄せられ、オレは武藤の肩に顔を寄せる。
視線を上げた、すぐ先にある顔が静かに近づいてきて、額に唇が触れた。
「・・・忘れられないんだ」
寂しげな表情で見つめる目を、オレは心に刻むよう、受け止める。

ホームに、出発のメロディーが流れる。
オルゴールのような煌びやかな旋律が、心に響く。
窓の外に立つ武藤が、徐々に離れて行った。
明日からは、また日常が始まる。
次の冬、待っててくれる人たちの為、この街に帰って来よう。
心の底から望みながら、オレは座席に身を任せた。

□ 10_鶴望★ □   
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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