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鶴望★(3/7)

ヤツも、車の中のオレに気が付いたらしく、驚いた表情を見せる。
武藤と一言二言交わすと、軽く会釈をしてくる。
オレは、それを返す気分にはなれなかった。
程なくして、武藤が戻って来る。
「あいつと知り合いなんだって?」
「大学の後輩だよ」
「そうか」
「お前は、どういった知り合いなんだ?」
武藤はオレの質問に答えず、車を発進させる。
「ちょっと、ドライブでも行かないか」
「はぁ?」
唐突な誘いに驚いたが、どうせ帰ったところでやることもない。
「明日も仕事だろ?」
「別に、平気だ」
「なら、良いけど」
何処を目指しているのかは分からなかったが、オレの家から遠くなっていることだけは確かだった。

窓の外の風景は、何となく見覚えのあるものだったが、地名までは分からなかった。
店を出たのが9時半過ぎ、今が11時前だから、随分走っているんだろう。
「俺、あいつと付き合ってんの」
武藤が発した一言を、瞬時に理解することが出来なかった。
「もう、3年くらいになる」
「お前・・・え?」
「俺ね、男しか好きになれないんだ」

高校の頃から知っているはずなのに、衝撃的な告白をする武藤が、まるで他人に見えた。
想像もしていなかった展開に、顔がこわばる。
「・・・昔から?」
「そう」
「高校の時も?」
子供じみた質問をするオレを、武藤は横目で見て笑う。
「そうだよ、あの頃も」
倍速で高校時代のことを振り返っても、そんな素振りは全く心当たりが無かった。
「それ・・・誰か知ってんの?」
「誰にも言って無い」
「何で、ここで、オレに、それを言う訳?」
少し、震えていたのかも知れない。
口が上手く回らなかった。
「別に。言っておこうと思って」
武藤は、遠く前を見ながら、事も無げにそう言った。

「あいつ、大学の頃はどんなヤツだった?」
泉のことか、とは分かったが、あまり話したく無い気分だった。
それよりも、どうしてあいつが男と付き合っているのかが、腑に落ちない。
オレの彼女を寝取ったヤツが、何故。
男とも女とも、と言う人間が居ることは知っているが、あいつもそうなのか。
武藤は、そのことを知っているんだろうか。
「1年しか付き合いが無かったからな、良くは知らないけど」
一先ず、そんな風に答えておいた。


時計は、12時を回っていた。
車は286号線を走り、もうじき自宅だというところで、路地に入り、停まる。
「どうした?」
思いつめたような顔をしてハンドルにもたれる武藤に、声をかける。
不意に、影が覆った。
目の前に、武藤の顔があった。
「ちょっ・・・と、待て」
息が苦しく、背筋が寒くなる。
眼鏡を外され、顎に手がかかった。
「おい・・・武藤」
肩に手をかけ、渾身の力を込めて身体を引き離そうとする。
「ずっと、好きだった」
頭に血が上り、のぼせる感覚があった。
「お、お前・・・には、泉がいるじゃないか」
心配する価値も無い奴の名前を出してでも、落ち着かせようと思った。
効果はあった様で、武藤は少し身を引く。

「気持ちは嬉しい・・・けど、それに応えられないことは、お前も分かるだろ」
武藤は、黙って頷き、顔を伏せる。
「オレは、お前とは友達でいたいんだ」
肩にかけた手に力を入れて、説得するように続けた。
「こんなことされたら、お前とは、もう友達としては会えなくなる」
顔を上げさせて、目を見つめる。
「お前を、失いたくないんだよ。・・・分かってくれ」
大きくため息をついて、武藤は運転席のシートにもたれる。
「悪かった・・・ありがとう」
オレは武藤の手から眼鏡を取り、かけ直す。
やりきれない表情を、側の街灯が静かに照らしていた。

□ 10_鶴望★ □   
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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