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鶴望★(2/7)

店を出ると、アーケードの人通りは閑散としていた。
そんなに遅い時間じゃないが、皆国分町の方にでも行ってるんだろうか。
「お前、冬も帰って来いよ。2時間くらいだろ?新幹線で」
「そうだけどね」
「まだ、引きずってんの?」
大学時代にもちょくちょく付き合いがあった岩崎は、あの顛末をほぼ知っている。
「もう、忘れろ」
「そうしたいのは山々だよ」
「嫌でも時間が解決してくれるんだから、それに乗っかっとけ」
忘れかけていることを、オレは、この時期になると自ら引っ張り出しているのかも知れない。
故郷に帰りたい、その感情の裏返しなんだろうか。
「年末近くなったら、連絡するからな」
岩崎はそう言って、俺の肩を叩いた。

「緒方って、家どの辺だっけ?」
歩きながらそう聞いてきたのは、武藤だった。
「西多賀だよ」
「ウチと結構近いな。じゃあ送ってやるよ」
「何処住んでんの?」
「長町」
「前からそうだっけ?」
高校の時、そんな近かった印象は無かった気がした。
「実家は塩釜だよ」
「一人暮らしか」
「ああ、ま、そんなところ」

駅に程近い駐車場に、武藤の車は止まっていた。
仙台ナンバーのBMW。
「ずいぶん羽振り良さそうだな」
「そうでもないさ。東京と比べりゃ、給料も安いしな」
またか。
どうして東京で働いたことも無いのに、そんなことが言えるんだ。
東京への幻想に若干げんなりしながら、オレは車に乗る。


「お前、まだ結婚しないの?」
雑談の流れから、そんな話を振られる。
「予定も、予兆も、予感も無いね」
「寂しいねぇ」
「お前だって独身だろ?」
5人の中では、オレと武藤だけが独身だ。
「俺は、一生予定は無いよ」
余裕の顔つきで、武藤はそう言った。
「何それ?言い切っちゃう訳?」
「そう」
自分よりも相当年下に見えるような若作りのサラリーマンを見て、オレは奇妙な感覚になる。
まだ結婚を諦めるような歳でも無いし、収入も申し分無さそうなのに、何故。
「ちょっと寄っていく所があるんだけど、良いかな」
武藤の一言で、考えが中断される。
「ああ、良いよ」
窓の外を見ると、左側に暗く広瀬川が流れている。
昔は日常だったのに、今は思い出の中にしかない風景だ。

車は長町駅の前に停まる。
武藤は車を降りて、トランクから何かの紙袋を取り出し、一人の男に手渡した。
少し暗くて、よく見えなかったが、知り合いだろうか。
男がこちらを見る。
街頭に照らされた男の顔を見て、ハッとした。
嫌な記憶が、瞬時に蘇る。


男は、オレの大学の後輩だった泉。
オレが4年の時、ヤツは新入生として入ってきた。
同じサークルの先輩・後輩の仲で、学科も同じだったから、何かと目を掛けてやっていた。
当時付き合っていた彼女も、やっぱり同じサークル仲間の同級生。
1年生の頃から付き合っていて、何となく将来のことも考えていた程だった。

彼女と何となく疎遠になり始めたのは、4年の夏の初め。
早々に就職を決めた彼女と、9月に控えた大学院の院試に向けて勉強中だったオレ。
そのまま夏休みに入り、学生生活最後だからと声をかけてくる彼女に
オレは構ってあげられなかった。
少しくらい息抜きを、と気遣ってくれていたのに、つまらない口喧嘩になることもあった。

何も気が付くこと無く、夏休みは終盤になり、院試も迫ったある日。
久しぶりに彼女に連絡を取った。
けれど、電話に出なかった。
少しの不安を胸に、彼女の家へ行く。
彼女は一人暮らしだったから合鍵も持っていたが、念の為、チャイムを鳴らす。
時間を置いて出てきたのは、泉だった。
何をしていたのか、明らかに分かる格好をしていた。
「電話に出ないって事は、こう言うことですよ。緒方先輩」
部屋の奥で、彼女は俯いていた。
オレは何も言えず、何も出来ず、黙ってその場を立ち去った。

原付で大学へ戻る時、多分、正気じゃなかった。
よく事故らなかったな、そう思う。
全部、自分が蒔いた種だった。
彼女は、何も悪くない。
ただ、勝ち誇ったようなヤツの顔を思い出すと、吐き気がした。

結局、オレは院試に合格したものの、それを辞退した。
もう1秒も大学に居たくない、そんな思いで一杯だった。
サークルにも顔を出さず、黙々と卒研をこなして、卒業まで耐えた。
彼女とも、泉とも、学校ですれ違うことはあったが、挨拶すら交わすことは無かった。
そして、オレは、東京へ逃げた。

□ 10_鶴望★ □   
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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